/ Thoughts Of California ( Tulip Records / 1975 )
ウィリアム・モーゼズ・ロバーツ・ジュニア=ビリー・ロバーツという男。男らしく、風に吹かれたジャケの人物に相違ない。生きていれば75歳になっている。遅すぎたアルバム・レコーディング作を1975年にたった1枚だけ残したこの人物、ロック史に残る名曲を書き上げた。その曲こそは"Hey,Joe"。キャス・エリオットも在籍したビッグ・スリー出身のティム・ローズによって取り上げられ、その演奏を聴いたジミ・ヘンドリクスが再度取り上げた荒々しくも達観したロック・ヴァージョンで世に知られるところとなった。カルト的なLAのフォーク・ロック・バンド、リーヴスのヴァージョンも印象深く、それを模したデイヴィッド・クロスビーのソロ・ヴァージョンも存在する。
長い間トラディショナルであるとか、クイック・シルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスのオリジネイターだったディノ・ヴァレンティの作と伝えられてきたが、調べてみると、1962年に著作権登録されていて、ビリー・ロバーツが1956年にエディンバラで演奏した際にスコットランドのフォーク・シンガー、レン・パートリッジと共作しただとか、友人だったヴァレンティの出獄支援のためにこの曲を譲渡した、とかいうハナシが出てきた。どうりで確かにリーヴスのシングルもヴァレンティ作、とクレジットされていたわけだ。
もちろんこの曲を作る際にアタマにあったネタはあったようなんだけど、それを組み合わせて一つの作品にしたのはどうにもこのビリーさんのようなのだ。ジミをはじめ著名ミュージシャンがレコーディングしたことで、そしてそれを著作権登録したことで、人生は変わったはず。それがレコーディング作品の少なさと関係しているかどうかは判らないが、少しはあるだろう。
一曲目の"Country Music"、アップな曲で、ジャカジャカ鳴ったアコギがフォーキー出身を思わせる。時折みせるシャウトがまるでライブ・レコーディングのような生々しさだ。A面は他にもカントリー・ロッキンな"Rebound"など聴き所は多い。この曲などで聴かれるペダル・スティールはジョン・マクフィーによるものだ。B面"I Want Enemies(I Don't Need No Friends)"(凄いタイトル!)はフォーキー・ブルーズとでも形容してもいい、どう考えても同録でしょう、という息づかいの伝わる作。ディランの初期作みたいな。そして、感傷的なメロディのバラード"Thoughts Of California"が堪らなく良いんだよね。これはタイトル曲。
最近シンガーソングライターもののレコードを数枚買った国立のレコード屋がある。んでオークションでこのビリー・ロバーツを落札したら、たまたまそのお店だったので笑ってしまった。お店に行って主人に話すと、そりゃ当然、最近私が買った数枚ののレコードと同じ人が売ったモノらしい。売り主は往年のファンで、レコードくらいしか趣味がない人だが、最近レコードを手放しているらしい。数百枚処分してその殆どは売れてしまったということだけれど、その人のレコード棚の数枚が私の家のレコード棚にある、というわけだ。レコードにはビリー・ロバーツのサインが赤いマジックで書かれていた。1977年7月13日 Love,Billy、とある。
↓このアルバムには収録されていない、ビリー・ロバーツの歌う"Hey,Joe"(ライブ)。
http://www.youtube.com/watch?v=sARMCTnDcbE