/ South Coast ( Red House / 1995 )
逃げ出したくなる気持ちは分かるけれど、どうしてこんなに実情がうまく伝わらないのだろう。来日公演をとりやめる外タレが相次いでいて。もちろん、国内でもコンサートホールの都合でツアーの見直しを迫られているミュージシャンは沢山いる。でもそれとは理由は違うだろう。何しろ外国のニュースじゃあ、日本全体が全部フクシマになったような騒ぎでありまして。
風評被害にも心が痛むばかりだ。自分も同じ立場になることを感じざるを得ない。
そんなわけで、ランブリン・ジャック・エリオットも日本に来なかった。致し方ないと思いつつも失望したファンが多かったのではないかな。近所の中古屋に大量のランブリン・ジャック・エリオットのCDが売られていた。今このタイミングだから、ファンの気持ちも良くわかる。
さて、そんなわけで1995年の弾き語りアルバム『South Coast』を聴いているけれど、コレは秀逸ですな。初めてのグラミーを獲り、再評価に入った作(ベスト・トラディショナル・フォーク・アルバム)ということになるけれど、ライナーのガイ・クラーク、ジャクスン・ブラウン、ジョーン・バエズ、イアン・タイスン、グレッグ・ブラウン、ジェリー・ジェフ・ウォーカー、ドク・ワトスン、ピーター・ローワン、アーティ・トラウム、ジョン・ウェズリー・ハーディングといった人達のコメントを読むにつけ、偉大さに改めて驚かされる。ディランはジャックを越えていったけれど、フォーク、ブルーズといった音楽のトラディショナルな佇まいを守りきったということではよりジェニュインな存在に思える。
64歳の時のギター・ピッキングや歌声は流石に現在よりも力強くて、ディランの90年代の弾き語り2作よりも勢いがある。ウディの”Pastures of Plenty”、”I Ain’t Got No Home”、”Talkin’ Dut Bowl”に、かつての相棒デロール・アダムスの”Rake and Ramblin’ Boy”、ティム・ハーディンへの想いでも語った”If I Were A Carpenter”、ジェシ・フラーの”San Francisco Bay Blues”まで、代表曲を織り交ぜつつ、歌い込む。アコギや歌声もキレイに録られているから、スピーカーを大きくして浸りたい最高の仕上がりだ。
在りし日のグリニッジ・ビレッジに行きたいと夢に見たフォーク・ファンは多いことだろう。晶文社からかつて出た『フォーク・シティ』(ロブ・ウォリヴァー著・1990年)は151人のアーティストへのインタビューであの時代を生き生きと蘇らせてくれる。近年のフォーク・コミューンの所在をウッドストックの町に求めた著者による、これまたジョン・セバスチャンやジョン・ヘラルドを含めたインタビューで構成された『小さな町の小さなライブハウスから』(片山明著・万象堂・2006年)も面白いので一読をお薦めしたい。