/ Born Free ( Atlantic / 2010 )
昨年の話題作をもう一枚。アメリカン・ミュージック・アウォードを見ていたら、このキッド・ロックがアコギをバックに実にシブイ、カントリー・ロックを展開していた。コレが良かったんだな。早速買ってきましたよ。アメリカン・ロック・ファンは諸手を挙げて受け入れるはずの実にゴキゲンな仕上がり。
ここ最近のアメリカン・ミュージックの傾向を見ていると、カントリー回帰と言いますか、そんな動きがずっとありますな。90年代のオルタナ・カントリー以後、堂々としたカントリー出身のアーティストがチャートを賑わしてきていて。昨年だったらレディ・アンテベラムやテイラー・スウィフト、ザック・ブラウン・バンドとか。アルバムはどれも良い出来だった。しばらく前だとラスカル・フラッツなんかも良かったなあ。ボン・ジョビだってカントリー・アルバムを出したしね。
こうしたカントリーのメインストリームへの上昇を9.11以後の右傾化とサバいちゃうのは、ブッシュ批判のディキシー・チックスの例もあったから正確じゃないけれど、グローバル化の反動とも言える動きがあるのかな。アメリカのチャートとヨーロッパのチャートを見ると、大分雰囲気が違うもんだから。
ただ、亜米利加音楽好きにはカントリー・テイストは堪らなく心地良いものだ。ラッパーとロッカーをミックスしたスタイルとして人気が急上昇したキッド・ロックが正面切ってポップ・カントリーに取り組んだのもそんな時代の雰囲気なのかもしれない。メアリー・J・ブライジがデュエットで絡んでもとにかくカントリー。シェリル・クロウやボブ・シーガー、ザック・ブラウンもゲスト参加している。”Purple Sky”はじめ、むちゃくちゃ気持ちよいスカッとしたアルバムなのでオススメしたい所。プロデュースは敏腕リック・ルービン。ただし、独特な音作りはしていなくて。ゲスト・プレイヤーではロス・ロボスのデヴィッド・ヒダルゴやトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのベンモント・テンチなんて名前が見える。
1000万枚売ったアルバムまである人だから、その実力は計り知れない。ロックを演らせても、ラップを演らせても、カントリーを演らせても、サザン・ロックを演らせても、実に亜米利加的な(南部的な、と言ってもいいかな)個性を感じるミュージシャンの一人だ。
リーマンショック以降の不況に苦しむアメリカに”Times Like These”の”I will stand my ground, and it’s times like these we can’t replace.”(オレはここから一歩も退かないよ、こんな時代を元に戻すことはできないんだ)っていうメッセージは響いただろうな。今の日本にだって伝わるメッセージだと思う。こんな時代だからこそ、逃げも隠れもせず、地に足を付けて、努力しなきゃいけないのかもね。そういうメッセージだとすると、アメリカの魂の音楽であるカントリーに身を委ね、アメリカン・ミュージック・アウォードでこの”Times Like These”を歌った彼の気持ちも分かったような気がする。