/ Intimate ( Universal / 2009 )
紹介しないまま年を越してしまった一枚。カナダのシンガー・ソングライター、ダン・ヒルの新作だ。”Can We Try”といったデュエットもので’80s AORファンにも支持の厚い人。寡作家ながら、マシュー・マコウリーとフレッド・モーリンが手がけたシンガー・ソングライター然とした70年代初頭の諸作以来、ほぼハズレが無い。映画『ランボー』のテーマともなった”It’s A Long Road”でも有名だ。
この新作も完成度が高すぎて驚いた。セリーヌ・ディオンもビックリのパワー・バラードが目白押しで、ハリウッド映画並の盛り上げ方だね、こりゃどれも。とりわけリズ・ロドリゲスとのデュエット”(Don’t Tell Me) How I Feel”なんかは心に残った。10年くらい前に、ボブ・カーライルというCCM系シンガーが歌って大ヒットした、娘に送る結婚式ソング”Butterfly Kisses”ってのがあったけれど、その歌い方がダン・ヒルのコピーみたいに思えたのには苦笑した。ダンの個性は、自身が白人と黒人の混血であるように、その声もソウルフルでありながら、決してブラック・ミュージックにはなりえない所。そんなわけで、ソウルにもならない微妙な立ち位置になってしまった部分はあるだろうけれど、深い所でその詩を噛みしめるようなバラード・シンギングは誰にも負けない持ち味。偉大なソングライターだったバリー・マンが、ダンとの間に”Sometimes When We Touch”をはじめ、多くの共作を残したというのも、彼の才能に心底惚れてのものだったに違いない。
余りに素晴らしいな、と思ったら、プロデュースはかつての盟友マシュー・マコウリー+フレッド・モーリン。録音はナッシュビルで、あの名匠カイル・ラーニングがレコーディングやミックスを手がけている。デニス・マトコウスキーやキース・スティーガル、マイケル.W.スミスとの共作もある。モントリーオール出身のジャズ・ピアニスト、ジョー・シーリーとの共作曲も今までにないジャジーな絡みが良かった。同名の自伝を出版した後に他界した父に捧げた”I Am My Father’s Son”も心に沁みる。さらには”Sometimes When We Touch”のアンプラグド再録も全く衰え知らずの仕上がりで、新年から歌の底力を感じております。