早川義夫さん。高校生の時にテレビで見て、その歌い方や曲を聴いて、ひと目で好きになってしまった。折しも書店主から再び歌い手としてカムバックした時期だったと記憶している。それからというもの、アルバムを出る度に買い求め、ジャックスにも遡って聴いてみて。それと本も読んだなぁ。シンコー・ミュージックから文庫で出ていた『ラブ・ゼネレーション』とか、『ぼくは本屋のおやじさん』とか。『たましいの場所』も好エッセイだった。朝日新聞の書評も欠かさず読んでいたし、つげ義春を読み始めたのも早川さんがきっかけだ。もっと言うと、資本主義社会のえげつない営みにとてもついて行けないなあ、と会社勤めをあきらめた心性も早川さんに起因する。
そんなわけで、好きだ好きだといいながら10数年を経て、初めてライブを聴けたというわけだ。
とにかくなぜか緊張して客席に座り…1曲目が"サルビアの花"ですよ!!参りました。リズムを取りながら鍵盤を叩き、歌うご様子はテレビで見たままだった。2部編成のステージだったが、記憶に残った唄を挙げてみると、"音楽""父さんへの手紙"が白眉で、その他にも"パパ""嵐のキッス""身体と歌だけの関係""H""猫のミータン"といった所かな。心に湧き上がる素直な気持ちを当たり前のように素直に歌っていて、これこそが歌なのだと思う。近頃、喜怒哀楽を押さえつけるのが善とでもいう社会常識が幅をきかせているけれど、そんなことをしていると素直な気持ちを表せはしない。まあ、それを押さえつけているのが恥じらいであるならば、悪くないとも思えるけれど。いずれにしても、素直に気持ちを出すのは気持ちが良いモノだ。
そしてそして、"からっぽの世界"や"いい娘だね"といったジャックスのナンバーにはもう、狂いそうな気分で。ベースとドラムスはいないけれど、佐久間さんの狂気のギターのかきむしりはサイケデリックなジャックスの怪演を思わせるか、それ以上だったと思う。熊坂るつこさんのアコーディオンも感情の起伏をぐいぐいと伝えてくれる。早川さんの音楽は静のようで動だ。どう考えても音の節々にロックが鳴っている。
珍しいところでは、野坂昭如の"黒の舟歌"。リクエストに応えたモノとのことだが、早川さんの音楽性にとてもマッチしていた。「野坂昭如みたいにサングラスを掛ければ小説が書けるかも、とサングラスを掛けていたけれど、小説は書けなかった」と仰っていた。
"黒の舟歌"を聴いて思ったけれど、早川さんの音楽には分かり易い「影響」が見えないと常々感じていて。でも、日本のプレ・ロック世代の流行歌・歌謡曲みたいなものに一つのルーツがあるのなのかな、と思ってみたり。エンケンさんにも似たところがあって、そこが単純なはっぴいえんど的洋楽模倣型とは一線を画し、ロックの音作りをしつつも独自の地位を築いた(しかし大衆に理解もされにくかった)理由なのかな、なんて。
まあそんな分析も実はどうでも良くて、早川さんが気持ちよい歌を気持ちよく歌っている。見ている私はそれだけで良い気分だった。
また必ずやお目に掛かりたいな、と思う。