/ アンダーグラウンド・リサイクル ( off note on-44 / 2003 )
なんていったらいいんだろう。こんなカバーアルバム。渡辺勝という人はその仙人のような風貌も含めて、URC(アングラ・レコード・クラブ)というレコード会社の持っていた60年代、70年代初頭のアンダーグラウンド性をいまだに抱えているような所があって。
で、そのタイトルがアンダーグラウンド・リサイクルでしょ。ディープな楽曲を再利用ってんだけど、この再利用の仕方は普通じゃないよ。工夫だとかなんとか言うんじゃないくてしぶとい感じ。俺が屋台骨だったんだよ、っていう。
扱っているのはあくまで自身が関わっていたURCもの。岡林信康(愛する人へ、自由への長い旅)、斉藤哲夫(悩み多き者よ)、加川良(偶成、鎮静剤)、あがた森魚(冬が来る〜冬の祈りⅠ・Ⅱ・Ⅲ、神さまなんているのかい、漆黒の雨)、はちみつぱい(センチメンタル通り)、休みの国(追放の歌、夕焼け地帯、オールライト)、早川義夫(朝顔、埋葬)という徹底っぷり。同時代にかなり近い場所にいた人々の楽曲に新たな魂を吹き込む。
ただ事じゃない震えた声色を聴いていると、早川義夫が拒み続けている何かと同質のものを感じてしまう。
岡林の涙が出るくらいの名曲”愛する人へ”が始まる辺りでもうおかしくなってしまいそうに感動がほとばしる。”自由への長い旅”はできそこないのサンバみたいになっているのが全くもって良く解らないのだけれど、ただ事じゃないんですよ。
自身が在籍していたはちみつぱいの”センチメンタル通り”の情感にはグっと来るものがあった。あまりにも被ってしまうからか、あがたの数曲や加川の2曲、”追放の歌”などではボーカルを他人に譲る。”追放の歌”を歌うのは知る人ぞ知るSSW、オクノ修だ。ジャックス早川の2曲は声の持つ暗さが呪術的ですらある。
で、ベストテイクは斉藤哲夫の”悩み多き者よ”かな。斉藤のURCにおける大名盤『君は英雄なんかじゃない』は渡辺勝の助力無くしては完成しなかったことがよく判る。このピアノのイントロなんですよ。これなくしては。岩井信幸の沖縄民謡を思わせるハーモニーが乗っかって、40年前の楽曲が新たな地平に漕ぎ出しているのが見て取れる。
ラストの”ハッティ・キャロルの淋しい死”もあがたの『蓄音盤』ヴァージョンで素晴らしかった。同じディランの曲でもたくろうになれば“準ちゃん”になってしまうわけで。
いやはや76分間、濃いわ濃いわ。