/ Same ( Family Production / 1972 )
フィル・スペクターの元でライター契約していたアンダース&ポンシア。彼らの『ポップ・ワークス』なるコンピを買ったのは確か高校生の時。たまたまレコード屋で発見し、唯一知っていた”New York’s A Lonely Town”が入っているコト、大滝詠一が推薦文を書いているコト、そして永井博のジャケを信じて奮発購入。しかし、今となっては信じられないのだが、この良さを理解するまでに何しろ時間がかかった…。ソフトロックを一通りして、クリッターズやジノ・クニコのソロなんかも聴いて、バリー・マンにいかれて、やっとその真価を理解。メロウで洒落たメロディに乗っかってくるイタロ独特の臭くソウルフルなボーカル。この良さが何であの時わからなかったのだろう。”Do You Believe in Magic”を初めて聴いたのもイノセンスの音だった。
このピーター・アンダースのソロ盤はキャロル・キング『Tapestry』に始まる70年代初頭のSSWブームの中に位置づけられる一枚。ファミリー・プロダクションからの作で、バートン&クニコ(ヘレン・レディのフェミニズム賛歌 ”I Am A Woman”を書いたレイ・バートンとジノ・クニコのデュオ)やジェリー・ゴフィンがソングライティングに関わり、デビュー直後のイタロ・ピアノマン、ビリー・ジョエルのピアノ参加も見逃せない。その他プレイヤークレジットにはダニー・クーチ、エリック・ゲイル、ポール・ハリス、ブライアン・ギャロファロ、リー・スクラー、クライディ・キングらの名が。
スワンピーなA-1”You’re Safe Now”で始まるがゆえ、ポップさが減じられているように思われ損をしているが、A-3”She’s All Heart”など些細な曲をとっても、メロは実にキャッチー。A-2”Let Me Know The Truth”は早々にスケールの大きい感動作。ピーターのソウルフルな喉に酔う。また、ジェリー・ゴフィンが作詞したバラードA-4”My Love Don’t Die Easy”はA面のベスト。
しかし何と言ってもズバ抜けているのはB-1”Yesterday’s Too Many Dreams Away”の自演。この美麗なメロの流れよ。何とも甘酸っぱいアンダースのポップスの最高峰。共作したジノ・クニコがオリジナルだが、同じくファミリー・プロダクションからの1974年盤『Gino Cunico』(アリスタからも同名作があるから紛らわしい)にもピーターとの共同アレンジで再録している。ソウルフィールいっぱいのピーターの単独作B-2”You”も好み。B-3”Till It’s All Blown Away”はB-1と同様ジノ・クニコがシングルで歌っていたもの。『ポップ・ワークス』で聴ける。佳曲だが、本作の流れではちょっと浮いた感じも。期待してしまうアンダース&ポンシア作のB-4”On Your Love”はR&B調でイマイチ。
アンダース&ポンシアだが、片やポンシアがプロデューサーとしてリンゴ・スターやキッス、メリサ・マンチェスター、ムーヴィーズなどを手がけてヒット街道まっしぐらだったのに対し、ピーターがコンビ解散後不遇だったのはなんだか哀れだ。時代におもねる事が出来なかった愚直なディープ・ヴォイス。もう聴けないと思っていた彼の声だが、『The Very Best of BRIAN GARI』に収められた1994年のブライアン・ギャリ・プロデュースの2曲、”Marryin’ Kind of Love”(クリッターズへの提供曲)、”I May Be Wrong” にて邂逅。全く変わらぬ素晴らしい喉に、涙出そうになりました。ちなみにこのベスト盤、アンダース&ポンシアを思わせるノホホンとした好ソフトロック曲”The Ashville Union Rescue Mission”やドン・マレイ名義でのドン・シコーニ1972年のシングル”Bicycle Ride”(フィフス・アヴェニュー・バンドと並ぶクオリティの一品!!)が聴けるだけでも買い。ドン・シコーニは二日前にブログで取り上げたトミー・ジェイムス&ザ・ションデルズの再結成にも一枚噛んでいる。フランキー・ヴァリ周辺とも繋がる、つくづく恐るべし、イタロ・コネクション。