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お茶の水は今も現役の学生街であるが、それゆえ古書店密集地域として古くから有名。古本好きの私としてはそれだけでもヨダレが滴るのだが、のみならず、楽器・レコード屋も密集するまさに聖地メッカ!!全くもって巡礼の地に相応しい。一度訪れれば、たちまち誰もが両手にレコード、背中に古本、右肩にギター、とまあそんなお金があったら欲しいものだが。
ということで3月某日満を持して出発。九段下で下車し、交差点の角の、いつからあるのかよくわからないが潰れずにある化石のような中華屋で「中華そば」としか形容しようのない400円のラーメンを食し、右翼な印象の九段会館からまさに右から左へと流して靖国通りを行く。途中、築80年の重要文化財級のボロ建築「九段下ビル」をしっかりと鑑賞してから、いくつか古書店を見て廻るのだが、江戸時代の字引なんてのも1000円くらいであるからスバラシイ。まあ取りあえず今回は音楽に集中すべく音楽専門の古賀書店にお参り。店の半分は楽譜だが、そのまた半分はムックやらミュージシャン本などなど。クラシックばかりでなく、ポピュラー音楽書籍も売れるからか結構置いてある。いやあしかしこの辺りはサラリーマンに混じって定年後の男性が相当うろうろしていて実に浮世離れしているが、どっしりとした歴史の重みを感じさせるのが良い。レコード屋という風情の店が残っていたりもするし、ある種のタイムスリップシティ。往年のアイドル写真集や古いグラビア誌なんかにがっついているマニヤ群を横目にああはなりたくないな〜、などと呟きつつ(まあ実は私も単に求める対象が違うだけなのデスガ…)、古本を見過ぎて時間も無くなったので神保町と御茶ノ水のチェーンD・Uで急いで漁る。ナカナカ、だったのはCDのほう。The OrleansのJohn Hallが全面的にバックアップしたJonell Mosserの『So Like Joy』、Steve Young『Switchblades Of Love』(1993、Steven Solesのプロデュース)、Erik Daringの復活作『Child, Child』(2000)、買い逃していたJason Mraz『Waiting For My Rocket To Come』(2002)、そしてChuck Broadsky『letters in the dirt』(1996)なんかが100円箱に。どれもとても素晴らしかった。そういえばSteve Youngと言えば最近入手した弾き語りライブ盤『Solo / Live』(1991)も”Seven Bridges Road”はじめディランの”Don’t Think Twice”やMentor Williams作”Drift Away”なんかもカッコイイギターアレンジで入っていてこの放浪フォーク歌手の実力に感心させられた。1995年に遅いデビューを果たしたフォーク歌手Chuck Broadskyの2作目は100円では勿体無い位のマサカと思う素晴らしさ。調べてみると一曲目は40年代ニグロリーグ初の白人選手だった男Eddie Kleppに捧げた曲だった。とにかく必聴です。アメリカは新しい世代のフォークミュージシャンもちゃんと育っている。
さらに明大通りとの交差点辺りに最近出来た、おそらく潰れたレンタルショップの在庫を捌こうという魂胆の激安ショップにも一応立ち寄る。予想していなかったが、Niagaraものでは1986年のスリムケース『ビーチ・タイム・ロング』、同じく1986年のスリムケース『ナイアガラ・トライアングルVOL.1』(最近また出てしまったが…)を状態は悪いがそれぞれ780円で入手。もちろん何枚も持っているものだが、エコーの深い吉田保ミックスの含まれた後者は、ロンバケの感触で楽しめる。ちなみにレンタル落ち市場で頑張れば『ナイアガラ・フォーリン・スターズ』などもこうして発見することが出来るんだろうが、そこまでする気力は私にはもはやない。それ以外、フォークだと思ってバカにすると怒られる伊勢正三のAOR盤『アウト・オブ・タウン』(1987)やグレン・メディロスの甘ったるいAORバラードがコレデモカと詰まっている名盤『変わらぬ想い』(1987)をそれぞれ180円で買っておく。さらに、そうです御茶ノ水には貸しレコード屋の匂いを色濃く残す老舗「J」がある。ここは洋邦ロック、SSW、AOR、ソフトロック、プログレ、カントリー、ワールドミュージック等ナド全ジャンルにおいて、普通レンタルじゃ借りられないだろう、というマニアックなCDやレアな廃盤モノ、ボックスセットまでドドっと揃えてくれた名店なのだが、ここでは音楽文化に貢献したい気持ちはやまやまだが今回だけは視聴目的に、というか正直言って買う金がないので高額ボックス『日本の放浪芸』7枚組をレンタルすることにした。まあ実際いつかお金が貯まったら買いますです、ハイ。これは俳優小沢昭一を現代の柳田国男だと言わしめた最高傑作。バナナの叩き売りに懐かしき紙芝居、飴売り、演歌師に法界屋、見世物小屋の呼び込み…という権力の庇護の下になかったため存在を評価されなかった芸を歩き集めた労作なのである。とにかく圧巻。小沢氏のナレーションがところどころ録音にかぶせて入ってしまってはいるのだが。ちなみに補足だがこの店、返却は宅急便でも可なので、遠方から詣でる場合も問題ない。
まあそんなわけでさほど身入りのない旅にはなったものの、帰り際駅構内の催事場でThe Mamas & The Papasの廉価盤ライブ『Live In Concert』を980円で入手。ジャケットは違えど同じ音源のものが多く出回っているが、こういう海賊盤の類は実に侮れないもので、ナント、リーダーJohn Phillipsのかつての盟友Scott McKenzieがDenny Dohertyの代わりにメンバーに入っている。おそらく90年代、John生前の再編ママパパのライブのものだろうか。Scott参加ということで”San Francisco( Be Sure To Wear Some Flowers In Your Hair )”もママパパバージョンで聴けるが昔どおりの美声でとても良かった。