/ Same ( Polydor 46253 / 1965 )
おととしの完成度の高いライブ盤『Greatest Hits Live』や昨年出た新装版バラード集『Fade Into Light』に収められたカバー”Love T.K.O”などを聴くにつけ、実に歌の上手い人だなあと改めて再評価しているBoz Scaggs。2003年の本格的なジャズボーカル盤『But Beautiful…』でもコクのある歌声が実に素晴らしかった。元々ブルース/R&Bを出自としているシンガーだが、ホワイトソウルという趣きの”AOR”の大御所として語られることも多い。とはいえ紆余曲折を経てもやっぱりこの人のやっていることは筋が通ってるなと思わせられる。隠し味程度に時代の粉を振りかけることはあっても、時代に媚びる音作りをする人ではなかった。
そう考えさせられるのが、Steve Miller Band参加前の若かりしBozが放浪先のスウェーデンでレコーディングの機会を得たという1965年のデビュー盤だ。さすがに21歳のBozは若い。モデルはもろに、ハーモニカをぶら下げてギターをかき鳴らすBob Dylanだ。全編Bozの弾き語りだが、チャキチャキと小気味良いギターが冒頭のA-1”Steamboat”から心地よい。A-4”You’re So Fine”と共にシャッフル調のブルースだが、こういう艶のあるボーカルの個性は、Dylanにはないもの。とても良い。A-2”Baby Let Me Follow You Down”とA-3”Girl From The North Country”は相当ディランになりきって歌っていて微笑ましいが、ギターもハープも達者だ。Bozはディランを買っていた模様で、”多くの人が(ディランの音楽に触れる機会が無く)、バーズにはない本物の音を聴くことができないのは残念だ”、とライナーに書いている。A-5”Got You On My Mind”はClaptonも『Reptile』でカバーしていた有名曲だが、ここではゆったりとユニゾンで歌っている。A-6はArthur Crudupの、というよりもElvisの”That’s All Right”をガチャガチャしたストロークのディランスタイルで熱唱。熱い。
B-1”Hey Baby”はのどかなハープが心地良いアップな一曲。B-2”Gagster Of Love”はR&B節全開。ヒップなGeorgie Fameスタイルをギター一本で表現したかのよう。こういう音楽はありそうでなかなか無い。Georgie Fameもそうだが、黒っぽいのに黒っぽくない。ちなみにGeorgieと同様、Mose Allisonに敬意を表するBen Sidranは、Bozと一緒にSteve Miller Bandの一員だった。B-3”How Long”は先ほどのA-2とギタースタイルが似ているか。スタンダードなブルーズをここでは自分のものにしている。さらに以下もB-4”Let The Good Times Roll” 、B-5”Stormy Monday Blues”、B-6”C.C.Rider”と有名曲のオンパレード。B-5なんかはブルーズにイカレた若者の歌唱としては、なかなかのもの。どうしても音と選曲でDylanと比較してしまうのだが、この時点で個性はすでに別物だったのだ。この辺りを聞いたところで、スタンダードから自身のヒット曲までも料理している近作のパフォーマンスを聞いてみると、そこにはストイックにブルース/R&Bを一貫して愛してきた男が確かにいる。年齢と共に加わった渋みと深い味わいはこれまた格別のものだ。