いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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小林亜星 / 絵のない絵本

*[日本のフォーク・ロック] 小林亜星 / 絵のない絵本(Warner / 1976)

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小林亜星さんが亡くなったとのこと。88歳ですから、大往生と言ってもいいのではないだろうか。「この木なんの木」でタッグを組んだ伊藤アキラさん(この人もコピーライター的センスを持った才人でした)も一ヶ月ほど前に亡くなられましたが。しかしこの人、寺内貫太郎一家という主演作もあるけれど、作曲家にしてはキャラが立ちすぎていた。”北の国から”のような演歌から、CM、アニソン…と親しみやすいメロディを紡ぐ昭和の天才だったように思える。

 

CMソング“パッとさいでりあ”は、エレックレコードでデビューした とみたいちろう が歌っていたけれど、小林本人の自演もあったな…と思い出しつつ、彼の自演盤が他にもないか探していて。つい先日見つけたばかりだったのが、1976年の『絵のない絵本』というシンガー・ソングライター風な作りのLP。ワーナー・パイオニアエレクトラレーベルの白プロモだったので、余り売れなかったのだろう。ジャケットには『絵のない絵本 1 』とあるけれど、『2』が出ることはなかったようだ。

 

阿久悠さんが詞をプレゼントしてくれました」と明記されている”珈琲屋で待っとれよ”を除き、作詞・作曲・編曲・唄を小林亜星が務める。演奏は猪俣猛、石川晶、杉本喜代志、赤川正興、江藤勲…といった腕利きばかり。コーラスには伊集加代(子)、梅垣達志などが参加。

 

1曲目”おばあちゃんのぜんまい時計”に合わせて、実際にネジ巻時計を巻き、小林のため息まで入り、オルゴールが流れるイントロにはちょっとビックリ。”空に星がひかるとき”は”どこまでも行こう”のソングライターらしい、見事な和製カントリー。個人的には小学生の時、”どこまでも行こう”がとにかく大好きだったから、カントリー好きの素養を開花させてくれたのは彼だったのかも(笑)あとは掛け声をブルースに仕立てた”金魚売り”もなかなか良いし、フォーク調の”小鳥たちのレストラン”やクレイジーキャッツ風な”なんじゃろこーりゃ”などを聴くと、器用な作曲家だったことがよくわかる。

 

晩年は服部克久さんとの「記念樹」裁判(”どこまでも行こう”の盗作を巡る)のニュース以降、余り話題を聞かなくなったような気もする。この裁判があったとしても、服部克久さんの音楽的業績が揺らぐことはけしてないと思っているけれど、小林さんは創作の根本を揺るがす事態と捉え、そこに最後のエネルギーを注いだのかもしれない。

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平尾昌章 / 平尾とロック

*[日本のフォーク・ロック]  平尾昌章 / 平尾とロック(KING / 1958)

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日本のロカビリーの草分け的歌手であり、作曲家としても歌謡界の超大御所となった平尾昌章(のち昌晃)。彼のデビュー・アルバムは、1958年の10インチ『平尾とロック』。コレ、長年探していたけれど、遥か62年前、しかも10インチ(SPと同じサイズ)ということもあり数が無く、いずこでもエライ値がついてまして。それが先日たまたま某レコ屋チェーンにて1000円台で発見!とうとうレコ屋も『平尾とロック』の価値すらわからなくなったか…とほくそ笑んで帰宅(検盤はしない主義)。開けてみると、コンディションはDランクのボロ盤、しかもジャケは破損していて裏面の「ダイアナ」の歌詞の所だけ定規を当ててくり抜かれているという(笑)うーん、妥当かな。でも、自分がレコ屋ならコレでも3000円くらいは付けるな、とか思ったり。盤を磨いて、ジャケも汚れをふき取り補修して、いざ聴いてみる。

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いいですね、改めて。”五木の子守歌ロック”には日本のポピュラー音楽のルーツが全て詰まっている。外来のビートに民謡的こぶしを交えて成立する歌謡性の絶妙なバランス。日本のフォークの売れ線も、80~90年代のBOØWYB’zも、現代のback numberやヒゲダンも、形は違えど結局こぶしの歌謡曲(しかもその類しか日本では売れない)ってことを考えると、示唆に富んでいる。流行るドラマに、時代劇風に見得を切る「決めシーン」があるのと一緒かな。ジャケットも「MASAAKI HIRAO」は横書き、「平尾とロック」は縦書き。

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初めてロカビリー期の平尾音源をCDで聴いたのは、1997年にP-Vineから出た『マーチャン大いに歌う』。これは素晴らしいコンピレーションだった。五木ひろしの”夜空”が生み出せた理由も理解できた。で、イギリスのリイシューレーベルBigBeatが2013年に画期的なコンピを世界発売するんですよね。Masaaki Hirao『Nippon Rock 'n' Roll: The Birth of Japanese Rokabirii 1958-1960』ってやつ。”Rokabirii” (ロカビリィ)ってのがいいですよね。しかも「MASAAKI HIRAO」が縦書きになっている。英語圏からすると、アルファベットを縦書きにすると日本ぽい、という発想ですね。コレ、23曲入りのCDと共に、10曲入りの10インチ形態もリリースされまして。滑らかな英語~日本語を巧みにチャンポンする彼のボーカリストとしての力量はワールドワイドなリスナーの耳に耐えうるもの。ちなみに『平尾とロック』のジャケ写をそのまま使っているけれど、地面につける足の角度がちょっと違っているという、どうでもいいことにも気が付きました。

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Walter Hawkins / Selah

*[ソウル] Walter Hawkins / Selah(Fantasy / 1972)

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60年代後半のロック・ミュージックが全盛を誇った時代に、ゴスペルをポップ・フィールドでヒットさせたのはエドウィン・ホーキンス・シンガーズ。誰もが知っている”Oh Happy Day”ですよね。リードを歌っていた女性ボーカリストで言えばドロシー・モリスン。1970年のブッダ盤はニュー・ソウルの時代の空気とも呼応した最高のポップ・ソウルだった。ちなみにビートルズの”Let It Be”やサイモン&ガーファンクルの”Bridge Over Troubled Water”も、ベトナム戦争の疲弊を癒さんとするそんな時代の流行に敏感に反応したものだった。

 

そのエドウィン・ホーキンスの兄、ウォルター・ホーキンスもメンバーの一人。彼が1972年にファンタジーからリリースしたソロ作『Selah』がこれまた素晴らしい盤で。先日たまたまレコ屋のゴスペルの棚で発見。ボーカルにダニエル・ホーキンス、ライネット・ホーキンスという名前を見つけて、ファミリー・ゴスペル・クワイアから発展したエドウィン・ホーキンス・シンガーズ絡みでは?と思ったらやはり、でした。この時代のファンタジーと言えば、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)。そのトム・フォガティ(ジョン・フォガティの兄)がプロデュースしているというのも驚きだった。名前を貸しただけかもしれないけれど。

 

楽曲とボーカル、そしてグルーヴィーなバッキングは素晴らしいの一言。クロスオーバーな時代の空気かゴスペル色は薄められていて、ソウル・ファンをも満足させる作りになっている。しかしロック色の強い”It Pays”に始まり、ニュー・ソウルな作りの”Train”やスムースな16ビートの”How Long”(泣きのギターソロはやヤバすぎる)なんて、80~90年代のトラックのように聴こえなくもない。極めつけは本作唯一のカバーだったジミー・ウェッブ/リチャード・ハリスの”MacArthur Park”。これはセンスが良い。ブラコン的な音作りが1972年にしてすでに完成されていたことに驚かされる。

 

ちなみにウォルターは弟のエドウィンに勝るとも劣らない作品をレリジャス・レーベルから数多くリリースしている。ポップ・フィールドではマイケル・ボルトン(1987年の『The Hunger』)やヴァン・モリスンと、ソウルではジェフリー・オズボーン(1986年の『Emotional』)など多くのアルバムで歌っている。

Hoagy Carmichael / Mr Music Master

*[ジャズ] Hoagy Carmichael / Mr Music Master(Coral / 1965)

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ホーギー・カーマイケルといえばスタンダードの”Georgia On My Mind”や”Stardust”、”Hong Kong Blues”の作者。シンガー・ソングライターの先駆けと言っても良い人。こういう小唄系の弾き語りは大好き。マット・デニスとか、ボビー・トゥループとか。ご本人の文章で読んだのかな、南青山のレコード店パイド・パイパー・ハウスで長門芳郎さんが1975年にホーギーのMCAのベストのカット盤を仕入れて、ベストセラーになったのだという。マニアックな音楽ファンって、いつの時代にもそんなに多くはいないわけだけれど、そのマニアックなファンの裾野を地道に広げる啓蒙活動が重要だと思う。今も日本の音楽ファンにホーギーの音楽が比較的知られているのは、そこに端を発するのだろう。細野晴臣泰安洋行におけるカバーしか知らない、という所で終わっていたかもしれないわけだし。いまYouTubeの時代になったからと言って、音楽の世界が無尽蔵に広がるとも限らない(むしろ全体的にその選択肢は狭まっていく)ということは、皆さんもよくわかっていることだと思う。

 

個人的な所でいうと、20年以上前でしょうか。細野さんの”Hong Kong Blues”のカバーやレイ・チャールズの名唱”Georgia On My Mind”、そしてアート・ガーファンクルもカバーした”Two Sleepy People”あたりからホーギーに辿り着いたはいいが、音源が聴けなくて。まだレコードを20枚も持っていなかった頃かな。高田馬場の中古屋で1982年のベスト『The Stardust Road』というのを手に入れまして。コレが嬉しくて聴きまくりました。

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で、パシフィック・ジャズ1957年の『Hoagy Sings Carmichael With The Pacific Jazzmen』ってやつの日本盤も買いまして。CDも何か持ってたはずだが、今すぐには出てこない。ジョージー・フェイム、アニー・ロスとご本人による1981年のトリビュート盤『In Hoagland 1981』やジョン・サイモンの『Hoagyland』という長門さんのドリームズヴィル盤もよく聴きました。

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いつの日かホーギーのSP盤に手を出したいのはやまやまだけれど、SPに行っちゃうと色々なものが音を立てて崩壊することが目に見えているので(笑)。一番良い音で聴けるのはなんだろう、と思うけれど、オリジナルのLPすら余り見かけたことがない。かと言ってアメリカから買うのも…トランプ時代あたりからですかね、アメリカからのレコ空輸の送料がやたらと高くなって。円が弱くなったってのもあるんだけれど、アメリカのレコを外に出させないような内向きな時代の空気を感じました。安価な船便もなくなっちゃいまして。それと団塊の世代ぐらいの中古レコ屋の店じまいに伴い、いつも手もみでメール応対してくれていた店主が急にそっけなくなったりも(笑)そんなこんなで取り寄せる術が狭まった所で、1965年にイギリスでリリースされたベスト『Mr Music Master』を先日発見。1970年の再発だけれど、音がとても良かった。レコ屋での偶然でアナログな出会いが嬉しい。”Georgia On My Mind”のギターはペリー・ボトキンだとか(息子のペリー・ボトキン・ジュニアは著名なアレンジャー)、”Hong Kong Blues”のドラムスは冗談音楽でこれまた最高なスパイク・ジョーンズだったという発見も。しかし現在の香港は違う意味でブルースですね。ああいう原理主義的で排他的な中国共産党のあり方は、実はココ日の丸の国でそのあり方を批判する人の考えと実はよく似通っていて、そんなことをやっている限り、オリエンタルなジャズなどという文化が生まれる余地はなくなってしまうだろう。

Wynonna / Revelations

*[カントリー] Wynonna / Revelations (Curb / 1996)

 

ここ数年は新譜を除き、1:20ぐらいでレコードになっていたけれど。何だかここのところ、レコのみならず、CDの愛おしさに改めて目覚めている。90~00年代にどれだけのCDを買ったことだろう。それが数年前の引っ越しの時にCDとブックレットだけ残して、プラスチックの家が建つぐらいの(笑)CDプラケースを捨てたことで一旦踏ん切りがついたのだった。それがまたCDを愛おしいと思うのは、90年代から00年代初頭あたりまでの新譜が、サウンドもプロダクションもゴージャスだったなぁと思い直しているから。普通に売れた盤を今聴いても、余り古くなっていないし、むしろレコーディングの質が高いから、音が良い。ある意味、戦後ポピュラー音楽の到達点だったのかもしれないな、と。あとは60~70年代のミュージシャンが、死ぬ前にもういっちょ売れるぞってな気概で元気に頑張っていたのも大きい。今思えば、自分と同じ40代なんだけれど。自分に照らしてみると、今からもういっちょっていう気力はない。ってか、まだ売れてないし(笑)ロストジェネレーションとはよく言ったもので、我々世代はゴールテープを切ることのない、宮台真司言うところの「終わりなき日常」を生きる宿命を負わされてきたのだとつくづく思う。

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そんなボヤキはいいとして、1996年リリース、The Judds(ワイノナ&ナオミ・ジャッド)を経てソロになった女性カントリー歌手ワイノナ・ジャッドの『Revelations』エリック・クラプトンが翌年カバーしてヒットした”Change The World”のオリジナルが収録されている盤として、忘れがたい(クラプトン版の方が当然売れる作りになっている)。

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youtu.be

CCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)のライターであるゴードン・ケネディ(White Heartのメンバー)、ウェイン・カークパトリック、トミー・シムズのコンビが手掛けた”Change The World”。リリースされた時代、ディキシー・チックス、ガース・ブルックス、フェイス・ヒルなどアメリカの若手によるカントリーのシーンが賑わいつつあった。常にアメリカのシーンに目配せしてきたクラプトンらしいカバーだったと思う。この流れからテイラー・スウィフトが登場することになる。ソングライターでいうと、80年代初頭にソロを出し、1989年に再デビューしていたベス・ニールセン・チャップマンが引っ張りだこだった。当時はアコースティックを基調とした新作カントリー・ロックとして、普通に聴いていたけれど、今思えば、アメリカーナというある種ナショナリスティックな文脈の音楽ジャンルが形成される萌芽だったのかも。グローバリゼーションいけいけドンドン時代の反動の産物。ちなみにディキシー・チックスは近年南部の保守性を想起させるディキシーを取っ払って”チックス”と名乗るほどのリベラルなのだけれど(テイラー・スウィフト同様)、こちらのワイノナ・ジャッドはタイトル『Revelations』からもわかる通り、割とキリスト教保守派寄りの典型的なカントリーということになる。レーナード・スキナードの”Free Bird”のカバーまでありますので。ただし、楽曲は最高。ゲイリー・バー、デイヴ・ロギンス、ゲイリー・ニコルソン&デルバート・マクリントン、トニオKなどの腕利きが楽曲を提供。アソシエイト・プロデューサーのドン・ポッター(シンガー・ソングライターもののファンにはマグラス&ポッターやダン・ヒルのバッキングでも知られる)が手掛ける王道のカントリー・ロック・サウンド。現イーグルスのサポート・メンバーであるスチュワート・スミスや名手ダン・ハフ、ウィリー・ウィークス、マット・ローリングス、ジム・ホーンなども参加している。久々にThe Judds1984年の『Why Not Me』も聴いてみたけれど、こちらもドン・ポッターがバンドの仕切りで、ビル・ラバウンティの"Drops of Water"のカバーやケニー・オデル、デニス・リンドの曲も入っていた。

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Alan Arkin / Folk Songs (and 2 1/2 that aren’t) - Once Over Lightly

*[フォーク] Alan Arkin / Folk Songs (and 2 1/2 that aren’t) - Once Over Lightly ( Elektra-21 / 1955 )

 

昨年11月28日に行われた鈴木慶一さんのミュージシャン生活50周年記念ライブat Billboard Live TOKYO。コレ、配信で観たけれど、素晴らしかった。糸井重里がデザインしたゲーム「MOTHER」のサントラを完全再現してみせるというもの。ムジカ・ピッコリーノで鈴木と共演していた斎藤アリーナ坂本美雨、スカート澤部渡らとともにダニエル・クオンもゲスト参加していて。絶妙な人選に思えたダニエルの”FLYING MAN”はコンサートの中でも白眉だったと思う。

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そのダニエル君から1~2年前に探してほしいと頼まれたのが1955年にリリースされたアラン・アーキンの10インチ『Folk Songs (and 2 1/2 that aren’t) - Once Over Lightly』。レコード番号から、ジャック・ホルツマンが1950年に作った名レーベル、エレクトラの21枚目の作品だったことがわかる。アラン・アーキンはエリック・ダーリング、ボブ・キャリーと共にフォーク・グループ、タリアーズのメンバーだった人。ただ、現在は超大御所アカデミー俳優としてのイメージの方が強いかもしれない。とはいえおよそ65年前のソロ・レコード、しかも10インチ、フォーク関係は結構集めてきたつもりだったけれど、日本ではお目にかかったことがない…ということで、結構探した挙句アメリカから取り寄せた。そんなことで先に聴かせてもらったけれど、ガットギターの弾き語りでアランが美声を響かせる、文字通りモダンなフォーク・レコードだった。その後ダニエル君に渡しがてら聴いたけれど、やっぱり素晴らしく、ダニエル君も唸っていた。

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そんなわけで、やっぱり自分も欲しくなってしまって、また結構探しまして(笑)いま手元にあるというわけ。大好きなカウボーイ・ソング”Colorado Trail”の一番良いヴァージョンも入っている。10インチのライナーにも書いてあったけれど、カール・サンドバーグが採取して1927年に出版したアメリカン・ソングバッグ(The American Songbag)に収録されて世に知られた曲。1960年のキングストン・トリオ版より5年早く、アラン・アーキンが取り上げていたことになる。”Kisses Sweeter Than Wine”も素晴らしいテイクだし、アルバム・タイトルの”フォーク・ソングス(2と2分の1は違う)”にもユーモアを感じる。

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87歳でご存命、まだ歌っている!

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永遠のロンバケと、ブランディンと

*[コラム] 永遠のロンバケと、ブランディンと

 

緊急事態宣言またですかっていう。笑うしかないくらいの状況。偉そうなことを言えるほどの者ではありませんが、どっから連れて来たんだろ、みたいな、身近な社会じゃ見かけないレベルで呂律の回っていない方とかアナウンサーとかに国や自治体のかじ取りをさせてしまっている私たちの責任は重い。それでも彼らの方がマシとか言っている人もいるガラパゴスなこの国が津々浦々変わるまでに、あと20年はかかるだろう。考え方は色々あるんでしょうけれど、真面目にやってる人が馬鹿を見るような社会であってはいけないとつくづく思う。

 

さて新年度前後、職場が変わったりバタバタしていたけれど、レコ欲はいぜん衰えず。そういえば先日、ご近所で家族ぐるみのお付き合いをしているお友達に湘南・茅ヶ崎に連れて行ってもらいまして。烏帽子岩を眺めつつ、もの凄い自然のエネルギーを受け取れる土地だなと思った。そしてあのブランディンにも連れて行って頂けました。サザンオールスターズの名付け親でもあり、レコードいっぱいの宮治淳一さんのお店。室内の景色がほとんど我が家と一緒(笑)ということで、妙に落ち着いたし、コーヒーも大変美味しかった。たまたま前の職場で後ろに座ってた方が奥様の宮治ひろみさんと郷里で同級生でいらっしゃったという偶然もあったので、そんな話も。

 

宮治さんによれば、アトランティックに比べてワーナーの方が権利関係にしっかりしている分、権利者へのコンタクトが複雑で再発できないシングル・オンリー盤が多いんだとか。コレは非常に納得した。『ワーナー・ポップ・ロック・ナゲッツシリーズはそういう意味でも労作だったのではないだろうか。レコードに狂って行きつくとこまで行くと、最後はやっぱりシングルに行きますよね。ワーナー70年代のあの深緑のアメ盤45回転シングルを見つけると、それだけで色めき立ってしまう。で、2ドルで送られてくる客寄せサンプラーだったあのロス・リーダース(以前ブログに書きました→https://merurido.jp/magazine.php?magid=00023&msgid=00023-1428131789)の話にもなった。もしかしたらアラン・ゴードンの『The Extragordonary Band』がお店にあるかな…と思い尋ねてみたら、探してもらったけれど、残念ながら無かった。タイガー・リリーからリリースされた盤で、カットされたシングルは2枚手に入ったけれど、アルバムは難攻不落でいまだ。今度来る時までに…とおっしゃっていたので、また再訪したいと思う。

 

で、お店にディスプレイされていたのが、ちょうど40周年盤がリリースされる大滝詠一『ロング・バケイション』。昨日のNHK-BSプレミアムの特番でもブランディンが一瞬映っていたような。ただ、あの特番は食い足りなかったですね(笑)ロンバケのレコーディング隊を可能な限り集めた演奏は圧巻だったけれど。細野さんと大滝さんの違いは、大滝さんの方が日本の昭和歌謡的文脈の語りに容易に取り込まれちゃう所。洋邦のバランスが少しでも邦のコブシに寄ると途端にあのメロディがダサくなるという…そのバランスをマインド含めて歌い継げているのは鈴木雅之とか山下達郎ぐらいなのかも。ただ、松本隆さんの話にもあったように、山下達郎も売れ、細野もYMOで売れ、今度は自分もっ…てな所で松本さんにコンタクトを取ったわけだから、ある種下世話な日本的文脈に取り込まれる覚悟はあったということになる。

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番組最後に細野さんが寄せた、「新曲を楽しみにしてる」ってなコメント、これが一番グッと来た。ちなみにレココレ4月号ロンバケ特集では、その細野さんのバックを務める高田漣さんのコメントが一番グッと来た。で、その大本命のロンバケ40周年記念ボックスで一番グッと来たのは…未発表音源以上に大滝さんが話す肉声でした。値段もアレでしたが、それに相応しい圧巻の情報量。4CD + Blu-ray + アナログレコード[2枚組] + カセットテープ + 豪華ブックレット + 復刻イラストブック + ナイアガラ福袋って…私ですら冥途の土産に思えました。お友達に頂いたTシャツとともに、今年の夏を乗り切れれば。