*[日本のフォーク・ロック] 小林亜星 / 絵のない絵本(Warner / 1976)
小林亜星さんが亡くなったとのこと。88歳ですから、大往生と言ってもいいのではないだろうか。「この木なんの木」でタッグを組んだ伊藤アキラさん(この人もコピーライター的センスを持った才人でした)も一ヶ月ほど前に亡くなられましたが。しかしこの人、『寺内貫太郎一家』という主演作もあるけれど、作曲家にしてはキャラが立ちすぎていた。”北の国から”のような演歌から、CM、アニソン…と親しみやすいメロディを紡ぐ昭和の天才だったように思える。
CMソング“パッとさいでりあ”は、エレックレコードでデビューした とみたいちろう が歌っていたけれど、小林本人の自演もあったな…と思い出しつつ、彼の自演盤が他にもないか探していて。つい先日見つけたばかりだったのが、1976年の『絵のない絵本』というシンガー・ソングライター風な作りのLP。ワーナー・パイオニア、エレクトラレーベルの白プロモだったので、余り売れなかったのだろう。ジャケットには『絵のない絵本 1 』とあるけれど、『2』が出ることはなかったようだ。
「阿久悠さんが詞をプレゼントしてくれました」と明記されている”珈琲屋で待っとれよ”を除き、作詞・作曲・編曲・唄を小林亜星が務める。演奏は猪俣猛、石川晶、杉本喜代志、赤川正興、江藤勲…といった腕利きばかり。コーラスには伊集加代(子)、梅垣達志などが参加。
1曲目”おばあちゃんのぜんまい時計”に合わせて、実際にネジ巻時計を巻き、小林のため息まで入り、オルゴールが流れるイントロにはちょっとビックリ。”空に星がひかるとき”は”どこまでも行こう”のソングライターらしい、見事な和製カントリー。個人的には小学生の時、”どこまでも行こう”がとにかく大好きだったから、カントリー好きの素養を開花させてくれたのは彼だったのかも(笑)あとは掛け声をブルースに仕立てた”金魚売り”もなかなか良いし、フォーク調の”小鳥たちのレストラン”やクレイジーキャッツ風な”なんじゃろこーりゃ”などを聴くと、器用な作曲家だったことがよくわかる。
晩年は服部克久さんとの「記念樹」裁判(”どこまでも行こう”の盗作を巡る)のニュース以降、余り話題を聞かなくなったような気もする。この裁判があったとしても、服部克久さんの音楽的業績が揺らぐことはけしてないと思っているけれど、小林さんは創作の根本を揺るがす事態と捉え、そこに最後のエネルギーを注いだのかもしれない。