いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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自粛の東京・高田渡を聴きながら

*[コラム] 自粛の東京・高田渡を聴きながら

 

何か時代の先行きがおかしいぞ、ってな嫌な予感はこんな風に進むものなのでしょうか。オリンピック問題と実は根っこが一緒だと思うけれど、コロナ禍が行きつくところまで行ってしまった。空気を読む日本人の場合、志村けんさんの死がなんだかんだ大きかったと思う。個人的には出生地が東村山だし、今住んでいる三鷹に志村さんも住んでいたから、ってか、カトケン世代ですから、ショックは大きかった。志村さんの笑いに感じた反権力性。偉ぶらず、歳食ってもちゃんとコントやるっていう。そういえば印象的な共演者の優香さんは武蔵村山出身だったはず。西東京出身の人だったらわかると思うけれど、周囲から見たら似た者同士ながら、微妙に志村さんがいじれる関係性。千鳥の大悟さんに至っては瀬戸内海の島出身でしたもんね。それでも、「お前ここまでよく頑張ってきたな!」っていじった後に褒めてたんじゃないかな、きっと。想像だけど。それにしても志村さんの共演者のいずれもが、優しくて性格好さそうなんだな…現代世界を覆う新自由主義の経済合理性の発想はこういう所に価値を認めないし、彼の死の痛みが消えぬうちに功績だとか言ってしまう。

 

こんなある種の有時だからこそ、平時には素通りしていた本性が晒される部分はある。社会のほとんどが音楽とか芸術を(恐れているがゆえ)軽んじてること、取り換え可能な労働者として人間そのものが大切にされていないこと、男性よりも女性を下に見ていること、人間を自然より優位に置いていること…自粛の要請ってのも変な言葉ですね。経済的損失の責任を取る気はないけれど、自発的にお上の意向に共鳴させるっていう。教育勅語天皇のお言葉とし、内心の自由に触れない範囲で自発的に共鳴させることで戦争責任を回避した構造と全く同一だ。ちなみにここで左か右か、とか言ってしまうのは冷戦的思考だということになる。

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ところで緊急事態宣言に踏み切るまでのネットニュースの見出し…まさに高田渡の「値上げ」そのものでしたね。ありがたいことに先月末、50周年を迎えたURCアングラ・レコード・クラブ)に関するムック執筆のお話を頂き、高田渡のキャリアを再び辿り直していたところだった。うーん、やっぱりこういう時に響くんだな。持っていなかった参考文献もこの際とばかりに集めてみた。中でもビレッジプレスから出ている『雲遊天下』のバックナンバー「特集 高田渡の夜」(125巻・2017年)、「秦政明とURC」(34巻・2003年)は面白かった!渡さんの目線で生きていれば、こんな毎日も、相も変わらぬ日常だったのではないだろうか。

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ボブ・ディランが歌う「Murder Most Foul」

*[コラム]  ボブ・ディランが歌う「Murder Most Foul

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多くの人がお聴きになっているかと思いますが。3月27日に突然デジタル/ストリーミングで公開されたボブ・ディランの新曲(というか未発表曲)「Murder Most Foul」。トピカル・ソング(時事歌)の親玉がとうとうお出ましになったな、という。オリンピックが無くなると同時にニッポンの首都でも大変な騒ぎになっているわけで。ディランの来日も中止になった。まぁ、また聞きした近所の某・旧公営企業の方からの噂だと、社員で10人感染者が出てたけど隠してたとかいう話なんで、そりゃそうだろな、という。大本営発表を信じている方が、よっぽど人が良すぎるということにはなるだろう。


そんなこんなで、ジャクソン・ブラウンが、志村けんが…と、悲惨な現実ばかりに右往左往しているそんなタイミングでディランの声を聴いたら、なんだかグッと来てしまった。


現状のディランの最新・オリジナル・アルバムは2012年の『Tempest』。タイトルの「Tempest(嵐)」はシェイクスピア最後の作品(と言われているもの)のタイトル。当時はまだオバマ政権だった。その後は『Shadows In The Night』(2015年)に『Triplicate』(2017年)とアメリカン・スタンダードを血肉化した力作をリリースしているわけだけれど、トランプ政権のポピュリズム「嵐」が吹き荒れて以来、彼の肉声を伝えるオリジナルの新曲はいまだに発表されていなかった。

 

いま、ボブディランは何を考えているのか?


そんなわけで、期待をこめて耳にした「Murder Most Foul」。やはりシェイクスピアハムレットに登場するフレーズからタイトルを選んでいる。直訳すれば「最も非難される殺人」ということになる。1963年11月、アメリカ史上最も人気のある大統領だったJ.F.ケネディが遊説中のダラスで暗殺された事件をテーマに選び、淡々と綴ってみせた17分にも及ぶ、ある種のマーダー・バラッドだ。

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ディランがケネディに譬えたものは、人々の現実を常に導いてくれる理想や普遍理念だろう。もちろんケネディ自身、マリリン・モンロー(この歌にも登場する)との不倫にしても、現実的には聖人君子とばかりは言えず、問題を抱えてもいた。それでも、キング牧師公民権運動を支持し、黒人と白人を平等とする公民権法を成立させ、「Murder Most Foul」にも引用されていた、「国があなたのために何をしてくれるかではなく、 あなたが国のために何ができるかを問う(Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.)」という大統領就任時の言葉で多くの若者達を共感させた。ディラン自身、2010年にホワイトハウスに赴き、ケネディと同じ志をもつオバマの前で「時代は変わる」を歌っている。


しかし、そうした理想を無残にも打ち砕く絶望の前で、何をなすべきか。ディランは引用に次ぐ引用で音楽と共に歴史を振り返ってみせる。その引用は多岐にわたっている。一聴しただけでも、ビートルズの「抱きしめたい」(The Beatles are comin', they're gonna hold your hand)、ジェリーとペースメーカーズの「Ferry 'cross the Mersey」、ウッドストック、ヘアー/フィフス・ディメンション(Aquarian Age)、オルタモント、エヴァリー・ブラザーズ(Wake up, little Susie)、ロバート・ジョンソン(I'm going down to the crossroads, gonna flag a ride)、ラリー・ウィリアムズ(Dizzy Miss Lizzy)、パッツィ・クライン、トム・ジョーンズ(What's new, pussycat?)、レイ・チャールズ(What'd I say?)…などなど。1964年にデビー・レイノルズパット・ブーンが出演した映画『Goodbye Charlie』よろしく、「グッバイ・アンクル・サム!(Goodbye, Uncle Sam!)」(つまり「さよならアメリカ」)と言って見せたり、黒人文学の雄ラルフ・エリソンの代表作のタイトル「見えない人間(Invisible Man)」というフレーズも見てとれた。ちなみにもっと言うと、『Goodbye Charlie』と同じ1964年にアガサ・クリスティ原作の映画『Murder Most Foulが存在してるんですが。

 

ドキッとしたのは、「自由よ、おお自由よ」という公民権運動のアンセムを唱えた後につぶやく「言いたくはないけど、死人だけが自由だ(I hate to tell you, mister, but only dead men are free)」という言葉。ケネディ以前と以後でアメリカは変わってしまった…というかのような語りは、ドン・マクリーンが、バディ・ホリーリッチー・ヴァレンスを載せた飛行機が墜落したことを「音楽が死んだ日」と唄った大作「アメリカン・パイ」を思わせた。その「アメリカン・パイ」がヒットした1971年のアメリカ…ベトナム戦争に疲弊し、古き佳き60年代アメリカへの郷愁が広まっていた。その一瞬の輝きをノスタルジックに描き出したジョージ・ルーカスアメリカン・グラフィティが公開されたのは1973年のことだった。

 

だから今回、ディランが歌の後半で、アメリカン・グラフィティに登場する伝説のDJウルフマン・ジャックに、「Only The Good Die Young」(ビリー・ジョエル)、「Please Don't Let Me Be Misunderstood」(アニマルズ)、「Another One Bites the Dust」(クイーン)、エタ・ジェイムス、ジョン・リー・フッカー、(Take it to the limitのフレーズを引用して)ドン・ヘンリーグレン・フライイーグルス)、オスカー・ピーターソンセロニアス・モンクを…そして「Murder Most Foul」をプレイしておくれ、と切々と懇願する気持ちは、痛いほどよくわかった。アメリカは、いや世界は、多様であるからこそ、普遍理念でしか一つになりえないという矛盾。でもディランはハッと正気に返ってみせる。「心配しないで下さい、大統領、あなたのブラザーが助けに来てくれます」「ブラザー?どこのブラザーだ?」…まさに冗談じゃない、って言うんでしょうか。宗教とかそういったものが、現実を必ずしも救いきれないことには自覚的だ。それでも延々と、ウルフマン・ジャックに「曲をかけてくれ…」って頼むんですよね。『アメリカン・グラフィティ』を観る限り、ウルフマンは音楽の神様であり、ティーンエイジャーのイノセンスを受け止める神様。いつも起きてるんじゃないかと思ってしまうくらい、いつでも、どんな時でも、リスナーの心に寄り添い、チューニングを合わせれば、ゴキゲンな音楽とともにグルーヴィーなお喋りで包んでくれる。こんな時、ディランが音楽に一縷の望みをもっていることこそが、救いだと思えた。

3月21日はナイアガラの日

*[コラム] 3月21日はナイアガラの日

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気付けば昨年から永井博づいていたという。シティポップ熱に載せられたのか…タワレコで見つけたファブリックパネルで冬でも夏気分という。niko and…の時計も、ね。そう、昨年ニルソンのニューアルバムが出て、大滝さんも…とかブログに書いていたら、正夢になったという。

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そう、3月21日ですよ。ナイアガラ・ファンが毎年楽しみにしているリリース・デイなんだけれど。デビュー50周年の大滝詠一、最後のソロ・ニューアルバム、という触れ込みの『Happy Ending』のリリースが決まった時、フィジカルなパッケージでのニューアルバムを楽しみにする、という高校生位の頃に味わっていた久々のドキドキ感を10年ぶりくらいに味わえたと同時に、こんな気持ちになれるのはもしかすると(悲しいけれど)最後なのかもしれない、と思えたのだった。それがこのコロナ騒ぎもあって、大滝さんの故郷・東北の方々の悲しみを偲びつつ、こんな気持ちでその日を迎えることになるとは。

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とはいえ私はCDもアナログもどっちも注文しましたが。

 

しかし大滝詠一という人は基本、近現代的・モダンの人だったんだな、という気がする。1979年というのが(よく言われる)モダン[近現代]とポスト・モダン[脱近現代/近現代以後]の切れ目だったわけだけれど、大滝さんのブレイクはポストモダンに入った頃。それでも彼はメディアを使って一斉消費させる、いわゆるモダンの大衆文化を心底好んでいた人だったと思う。3月21日の再発でしのぐシステムとか、信者を作るシステムも、近代新宗教的ですらあったわけだし。今後もジミヘン商法のように、ファンがいる限りは続いていくはず。ちなみに国民国家アイデンティティに訴えるのも典型的なモダニスト感覚。伝統芸能や和ポップスの再評価とか、日本に根付いた野球文化の啓蒙とか。サザンの桑田さんも同じ頃にブレイクした人だけど、立ち位置が似ている。歌い回しも大滝さん同様、和洋折衷のこぶし歌謡だし。だからこそ、90年代後半にJ-POPという、今思えば(グローバリゼーションの反動としての)ニッポン(J)回帰現象が起こったタイミングで、その最重要ルーツとして参照・称揚されたのだろう。

 

ただ、アメリカン・ポップスをDJよろしく(といっても大滝さんはラジオDJ!)、サンプリングする感覚はポストモダン的だった。ただし、着地点がニッポンだったから、圧倒的なポストモダン感覚をもっていた細野さんと対照的に、21世紀における世界での再評価は遅れてしまった(ここには偏見も加味していうならば、互いの出身地、東京―地方というアイデンティティの相違も絡む)。あと、松本隆や前述の永井博とのコラボレーションなどでリゾート・ミュージックとして絶妙なバランス、美学を保っていた80年代前半と比べると、復活した90年代後半の「幸せな結末」以降の歌詞やメロディには、そこはかとない和のフレーバーがまぶされていたような気がする(市川実和子の「雨のマルセイユ」なんて曲も)。「Happyending」 →「ハッピーエンド」→「はっぴいえんど」→ 「幸せな結末」ですからね。今回のプレスリリースにも「令和のマスターピース」なんて言葉が躍っていたし。ただ、今回のアルバムタイトルだけは再び和から洋に還った「Happy Ending」でしょう。時代やアーティスト人生の円環運動と解釈しても良いし、海外のはっぴいえんどファンへの、何某かの目配せも邪推してしまう。まあ、そんなことを再検証しつつも、ニューアルバムに身を委ねるのが今から楽しみでならない。

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ちなみに昨年の『ナイアガラ・コンサート’83』もDVD付のCDボックス、歌入りのアナログ、そしてインストゥルメンタルのみの限定アナログ、共に素晴らしかった!六本木蔦屋書店で注文した限定アナログのイニシャルはたまたま「409」だったけれど、ビーチボーイズを思い出したりして!

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Wenchin / Same

*['60-'70 ロック] Wenchin / Same(Buddha / 1975)

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「ウェンチン」という東洋風味なアーティスト名。リリース元のブッダってのもカーマスートラだとか、ヒッピー世代の東洋趣味全開なネーミング・センスだったわけですが。こちらはバブルガム・ポップなアーティ・リップも絡みつつの、1975年という遅すぎたバブルガム・ファンキー・ポップな、ヴォーカリストの唯一のソロ作。全曲が音楽出版社Three Minute Musicのものだというけれど、これ(3分間音楽!)、大滝詠一的コンセプトですよね。

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まず一つ目に注目すべきはキング・ハーヴェストの一世一代の名曲”Dancing In The Moonlight”のカバーが収録されていること。"Come And Get Your Love"で知られるレッドボーンがカバーしたかのような仕上がり!そもそもプロデュースのスティーヴン・ネイザンソンはこの曲で儲けようとした人。スティーヴンとエリックのネイザンソン兄弟は1970年にユナイテッド・アーティストからリリースされたザ・ミュージック・アサイラムというサイケバンドのプロデュースを手掛けていた人たち(ウェンチンの本作プロデュースはステーヴン・ネイザンソン・ア・ミュージック・アサイラム・コンセプト名義)。同1970年にはウェンチンがボーカル・ソングライティングで参加していたオムニバスというサイケバンドも手掛けており、さらに併せて手掛けたのが、後のオーリンズのランス・ホッペンが在籍したボッファロンゴ。そこにはシャーマン・ケリー作の”Dancing In The Moonlight” のオリジナル・ヴァージョンが収録されていた。

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”Dancing In The Moonlight”はボッファロンゴのデイブ・ロビンソンとロン・アルトバッハ(後にマイク・ラブのバンド、セレブレイションに参加)、そしてシャーマン・ケリーらによって結成されたキング・ハーヴェストで1972年ついに大ヒットをつかみ取る。キング・ハーヴェスト版の”Dancing In The Moonlight”のイントロはサザン・オールスターズの”希望の轍”のイントロに借用されている。

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ちなみにウェンチンの本作の冒頭”Havana(Have You Ever Been)”にはファニア・オールスターズより、イスマエル・ミランダとラリー・ハーロウがボーカルで参加。そういえば「サザン・オールスターズ」のネーミングのアイデアの源泉の一つはファニア・オールスターズだった。で、その”Havana(Have You Ever Been)”は1979年の映画『The Warriors』のサントラで、ケニー・ヴァンスwithイスマエル・ミランダ名義で”In Havana”のタイトルでカバーされている。これをコ・プロデュースしていたのがアーティ・リップとスティーヴン・ネイザンソン。そちらにはなぜかコーラスにチェビー・チェイスが加わる乱痴気っぷり。スティーヴン・ネイザンソンはケニー・ヴァンス在籍のジェイ・アンド・ザ・アメリカンズの『Sands Of Time』にボビー・ブルームと共に参加しており、そのコネクションであろう。

 

で、そのボビー・ブルームはウェンチン盤に”Outta Hand”という佳曲を提供。そのボビー・ブルームに楽曲提供しているアンダース&ポンシアのピーター・アンダースがケニー・ラグナと共作した”No Strings”も収録されている。個人的にはピーター・アンダース関連盤と位置付けてもいる。

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ところで「ウェンチン」ってバンドのように言われているけれど、不可解なジャケットを見てもわかる通り、ネイティブ・アメリカン出身と思われるリード・ボーカルの男性(レッドボーンを彷彿とさせるボーカル・スタイル)のこと。本名はロバート・ウェガジン(Robert Wegrzyn)。レコードのスリーブの中に、スティーヴ・ネイザンソン・ミュージックの売り上げ報告書とか、売り上げを誰にいくら配分するか、みたいな生々しいメモが挟み込まれてました。さっき”Dancing In The Moonlight”でスティーヴン・ネイザンソンが儲けようとした、と書いたけれど、このメモには「”Dancing In The Moonlight”は4半期でノン・チャートの動きだが会社は50%の利益を得る、ただしライターはシャーマン・ケリーで、もはやスティーヴ・ネイザンソンには属さない」とか書いてありました。

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Stephen Bishop / We’ll Talk About It Later In The Car

*[AOR] Stephen Bishop / We’ll Talk About It Later In The Car(BMG / 2019)

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スティーヴン・ビショップ、2016年の『Blue Print』に続く2019年の新作。アマゾンでLPを予約していたのだけれど、なかなか入荷せず、結局強制キャンセルになってしまった。予約数が少なく、採算合わずにプレス見合わせかな…と思っていたら、ユニオンに入荷していて拍子抜けした。早速聴いてみる。リアルタイムで酷評しているレビューも読んだけれど、結構良いじゃないですか。歌詞もほぼ無視して、ただ音の要素だけを切り取って評価する日本のAORの美学からすると、バラエティに富んだ楽曲が逆にとっちらかった感じに聴こえてしまったのかも。でもスティーヴン・ビショップは私からすると、AORという感じはあまりせず、メロウなシンガー・ソングライターとしか言いようがない人。


ちなみに欧米のヨットロックと日本のAORっていう概念は、重なるようでちょっとズレている。日本のAORは美学を求めるというか、スティーリー・ダンを極北に、職人気質を賛美するみたいな風土があるけれど、ヨットロックっていう括りは、ハッキリ言ってちょっとダサめの歌謡ロックみたいなものですからね。カントリー・テイストのAORに至っては、堀内孝雄とか高山厳の世界。ちなみにそちらも大好物ですが、何か(笑)


今作は1970年代の未発表曲のリメイクからアルバム制作のアイデアを得たんだとか。ファーストを引用したジャケがそれを表している。老境に差し掛かって、初期衝動に還りたい、と思っているのかもしれない。人生、生と死は円環運動のようなもの。タイトルはスター・ウォーズレイア姫役、そしてポール・サイモンの元妻として知られる故キャリー・フィッシャー(スティーヴンとも親交があったが、2016年に亡くなった)が電話の相手に喋った「あとで車の中で話しましょう」に由来するんだとか。キャリーの母デビー・レイノルズの口癖だったという話もある。


ティーヴンは70年代初頭、メーガン・マックドナウ、ニック・デカロ、ジェイムス・リー・スタンリーなどに楽曲提供し、(リー・カンケルの紹介で)アート・ガーファンクル『Breakaway』に大抜擢されたところからキャリアが開けた人。そのアートの次作『Watermark』はジミー・ウェッブ曲集だったわけだけれど、そこに収録されていた”Someone Else”を今作『We’ll Talk About It Later In The Car』でスティーヴンがカバーしている。”Someone Else”は10代半ばのジミーが初めて作った曲だった。その初期衝動をもエネルギーにしようとしているようにさえ思える。そんなスティーヴンはその後、サタデー・ナイト・ライブジョン・ベルーシ人脈で映画音楽のメインストリームを突っ走り、スティーヴンをレスペクトするエリック・クラプトンフィル・コリンズらと親交を深め、輝かしい80年代ポピュラー音楽最良の時代を経験したのだった。だから今作は、そんな彼のキャリアや人生を振り返るムードを持った作品に思えた。


Side Aはバラードの”Almost Home”、90年代ポップ風の”One In A Million Girl”、そしてアメリカーナな”Like Mother Like Daughter”が印象に残った。一番らしくない”Like Mother Like Daughter”がPVに選ばれている。そしてSide Bはファーストの雰囲気そのもので、”The Day You Fall In Love With Me”や”Nora June”なんて往年のファンには涙ものかも…。”French Postcards”は”Unreleased”とあるけれど、当時(『BISH』の頃みたい)のアウトテイクと思われる。さらにボーナス・トラック扱いの”Tinseltown”は一聴すると1985年の『Bowling In Paris』のアウトテイクでは?これだけは音質があまり良くない。


ちなみにLPプレスのコンディション、少々プレスミスでは?と思われる音の揺れが見られる箇所もあったりしたけれど、内容に免じて、許す!

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Fluff / Same(Roulette / 1972)

*['60-'70 ロック] Fluff / Same(Roulette / 1972)

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はっぴいえんど『風街ろまん』と同じくらい良い!と言ったら言い過ぎかもしれないけれど、さして誇張でもない。全くの無名バンドの唯一作なのだけれど、レコードの出音はまったくもってあの時代のロックのダイナミズムを全て兼ね備えている。予備知識はなかったけれど、プロデューサーのアート・ポーレマス(Art Polhemus)と4曲の作詞で参加しているエステル・レヴィット(Estelle Levitt)のクレジットを見て購入。白プロモで800円くらいだった。


プロデューサーのアート・ポーレマスはアラン・ゴードンやジェイク・ジェイコブスが在籍していたマジシャンズやそのジェイクが作ったバンキー&ジェイク、それにブルース・マグース、そしてジョン・ホールやバーバラ・キースが在籍していたカンガルーを手掛けていた人。コッペルマン・ルービン・カンパニー関係の人ですね。エステル・レヴィットが参加しているのも頷けるし、そのエステル唯一のソロ『Isn't It Lonely Together?』ブッダから1974年のリリース)もアートが手掛けていた。

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で、バンドの方はジョーレイ・オーティス、トミー・シェフの二人が楽曲を手掛けているのだけれど、そのいずれもが程よいポップさとロックのアンサンブルが同居しつつ、一言で言うと良くできている。”Go To Sleep, Elaine”なんて曲はジェイムス・テイラーがジョー・ママに入っているかのような仕上がり。”You Made Me Lose Control”のエレキとドラムスのファンキーな絡みと爽やかなコーラスは本当にクセになる感じ。何よりエレキの音が鈴木茂のような生成りの音なんですよね。最高!”Who’s Gonna Love Me In The Meantime”にはオルガンも入って、スティーヴン・スティルスのマナサスを思わせるロック・サウンドで。冒頭はっぴいえんど『風街ろまん』を引き合いに出したけれど、同じ時代の空気で作られているから当然とも言えるのかな。ちなみにバンド名Fluffとは綿毛のこと。まさに綿毛のように消えてしまったバンドなんだけれど、我が家の50年前のオンボロ・スピーカーにて爆音で鳴らすだけで、この世の憂さも晴れてしまう。

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