いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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Steve Perry / Traces ( fantasy / 2018 )

markrock2018-12-08


ロシアから荷物が届いて何だったかな、と思ったら以前e-bayで注文したスティーブ・ペリー25年ぶりの新譜だった。タイトルは『Traces』(軌跡)、いや、てか奇跡かな、と。今年10月5日リリース。『FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE』が出たのは1994年。これはリアルタイムで覚えている。それ以来と言うことか。ずっと出るか出るかと言われていてリリースが延びていたもの。言わずと知れたジャーニーのボーカリストだけれど、その美声を失ったとされ再編ジャーニーにも参加せず。ただ映画にもなったけれどスティーブに最大限のレスペクトを示すフィリピン出身のアーネル・ピネダYouTubeにアップした動画をメンバーが目にし、スティーブと全く同じ声で全盛期の楽曲を演奏することになるというマジカルな出来事もあって。

ティーブももう69歳、ハイトーンは正直もうダメかと思ったけれど、このアルバム、伸びやかな歌声が復活していてビックリした!かすれもありません。YouTubeで視聴したときはなぜか衰えを感じたんだけれど、ちゃんとオーディオとスピーカーで再生してみたところ、凄まじく良く聴こえて。当たり前だけれど、再生機器は重要。


リード・トラックの”No Erasin’”が強烈だけれど、ジャーニー全盛期の良いトコどりのような全編美メロの洪水。やばいです。ミディアムの産業ロックからバラードまで、ジャーニーのファンのツボを理解した楽曲。裏返るギリギリのいちばんスティーブらしい声域をわきまえている。唄い回しの「ウォーウ ウォーオ」ってなフェイクがスティーブそのもので。マスタリングはボブ・ラドウィグなんですね。音も良い!おなじみランディ・グッドラムとの共作”Most Of All”もあって、この相性の良さは『Street Talkを思い出さずにはいられない。”Foolish Heart”、好きだったな。オーケストレイションにデヴィッド・キャンベル御大が参加していたり、ブッカーTジョーンズやネイザン・イースト参加曲も。ビートルズ、ジョージの”I Need You”のカバーもあって。ベースはピノ・パラディーノ。バラードにアレンジしていて、センスが良い。邦盤も流石に出ていて2曲のボーナス・トラック。ただ、ターゲットの独占エディションは5曲のボーナス入りということで、送料共に安いロシアから注文した次第。

最近1988年リリースのジャーニー『Greatest Hits』アメリカ盤オリジナルLPも入手していたところ。こちらもボブ・ラドウィグのデジタル・リマスター済で、CDではおなじみの盤だけれど、LPの音はまた良かった。

Jimmy Webb / Ten Easy Pieces The Deluxe Edition ( Friday Music / 2018)

markrock2018-11-11




久々の更新。レコードもライブも色々盛り沢山な今日この頃で。10月27日はご本人から直接お電話頂いたもので、行かないわけには!とばかりに、私のファーストでアレンジをして頂いた(第二、第三の円熟期を迎えておられる)佐藤龍一さんのライブat大森・風にふかれて。3時間以上にも及ぶ30曲歌いまくりのステージで。お客さんの熱気も素晴らしかった。ファーストのプロデュースを引き受けてくださった金谷あつしさんにも本当に久々のご挨拶をさせて頂いたり。そして31日はモチロン、東京ドームのポール・マッカートニーへ。約2万円のチケットが一寸高すぎるな、と思ったのは自分だけではなかったようで、しかも最後ではなさそうだ、と思ったファンも多かったのか、ちょこちょこと空席もあったのは今までになかったこと(そのせいか、4回目の今回が一番席が良かった)。とはいえ、ドームをほぼ超満員にしちゃうのは、やっぱりポール。こちらも3時間以上36曲のステージ。当初ちょっと見た感じお爺ちゃんぽくなったかな、と思ったり、”Live And Let Die”で珍しく声が上ずったりもしたのだけれど、76歳ですよ…。正直自分がこの年になったときに、人前で3時間以上も立っていられる自信がない。”From Me To You”を初めて聴けた喜びもあったし、新作『Egypt Station』からの楽曲が流石にこなれていたしフレッシュだった。歌わなかったけれど、”Despite Repeated Warnings”での温暖化に聞く耳を貸そうとしない狂った船長ってのがトランプだと気付いてからは、ますますポールが好きになっている所だ。そういえば、ドームの外に立っていたら、突然ビートルズ世代のお爺ちゃんがですね、私の肩を叩いてきまして、「ジョン好きでしょ?言わなくてもわかるよ〜」とおっしゃって立ち去って行かれました。

で、ジミー・ウェッブの旧作のデラックス・エディションを。愛蔵盤LPとかデラックス・エディションなんかを出しているFriday Music(https://fridaymusic.com/)から、4曲のボーナス・トラックを加えて待望のリリース。ホームページで先行で買うとサイン入りコースターが付いてくるだとか、あったんですが、アメリカからの送料込で5000円を超えるということであきらめる。そうしたら日本でも輸入盤が入荷しまして、マルチバイのディスカウントを使って2000円くらいで入手できた。日本盤が出る気配は今のところない。


ジミー・ウェッブで一番好き、というかシンガー・ソングライターの自演盤で一番よく聴いたんじゃないかな。1996年にリアルタイムで買いました。高田馬場の今は亡きレコファンで。まだ学生服を着ていた頃でしたが。元々はガーディアンというレーベルで、トッド・ラングレン、クリス・クリストオファスン、バリー・マンアリス・クーパーの自演盤を出していた。ジョーン・バエズキンクス(レイ・デイヴィス)もあったかな。でも、もう潰れちゃったみたい。ジミーの音源も流出したらしい。プロデュースのフレッド・モーリンも、かつてダン・ヒルなんかのプロデュースをやっていたカナダの人だけれど、今では業界で結構偉くなっちゃっている。


ジミーがピアノとボーカルというシンプルなアレンジで、グレン・キャンベルアート・ガーファンクルドナ・サマーフィフス・ディメンション、ブルックリン・ブリッジ、リチャード・ハリスジョー・コッカーフランク・シナトラ…なんて人達に歌われた、アメリカの良心とも言える代表曲を歌いつづる10の珠玉のピーシズ(タイトルの『Ten Easy Pieces』は夢の中に出てきた愛する母のお告げだったんだとか)。ライナーを読んで知ったけれど、当時のジミーは離婚の只中にあって、過度に酒を飲む日々だったそう。プロデューサーのフレッドの後押しとレスペクトに支えられた作品だったのだと思う。そしてジミーにとっても、自身の歌声と向かい合い、自分の楽曲でありながら、オリジナルをある意味で超える作品を作り上げる挑戦だったのだと思う。実際、その後は弾き語りのツアーを精力的に行っていくことになる。マイケル・マクドナルド、ショーン・コルヴィン、マーク・コーン、スーザン・ウェッブといったゲストの参加も本当に絶妙。タイムレスな名盤と言うのはこのような作品を指すのだろう。

ちなみに音はオリジナルCDと変わらぬ、ピアノの広いレンジを表現した素晴らしいものだった。あと、注目のデモは”Galveston”、”Worst That Could Happen”、”Up, Up And Away”、”I Was Too Busy Loving You”という4曲の完全弾き語りテイク。途中演奏をやめたりする箇所もあるんだけれど、そこはレコーディングのアウトテイク、アレンジの作り込みの過程における未発表音源という雰囲気で聴きたい。 ”I Was Too Busy Loving You”は2010年の『Just Across The River』(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100712)でも再演していた。やっぱり皆が待っていたのは”Up, Up And Away”でしょう。この時すでに、ライブでジミーが演る際の例の定番アレンジで披露されていたことがわかる。


あと、まだFriday Musicのサイトには出ていないけれど、CDケースの内側には180gオーディオファイル・ヴァイナルでのリリースが告知されている……なんと……夢ではないですよね??

Del Shannon / This Is My Bag ( Liberty / 1966 )

markrock2018-10-21


あれ?こんなのあったっけ?といって感じのデル・シャノンの盤。1961年の”Runaway”以降、飛ぶ鳥を落とす勢いで”Hats Off To Larry”諸々をヒットさせていったものの、ビートルズモンキーズ以降のポップシーンの中ではちょっと先輩だったわけで、2歳下のロイ・オービソンなどと同様、埋没していく。で、1966年にリバティーよりリリースされた『This Is My Bag』、スナッフ・ギャレットのプロデュースで若者達を掴もうと、シンガーに徹して同時代のヒット曲を取り上げている。その歌声には後のロック世代にも印象を残すインパクトや泣きがあって、個性的だし、とても上手い。”Kicks”、”Lightnin’ Strikes”、”When You Walk In The Room”…結構いいぞ、という。B面の”Everybody Loves A Clown”でそうか、と気付くのだけれど、ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズのプロダクションで演っているというわけ。アレンジャーはニック・デカロレオン・ラッセル。演奏はレッキング・クルーでしょう。ロイ・オービソンの”Oh, Pretty Woman”は完コピのようなアレンジで、ロイそのもののように歌う。これにはビックリ。後々デル・シャノンはイギリスのミュージシャンに慕われていたこともあり、ジョージ・ハリスン、ジェフ・リン、そしてボブ・ディラントム・ペティからなるトラベリング・ウィルベリーズに亡くなったロイ・オービソンの後釜として加入することになる("Runaway"の再演をレコーディングするも、デルの自殺でアルバム『Vol.2』のリリースは幻となる)。その理由が今にしてやっと、理解できた。

鈴木慶一/ダニエル・クオン「Aerial Garden Sessions vol.2」

markrock2018-10-20


10月18日の鈴木慶一さんのイベント「Aerial Garden Sessions」。vol.2のゲストは奇才SSWのダニエル・クオン(http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/9241)!ダニエルくんはレコード仲間でもあり、アルバムのジャケット・デザインでもお世話になっている。てなわけで、下北沢の風知空知に潜入。会場は入りきれないくらいのお客さんで賑わっていた。前半はダニエル、休憩を挟んで後半は慶一さんのステージ、40分ずつと聞いていたけれど、それぞれ1時間くらいだったかな。そして最後の二人のセッションを含め、3時間近くに及ぶ充実したステージになった。

ダニエル・クオンのライブは久々に見たけれど、弦を全く張り替えていないというギルドのアコギを抱えての巧みなフィンガー・ピッキングによるインストに始まり、ファースト・アルバムからの"A Tiger's Meal"や2015年の名作『ノーツ』からの"Judy"が飛び出すというグレイテスト・ヒッツ的選曲。ここのところエクスペリメンタルなインストに興味が移っているようだったけれど、ちゃんと代表曲を網羅し、初めて聴くであろうオーディエンスをも魅了していた。慶一さんが悲しげな、と確か形容していたそのボーカルはライブでも印象的だった。そしてカルトSSWのようなサングラスを纏い、シャイなつぶやきシローのごときMCもユーモアのあるものだったし、”Judy”で「助けて!」と客席にシングアウトを求めるシーンでは、それに応じるオーディエンスの温かさが印象的だった(さらに突然ビートルズの"Fool On The Hill"を奇妙なメロディで歌い出したのは意表をついていた)。後半はピアノにチェンジし、長尺のエクスペリメンタルな音の洪水を作り出す。ラストまで、緊張感のあるステージだったと思う。


そして慶一さんパートはご本人が新曲の反応を試す、なんておっしゃっていたけれど、新曲、映画の挿入歌(アウトテイクまで!)も含めて、ギター、打ち込みのシーケンサーエフェクターを交えて、個性的でマジカルなサウンドを作り出していた。個人的にはソロで聴いてみると、ムーンライダースとはまた違い、シンガー・ソングライター的な噛みしめるような語り口が印象に残った(”Backstage Pass”は素晴らしかった!)。そしてやはり特徴的な声の抑揚が耳を離れなくて。『マニア・マニエラ』収録の” 花咲く乙女よ穴を掘れ”はオーディエンスとシング・ア・ロング!そして、最大級の賛辞とともに「ダニエル・クオン!」と声がかかり、二人のステージへと雪崩れ込む。20分にも及ぶインプロヴァイゼーションの応酬は、たまたまステージ近くで見ることができたからわかるけれど、互いの出方を伺いながら、音を繰り出す緊張感のあるもので。そしておもむろにダニエルが再びアコギに持ち替え、慶一さんはギターからピアノに変わって"Blackbird"を演るという。ただただ、しびれましたねぇ。先ほどの"Fool On The Hill"といい、ダニエルのポール愛も感じられて。


アンコールは「慶一さんはなぜこの曲を選んだんですか?」なんていうダニエルの質問とともにダニー・ウィッテンの"I don't Wanna Talk About It"を、日本語ではなく英語詩で歌ったのも良かった。この曲とか"It's Not The Spotlight"なんかは70年代の日本のミュージック・シーンにおいては、特別な意味合いをもっていた。


終演後の打ち上げでロニー・レインのTシャツを着た慶一さんやダニエル君、慶一さんのスタッフの方々と色々話をさせて頂いたのだけれど、慶一さんの優しい笑顔でほのぼのとした気持ちになった。また慶一さんは、素晴らしいスタッフの方々に支えられているのだと気が付いた。慶一さんには音楽の始まりはピアノではなくギターだったこと、ヴェンチャーズやアストロノウツに感化されたことを伺った。あがた森魚さんとの出会いについて聞いてみたところ、お母様の職場にあがたさんがおられたんだとか。そんな偶然(必然?)ってあるものなんでしょうか。個人的には慶一さんの歌いまわしやメロディに時々あがたさんがシンクロするような気がしていた。一番似せたくないんだけど…なんて笑っておっしゃっておられましたが。あとは私の住んでいる東京・三鷹についてのマニアックなエピソードも。なんでも、吉祥寺いせやの主だった高田渡さんは生前「都立三鷹高校のサッカー部は俺が作った」と豪語していたんだとか。でも、その場で慶一さんが携帯で調べてみたところ、出身校は都立市ヶ谷商業の定時制…いやはや噂通り、渡さんの虚実入り混じった感じが何とも。兎にも角にも、素晴らしいライブと素敵な時間で幸せな気持ちになれた。


そう、会場ではダニエル・クオンの新作CD-R『Lites Out』の販売も。”Lites Out”、”Little Koalas”、”Eskimo Kisses”、”If You Feel,You Heal”の4曲を収録。元・森は生きているの増村和彦のドラムスも加わった音。ポップでとても良かった!


Boz Scaggs / Out Of The Blues ( Concord / 2018 )

markrock2018-10-15


ボズ・スキャッグスの新譜。期待通りのスタイリッシュなブルーズ。近作は毎度買ってますが、ハズレなし。というかミュージシャンとしての老年期にさしかかって、ここまで円熟した色気のある音を作れているのは凄い。ブルーズの底力かな。いまだにAORのボズを求めるファンも日本には多いようだけれど、あれは時流に乗った流行モノの部分もあったし、本質的な個性は変わっていないようにも見える。よく考えてみると、1994年の『Some Change』なんてのも、シルクディグリーズ命みたいなAORファンには「渋すぎる」とか言われていたことも思い出されるけれど、今聴けば古びない音だったなと思ったり。


で、今作の演じ手はジム・ケルトナー、リッキー・ファター、ウィリー・ウィークス、ジム・コックス、レイ・パーカーJr、ドイル・ブラムホール2世、チャーリー・セクストン、そこにホーン・セクションも入る…これでわかりますでしょう? Tボーン・バーネットが作りそうな空間系の大人(もはや老人?!)ロックの色もあるし、クラプトンやディランを思わせる部分もあるわけで。チャーリー・セクストンのギター・リフが特徴的な”I’ve Just To Got To Know”なんてディランの近作かと思いましたですよ。ジミー・リード、ボビー・ブランド、マジック・サムなんかのブルーズ・ナンバーに混じって、ボズとはそれなりに長い縁のあるジャック”アップルジャック”ワルロスの書いたオリジナルが3曲、そしてニール・ヤングの”On The Beach”も収録。今までは考えたこともなかったけれど、ボズとニールには声色にちょっと似た部分があると気付く。

前作からは輸入LPで買っている。送られてくる時点で盤がちょっと歪んでいたけれど、もはや気にはならない。デジタルダウンロード・カードに加えて、2曲入45回転シングルが付いてきた。ちゃんとジャケットもあって素晴らしい。こっちはシャノン・フォレスト、元TOTOデヴィッド・ハンゲイト、ボズ、ダン・ダグモア、リック・ヴィトーという布陣で”I Ain’t Got You”と”Jump”を。誠に一粒で二度美味しい。

Art Garfunkel / Up Til’ Now ( Columbia / 1993 )

markrock2018-10-14


個人的にはリアルタイムで手に入れた初めてのアート・ガーファンクルのアルバムだった1993年の『Up Til’ Now』。一般的に流通しているのはCDだけれど、世界的にはカセット(欧米では2000年代までしぶとく残っていた)と、LP(ヨーロッパやブラジルなど)も出ていた。ここ1年くらいのマイブームで、CD時代のアナログを掘りまくっているのだけれど、これはプレス数が圧倒的に少なく探索が難航。まず日本ではほぼ出回っていなかったので、今から10年前なら探せただろうけれど、現在は無理。そしてアメリカではCDとカセットだったので、これまたほぼ中古市場にはない。ということで、オランダ・プレスの盤をギリシアの中古レコード屋から取り寄せた。ヨーロッパでも、こう言っては失礼だが経済発展がスローモーだった国にアナログ再生機が残っていて、(DJブームとは無関係に) 90年代もアナログ需要があったのだと考えられる。

早速聴いてみると、正直コレに関してはCDとそう変わらなかったけれど、改めてまろやかで成熟した音だと思った。インナースリーヴのシンプルなアート直筆のトラック・リストは1981年の『Scissors Cut』を思わせる。新録で目立つのはジェイムス・テイラーとのデュエット”Crying In The Rain”、そして同じプロダクション(ジェイムスとドン・グロルニック制作)でのスタンダード”It’s All In The Game”。この2曲がA面とB面のそれぞれ1曲目に配置されていた。こうした点はアナログで聴いて初めて気が付く。”Crying In The Rain”はサイモン&ガーファンクルが多大なる影響を受けた兄弟デュオ、エヴァリー・ブラザーズの楽曲で、ジェイムスとは只ならぬ縁があるご存知キャロル・キングの楽曲。これをアート&ジェイムスでやるというのも良い。ちょっと神経質なほどの都会のリベラルなインテリといった風情はポール・サイモンともども共通するものがあるし、だからこそ、S&Gの関係が悪い時期に3人で”(What A) Wonderful World”を演れたのだろう。


そして変則的なベスト盤のような形態ながら、アートにとって大切なソングライターであるジミー・ウェッブ作品(”All I Know”と”All My Love’s Laughter”は1989年の録音、故ジェフ・エメリックもプロデュースに加わっていたクリスマス・アルバムからの”The Decree”にとどめはニッキー・ホプキンスとライブ録音した”Skywriter”!)やスティーヴン・ビショップ作の発音源化となる1980年のテレビ主題歌”One Less Holiday”も。そしてもちろんポール・サイモンとの”The Sound Of Silence”はドラムスをオーバーダビングする前のアコースティック・ヴァージョンで。この辺はアートの好みに加えて、当時のアンプラグド・ブームにもフィットしていたように思う。そしてS&G解散についてのポールとのやりとりを収めた”The Breakup”は、当時日本で受け入れられず、相当評判が悪かったのを覚えているけれど、こういうアメリカン・ジョークがわからないと彼(ら)の音楽もまたわからなくなってしまうと思ったり。”The Breakup”は当時強烈なインパクトがあったポール・サイモンの3枚組ボックス・セット『1964/1993』にも収録されていた。アートのボックスはついぞ作られなかったから、今思えば、ノスタルジー・サーキットを回っていたアートと当時のポールは格差があった気もする。しかし、ある意味で言えば、ティーンエイジャーの頃に胸ときめかせたドゥ・ワップからフォーク、スタンダードまで、時代を超えた古びない音作りをしてきたことに驚かされる。何より美しいアートのボーカルを生かすには、こうしたスタンダードなバックトラックが必要になるのだろう。ダイアー・ストレイツの”Why Worry”(これももう1つの新録)がオリジナルであるかのようにぴったりフィットするのは、楽曲の目利きアートならではだ。

ちなみにジャケットに映る赤ちゃんは恋人ローリー・バードの自死を経て、愛する妻キムとの間にアートが授かった男の子、ジェイムス・ガーファクル。後に若き日のアートそっくりの天使のような姿となり、アートの公演では"The 59th Street Bridge Song ( Feelin' Groovy)"をデュエットしていたのが懐かしい。

現在もアートの公演に時折同行するのだけれど、いかついスキンヘッドになっていて驚いた。

Steve Marriott / Marriott ( A&M / 1976 )

markrock2018-10-12


今聴いているのはスティーヴ・マリオットのソロ『Marriott』。スティーヴ・マリオットは1991年に44歳という若さで不慮の事故で亡くなった。もうちょっと長く生きていれば、キャリアを総括する名作を再び生み出せたのにな、といまだに思う。最近はハンブル・パイなんかも、地味にアメリカ盤オリジをLPで集めていたりする。

スモール・フェイセス〜ハンブル・パイと活躍したイギリスの才人なれど、器用の対極にあるようなイメージもある。だがしかし本作は豪華ゲストが大挙参加し、ソロとして唯一の最高傑作と言ってもいいだろう。しかもブリティッシュ・サイドとアメリカン・サイドでA・B面を分け、後者ではアメリカン・ソウルへの愛情を露わにしている。ブリティッシュ・サイドではハンブル・パイのグレッグ・リドレー、Tレックスのミッキー・フィン、そしてキング・クリムゾンのイアン・ウォーレスが参加。ロバート・プラントも憧れたというメタリックなシャウトも好調で、ハードなロック・サウンドを聴かせてくれる。ボビー・ウォマックでお馴染みの”Lookin’ For A Love”をハード・ロック化しているのも英国的解釈で面白い。”Wam Bam Thank You Ma'am”はスモール・フェイシズの再演。”Help Me Through The Day”はレオン・ラッセル作品でフレディ・キングが初演。


で、どっちが好きか?っていうと当然好みはB面のアメリカン・サイド。ブリティッシュ・ロック一辺倒な人ってリアルタイム世代に結構いて、そういう人は大抵ハード・ロックに行っちゃうんだけど、こういうのは受け入れられないみたい。でも、むっちゃファンキーだし、尖ってた時代のデヴィッド・フォスターがキーボードと弦・ホーンのアレンジをやっているし。ギターはレッキング・クルーのベン・ベネイ。ドラムスはマイク・ベアード。レッド・ローズのペダルスティールに名手デヴィッド・スピノザのギターソロも入ったり。清志郎がMGズをバックにがなる、みたいな「力み」が最高。黒人音楽への憧憬と、承継と。

ジャケにはなぜかドラムスのイアン・ウォーレスのサインが!クリムゾン関係で来日していたから、その頃に誰かがもらったのかな。