いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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フィル・スペクターのこと

*[コラム] フィル・スペクターのこと

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昨日、職場のロック好きの方から「フィル・スぺクター亡くなったみたいですよ…」と聞かされて時が止まったような。現役バリバリの南正人さんがステージで亡くなったと聞いた時も、かなりショックだったのだけれど、それに続いてフィルが…しかも新型コロナで。フィルの場合は栄枯盛衰激しい人物で、晩年は薬物中毒の影響もあったのか、女優ラナ・クラークソンを殺したかどで服役していたし、現役の音楽活動は見込めない状況だったからなんだか余計に複雑な気分にもなった。つまり彼、セックス・ドラッグ&ロックンロールの最後の亡霊のような人だったように思える。とはいえポピュラー音楽、とりわけロックンロールの世界において、彼ほどの業績(気に食わないとスタジオですぐ銃をぶっ放すという人間性と反比例する)を挙げたミュージシャンはいないだろう。誰かとロックの話をちょっと突っ込んですれば、必ず彼の名前にぶち当たる。つまり、日本のフィル・スぺクター・大滝詠一言うところの、ポップス/ロックンロールの「定石」を作り上げた人だということになる。ロネッツ”Be My Baby”やクリスタルズ”Da Doo Ron Ron”を始めとしたロックンロール全盛期のフィルのウォール・オブ・サウンド音の壁)に魅了されたのは、ロックンロール第2世代のビートルズジョン・レノンジョージ・ハリスン(彼らは実際フィルにプロデュースを依頼した)のみならず、ビーチ・ボーイズの天才ブライアン・ウィルソンも含まれる。ブライアンと比してフィルは、カート・ベッチャーやジョー・ミーク同様メロディ・メイカーではなかったけれど、スタジオをコントロールする特徴的なプロデューサーとして、ライブの身体性の対極にある狂気の音作りでマジカルな音世界を提示した。ジョン・レノンの”代表作Imagine”の不安定なエコーの残響は結果的に、現実を飛び越えた理想=イデアを思わせる異空間を演出することに功を奏したわけだけれど、それは自らの現実的な容姿における自信のなさやコンプレックスを覆い隠すフィルの精神構造のなせる業だったのかもしれない(おそらくユダヤ系という出自も無関係ではない)。

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そうそう、ローリング・ストーンズのセッションに招かれたこともあったし、70年代のセッションに同席したブルース・スプリングスティーンをはじめ、ビリー・ジョエルのような後進も育った。忘れられないのは数年前、新宿の中古レコード屋にて。なぜか隣でレコードを漁っていたあのジミー・ペイジご本人が恍惚と手に取っていたのは、フィル最初のバンド、テディベアーズのオリジナルLPだったこと。

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しかしバック・トゥ・モノという彼の美学は懐古というより時代が一回り以上してラジカルにも思える。一番良い音で聴くなら、フィレスの米盤シングルだろう。私が中古レコード屋に通うようになった頃は一枚4800円とかそういう世界。今だとキズ盤なら運が良ければ1500円くらいで買えることもある。

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『Philles Records Presents Today's Hits』という1963年のコンピも最高。ただコレ、昔あるレコ屋で安く買ったら音飛びがひどかったので売り、また数年経ってあるレコ屋でまた安く買ったら、あの時売ったやつだった…という悲しい出来事があった。また売っちゃいましたが。そんなこんなで、気軽によく手に取るレコは永遠のクリスマス・アルバム『Christmas Gift for You From Phil Spectorや、実はフィレスものとの初めての出会いだったライチャス・ブラザーズ(中学生の時になぜか父が買ってくれた)、そして1977年のワーナー・スペクター・インターナショナルのPhil Spector’s Greatest Hits』

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あとは70年代の微妙なやつが実はツボで、レナード・コーエン『Death Of A Ladies' Man』、ディオン『Born To Be With You』、そしてフィルの実質ラスト・プロデュース作(2003年のStarsailor”Silence Is Easy”もありましたが…)となった1979年のラモーンズ『End Of The Century』(このLPの音は凄い)が特に大好き。私はこの1979年に生まれましたが、イギリスでは新自由主義経済が採用され、中国も市場経済を導入する完全な時代の節目(ある種の「End Of The Century」)だった。フィルの時代もここで終わるわけですね。指揮棒振って管楽器を時代錯誤にロックンロールさせたような” Do You Remember Rock 'N' Roll Radio?”を騒音公害レベルの音量で聴くのは最高の瞬間だ。さらにリマスターで言えば、2011年の7枚組『Philles Album Collection』、および怒涛の各種プロデュース・アーティストのベスト盤の音質が白眉。コレは凄かった。1991年の4枚組CD『Back To Mono(1958-1969)』を聴いた時、正直余り良い音に思えなかったけれど、このリマスターで激レアなオリジナルが聴けないファンは留飲を下げたのだった。

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