*[ジャズ] Tuck & Patti / Tears Of Joy(Windham Hill Jazz / 1988)
ジャズギターとボーカルだけの夫婦デュオ、タック&パティ。見たところ、ひと頃のバンキー&ジェイクのように見えるかもしれない。彼ら、超絶テクニックを誇るタック・アンドレス(デビュー前はGap Bandのセッションメンだったんだとか)と、ソウルフルでエモーショナルなボーカルで思わず胸を鷲づかみにされてしまう、パティ・キャスハートの二人組。たった二人の音だということを忘れてしまう程の素晴らしい演奏を続けざまに演じる。大学生くらいの頃、実家近くにあるカフェみたいな所になぜか彼らが来たことがあったけれど、5000円というチケット代がなくて、行けなかった。本当にお金がなかった。一生後悔するレベルの出来事。彼らもすでに70歳前後…いつか生演奏を聴ける日は来るのだろうか。
1988年にウィンダム・ヒルからリリースされたこのファースト・アルバム、ボブ・ドローの”I’ve Got Just About Everything”も印象的なのだけれど、何といってもシンディ・ローパーのカバー、”Time After Time”に尽きるのではないだろうか。かつて鬼束ちひろが全く同じ歌い回しでカバーしていたことがあったけれど、レイ・チャールズがビートルズを唄った”Yesterday”同様、この名演で一つのスタンダードを作り上げてしまった。音の抑揚、心と伴走するリズム、言葉を汲み取った歌とギターの表現力…何を取ってみてもこれこそが音楽。何よりソウルが感じられ、涙が止まらなくなってしまう。「ソウル(たましい)」という、目にも見えず数字にも置き換えられないものが確かに存在していること、それがいちばん大切だということに改めて気付かされる。昨年末の紅白歌合戦も村祭りのカラオケ大会のようにしか聴こえず、申し訳ないけれど口パクで踊っている人たちにも一切関心が湧かなかったけれど、出場していなかった細川たかしやゲストで出ていた玉置浩二の方がよっぽどソウルを持っているということにはなるだろう。タイトル曲”Tears Of Joy”もとても良い。うれし涙、という意味になるけれど、喜びと涙というのは相反するイメージもある言葉だから、イマジネーションを掻き立てられる部分がある。CD時代の作品だけれど、ウィンダムヒルのリリースだし、もしかしてヨーロッパやアメリカではLPも出ていたのでは…と先日discogsで探してみると、マンハッタンのレコ屋にて4ドル99セントで発見!安レコでもすぐに送ってくれました。アナログでタック&パティを聴けるなんて…有難いことです。