*[日本のフォーク・ロック] 山下達郎 / 僕の中の少年(2020Remaster)(Moon / 1988)
変な話、毎週1~2回床で寝てしまうというこの悪癖をどうすればよいのだろうか。本を作っている時などは大体深夜2時とか3時に寝るという生活が年単位で続いたので、そんな日も多かったわけだけれど、その作業がなくなっても悪癖は治らない。で、レコードは大抵かけっぱなしで白い粉が噴き出ているという…しかし針が痛んだかと思って、以前は針を交換したこともあったけれど、実は余り痛んでいないのではないかと最近思うようになった。ダイアモンド針とするならば、むしろ痛むのはレコードなのではないか。「レコード針交換しなくてもいい説」は昔からあるけれど、その真偽がわかる頃には自分の命も尽きているだろう。
さて、竹内まりや初の映像作品『souvenir the movie 〜MARIYA TAKEUCHI Theater Live〜』で、ギター上手い!と思わずクギ付けになってしまった山下達郎のシンガーソングライター名盤ともいうべき1988年の『僕の中の少年』(2020Remaster)のLPが再発されたけれど…良音でした! CDの印象が強い作品だが、(達郎最後の)LPも当時出ていた盤。とはいえLPは数が少なく、中古では万単位のレアもの、という印象があったので、まっ先に手が伸びてしまった次第。今回同時にリマスターが再発された『Pocket Music』はオリジナルLPの入手も容易なのだけれど。
分厚い180g重量盤2枚組。リマスターされた音をLPで再現するにはこの仕様しかなかったのだろう。ただ、片面2曲だと裏返すのがちょっと面倒だし、A面B面というLPの流れからすると、1枚両面に収めて欲しかった気も。そういう意味では、シングルみたいに正座聴きする盤かも。ちなみにLPだと音が落ちたように感じる現象が起こるのは、デジタル・レコーディングの産物ゆえ。デジタルの音をアナログにすると、LPよりはEPの方が良音、というのはあるにせよ、確実に音が落ちてしまう。以前私家盤で自分のアルバムのLPを2枚だけ作ったことがあったけれど、音質は落ちましたね。そんな定説からすると、流石!『僕の中の少年』(2020Remaster)のLPは想像以上の音質だと感じられた。
達郎さんの新たな解説には、30代後半(私はその年を超えてしまった!)の作品であったこと、ミュージシャンとしての将来への不安と、大人になっていく実感と抵抗感を内省的に吐露した作品であったこと、その想いを篭めた「僕の中の少年」が彼にとって唯一の日本語タイトルのアルバムとなったことなどが綴られていた。まずは”Get Back In Love”のシングルを買って(アルバムは高かったから…)、それからアルバムを手に入れた10代の頃には気が付かなかったけれど、ジャケットも含めて実にシンガーソングライターらしい作品として、無意識に愛聴していたことを初めて自覚した。近年海外から参照される、ファンクを土台としたシティ・ポップなタツローというパブリック・イメージに合致する”踊ろよ、フィッシュ”などはあるにせよ、日本語のタイトルや藤山一郎をコラージュした”新・東京ラプソディー”に示されるように、海外の音楽を血肉化させた自らの音楽を日本的文脈の中に再び据え直した、ある種の歌謡性を湛えた作品だったのかもしれない。ドゥ・ワップに骨抜きにされた彼が逆に黒人アカペラグループの14カラットソウルに提供した”The Girl In White”のセルフカバーも収録されている。ちなみに本盤を買ってまず針を下ろしたのは、桑田佳祐・原由子夫妻と、竹内まりやがコーラスに加わった”蒼氓”だった。
『ARTISAN』のLPが聴ける日はいつか、訪れるのだろうか。