いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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【書評掲載】
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『日本教育新聞』2019年3月18日 都筑 学(中央大学教授)「先哲から学ぶ人生の知恵」
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大江千里 / Boys & Girls(Sony / 2018)

markrock2018-12-17


隠れ大江千里ファンって男性に多いんじゃないかな。何を隠そう私もそのひとり。アルバムは全部聴いていると思う。渡辺美里とかエピックソニーの関連作から入って、リアルタイムでは”格好悪いふられ方”がミリオンになったのを目撃した。ジャズ化してからも一応追っている。そう、ここ数年でアナログも大体揃えた。ちなみに2017年にアニメーション映画言の葉の庭新海誠監督)のエンディングテーマとして秦基博がカバーした”Rain”が入っている『1234』だけ値上がりしてるのと、ベスト盤『Sloppy Joe』はアナログの枚数が少ないのでレアになっている。後者はまだ買っていないけど。そう、意味も無く香港ではいまでも売っているカセットテープを取り寄せて音を比べてみたりも。


で、なぜ槇原敬之にも影響を与えた(特に詩の世界なんて)優れたシンガー・ソングライターである彼が歌うことをやめて、単身47歳でNYに渡りジャズの世界へ飛び込んだのか…。日本のファンの方は奥ゆかしいのでそんなこと言いませんし、ご本人もいつかやりたかったジャズに挑戦したかった、みたいなことを仰っておられますが、空気を読まずに言ってしまうと、昔のような声が出なくなってしまったからだと思う。2000年前後くらいから、かなり辛そうになっていたのは、アルバムを聴いてわかっていた。作曲家になるという手もあったのかもしれないけれど、おそらく現役プレイヤーであることにこだわったのだろう。結果、ジャズピアニストの道に辿り着いたのではなかろうか。

で、若い学生に混じってニュースクールという音大に入学し、悪戦苦闘の末ジャズ・ピアニストとしてデビューを飾って…2016年の前作『answer july』ではなんとシェイラ・ジョーダンやベッカ・スティーヴンスと共演ですよ。素晴らしい。しかもアルバムを出すごとにピアノの力量が上がっているという。ここまで来ると、後ろ向きな理由はもはや見えて来ない。才能と努力を掛け合わせると、ここまでミュージシャンとしての可能性を広げられるということに驚かされる。そしてデビュー35周年、58歳を迎えた大江千里の今作『Boys & Girls』ではとうとう自身のヒット曲をジャズ・ピアノ化。前作の付属DVDにあった"秋唄"のアレンジが見事な仕上がりだったので、いつかは他の曲も…とは思っていたけれど。”Rain”に始まり、”ワラビーぬぎすてて”、”格好悪いふられ方”、”十人十色”、”BOYS & GIRLS”、”YOU”、”ありがとう”……「うわぁ、うわぁ、」って言ってる間に聴き終えてしまった。新曲”Flowers”、”A Serena Sky”もある。録音はとても良い。しかも自分の曲だから、料理の仕方を心得ている(それでも無茶苦茶練った痕跡が感じ取れる)。しかもピアノだけ、なのに歌が聴こえてくるという。歌心とはこういうことを言うのだろう。J-POPの聴かれ方がワールドワイドになっている今だからこそ、このアプローチは面白いかもしれない。そして何より、千里メロディーを愛していたことに改めて気付かされる。

『Sloppy Joe2』を特に愛聴していた身からすると、全曲解説っていう千里さん自身のライナーノーツが嬉しい。初回限定盤には収録曲のオリジナルのリマスターが入っていて、そちらも素晴らしかった。現在ジャズ・ピアニストとしてNYでの活動が全て、なのかもしれないけれど、旧作のエキスパンデッド・エディションなんかも是非やって欲しいし、大江千里トリビュートとか、そういったイベントを日本のレコード会社はもっと早くやっておくべきだった気もする。トリビュート・ライブでは最後に1曲だけ"ありがとう"をピアノ弾き語りで千里さんが歌う…なんていう演出を妄想。今後に期待をこめて!