*['60-'70 ロック] Harry Nilsson / Losst And Founnd (Omnivore /2019)
前回リンゴを取り上げたから、というわけではないけれど、1994年に52歳の若さで亡くなったハリー・ニルソンの未発表アルバム。タイトルは表題曲”Lost And Found”を思い入れたっぷりに「本当に待たせたよ!」と言わんばかりの『Losst And Founnd』。プロデュースはハドソン・ブラザーズの、というより90~00年代リンゴのプロデューサーとして知られるようになるビートルズ狂・マーク・ハドソン。彼ももう68歳になるわけですか。
ジャケが簡素すぎて、たいしたことないのかと思ったら、聴いてみたらおそろしく良かった。ポップの良いとこどりのような。ブライアン・ウィルソンの未発表音源をアルバムにしたような感じ、でもあるし、ビートルズのエッセンスをリンゴの『Time Takes Time』や『Vertical Man』の如くまぶしつつ、やっぱりニルソンだし。いや、ジョンが生きていたら、と思わせる部分もあったり。それにしても、ちゃんとニルソン自身のボーカル(コーラス含)を入れたトラックをここまでちゃんと作りこんでいたとは! 1980年の『Flash Harry』以来、アルバムをリリースしないままだったのだが、亡くなる直前にはアルバム用の音源を作っていたのだという。自作・共作(マークやペリー・ポトキン・Jrと)・カバー含め計11曲、ニルソンが健在ならビートリーな傑作に仕上がっていたことを伺わせる(”Try”には”All You Need Is Love”風のコーラスを入れてみたりと遊びゴコロも)。声は期待していなかったけれど、思ったより酒ヤケでもなく、けだるくも伸びやかで、曲によってはディランのようでもあり。まさかディランの現在のああいう展開も90年代半ばにはまだ想像できなかったわけだから十分許容。ドラムスは7曲でジム・ケルトナー、アコギやベース、コーラスにマーク・ハドソン、ピアノはジム・コックス、そしてベースはニルソンが残した息子キーフォ・ニルソン(YouTubeに父をカバーするライブ映像もある)が時空を超えた共演。父が亡くなった時10歳にもなっていなかったキーフォが参加していることからすると、録り直し・アレンジの作り込みを加えてのリリースであるということだ。コーラスにはゲイリー・バーとか、リンゴとも共通する固い人選。ヴァン・ダイク・パークスがアコーディオンで参加する”Woman Oh Woman”とか“Imagine”のベーシストでもあったクラウス・フォアマンがベースで参加するオノ・ヨーコのカバー”Listen, The Snow Is Falling”もある(これは当時のリズム・トラックをそのまま生かしたと思われる)。そして涙がちょちょぎれたのはジミー・ウェッブ自身が感情たっぷりのピアノ伴奏を務めた”What Does A Woman See In A Man”。名唱…これはすごい!ニルソンの歌の巧さが光る。思えば彼は優れたソングライターにも関わらず、ヒット曲はフレッド・ニール("Everybody's Talkin'")、ピート・ハム("Without You")…と歌手としてのものが多かった。人の曲を歌うと素面になるような所が魅力だったのかも。”What Does A Woman See In A Man”はウェッブの1993年の名盤『Suspending Disbelief』に入っていた曲、ニルソンへの提供曲だったとは…トリビュートの意味合いがあったことに今更ながら気付く。1995年のニルソン・トリビュート『For Love of Harry: Everybody Sings Nilsson』(これはリアルタイムでカセットで買った)にもジミーが参加していて、その理由は当時わからなかった。
そうそう、ニルソンといえばその諧謔も含めて大滝詠一に多大なる影響を与えていると思う。ポールほどメロディアス一辺倒でもなく、ジョンほど骨っぽくもないとなると…ニルソン(笑)。ノスタルジックな雰囲気といい、今作は空飛ぶくじらや五月雨の気分とシンクロする瞬間もあった。『ロング・バケイション』がレコーディングされた1980年の『Flash Harry』がニルソン実質のラスト・アルバムになったわけだから、大滝さんの先を行っている。大滝さんの新作が噂されて怒涛の再発リイシューが始まるのが、ニルソンが亡くなった翌年の1995年だったことなども思い出された。「こんな時、ニルソンがいてくれたらナァ」(もしかしたらあの時大滝さんもアルバムを…)と思ったりする、もはや2019年でございます。