一番好きな声、と言われたら「アート・ガーファンクル」と答える。これは何十年たっても揺らがない。だから、病気で一時期声を失ったものの、少しずつ復調して、昨年も来日してくれたことを嬉しく思う。思えばアーティがきっかけで出会ったアーティストにジミー・ウェッブ、スティーヴン・ビショップ、ティム・ムーア、ギャラガー&ライル、マイク・バットらがいた。あるいはアーティのアルバムに携わったプレイヤーが参加した作品なら、内容に間違いはない…といった風にレコードを買ってきた。アーティはそれぐらいの目利きだと思う。だって、アメリカで一番のソングライターだと言っても過言ではないポール・サイモンを相棒にしていたくらいなのだから…。
そんなアーティの音源は聴きつくしてきたけれど、最近はカセットやらLPやらで聴き比べに興じている。例えば『Garfunkel』のLP。今なら2012年の2枚組自選ベスト『The Singer』に止めを刺すにしても、それまでは日本でもCDで長らく定番だったアーティのベスト盤だ。シングル盤のみのリリースだったティム・ムーア(ダリル・ホールがいたガリヴァーのメンバー)作の”Second Avenue”はここでしか聴けなかった。ちなみにアートのシングル盤にはアルバム未収録(”Is this love?”とか)やヴァージョン違いがあって、CD化はおろか、まとまった形でいまだリリースされていない。”Is this love?”はローリー・バードという伴侶の死から立ち直る辛い時期のリリースだから、思い出したくないのかもしれないけれど。
脱線したけれどこの『Garfunkel』、1988年リリースでLPが少なくなっている時期。一般的にCD全盛の1990年から1993年前後くらいのアナログはリリース数が少ないため、希少化している。だからか、あまり日本の中古屋でも見かけない。そんなわけで、デンマークのレコ屋から取り寄せた。アメリカは送料が高騰していて、レコ1枚で買うと痛い目を見る。『Lefty』(これは日本でもアナログが出回った)収録の”When A Man Loves A Woman”からスタート。尺八のソロというのが日本では特に賛否両論だったみたいだけれど、60年代文化の残滓、ニューエイジ的文脈だと尺八はよく使われていたから、違和感は無い。抑制された品のいいサウンドとボーカル。70年代前半から80年代後半までの代表曲の数々は、時代の変化に耐えうるもので、並べても統一感がある。作品は一つの美学の上につくられていたことがよくわかる。これからも一番好きな声、と言われたら「アート・ガーファンクル」と答えるだろう。