/ Cover Book 1 大瀧詠一カバー集Vol.1 ( Sony / 2010 )
流石に呆れ果てているはずのナイアガラーなのだけれど、3月21日に3枚を買った人はどれだけいたのだろう。今回取り上げたカバー集と、SONGBOOK Iの拡大盤と、ファーストのトリビュート盤の3枚。95年の再発シリーズに比べて、近年のリマスターものや今回のラインナップは確実に売り上げや影響力が落ちているなと肌で感じる。
もう正直才能が枯渇してしまったことをご本人もよく自覚してらっしゃるのだろう。シングル単発での復活曲”幸せな結末”&”恋するふたり”も往事のきらめきが失われていたし(声が低くなってきたこともあるのだろう)。クオリティが下がるくらいなら出さない、というのは潔いやり方なのだけれど、だからと言って芸のないリマスターを買う気は起こりませんよ。ここまで保守でいかれると醒めます。全然ロックじゃないよね。アーティストがそのつもりでも、リスナーは保守したらダメなんだよ、と改めて自らを戒める。
さて、ぶつくさ言いながらも『Cover Book 1』は購入。女性シンガーによるロンバケのカバー集『A LONG VACATION from Ladies』(2009) は世紀の駄作だったし、若い世代のトリビュートと言われても一切食指が動かなかった春夏秋冬一連のカバー集に比べると、大滝自身の監修だったり、井上鑑の編曲モノが多く含まれていることも純正度を高めている。
何といってもLPで持っていた音源がこうして手軽に聴けるのも個人的には嬉しいし、聴いたことがなかったものも多数。スターズ・オンもののメドレー、M-1”ナイアガラ・CM BOX”(ライジングチャートバンド)なんて笑っちゃう出来の良さ。スターズ・オンものが好きな人は来ます。百瀬まなみのM-3”カナリア諸島”(「にて」が無い)もレア音源だし、CMで歌った太田裕美のM-2”風立ちぬ”ってのも、大滝と関係が深い太田裕美だけに楽しめた。
完成度ではサーカスのM-5”夢で逢えたら”は素晴らしい。あと、息子世代のトリビュートでは曽我部恵一が編曲を手がけたキタキマユのM-6”あなただけI LOVE YOU”は愛情たっぷりで見事。ピチカートのM-7”指切り”も改めて良いなぁ。
まあファンなら、個別に持っている音源だったりするわけだけれど、こうして聴いていると、トータルとしての完成度を実感させられ圧倒される。様々なアーティストが取り上げているけれど、大滝の個性がつぶされないどころか、彼自身が歌っている音が同時に響いてきてしまう。メロディアスに聴こえて、全く実はアクが強い音楽なのだと思う。
それと共に、パクリだろうが何だろうが、勢いでぶっ放していた頃の大滝はやっぱり凄いなと。この歳でコレやっちゃうか、という恐れを知らぬアプローチがもう一度見たいよ。石橋を叩いて渡っているようで、無意識的な動物的カンで音楽を作ってきたはずだよ、この人。近年は色々御託を並べて、帳尻合わせに終始しているけれど。