いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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John Sebastian and Arlen Roth / Explore The Spoonful Songbook

*['60-'70 ロック] John Sebastian and Arlen Roth / Explore The Spoonful Songbook ( BMG /2021 )

 

ヨーロッパではまた感染拡大が心配されておりますが。そんな中でもコロナ禍を抜け出した新譜やら再発やらがここへ来てドドっと出てきていて。搔き集めているけれどとてもじゃないけれど耳が追い付かない。なんだかんだよく聴いているジョン・セバスチャンとアーレン・ロスの共演盤『Explore The Spoonful Songbook』を。コレ、CDで入手してみたけれど、LPで買えばよかったかな。まだ間に合うか。

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ジョンと言えば、30年前くらいからボーカルが取れなくなったとか、色々言われていて。フリッツ・リッチモンド・トリビュートで来日したときに、その意味はわかったのだけれど、今作では結構歌ってるんですね。でももはやここまで来ると、”ラヴィン・スプーンフル”のネタ元であるミシシッピジョン・ハートの領域に達していて。どうにも和む最高の唄声に思えてくる。そして今作の相方アーレン・ロスと言えば、ウッドストック・マウンテン・レヴューでもお馴染みのグッドタイム・ミュージックをやらせたら最高のギタリスト。ストリング・ベンダーの名手でもある。彼のセカンド『Hot Pickups』を初めて聴いた時は、間違いないと思いました。ジョニー・リヴァースの”Poor Side Of Town”とかパーシー・スレッジ”When A Man Loves A Woman”、ロイ・ヘッドの”Treat Her Right”なんかが入っていて、この人分かってるな、と感心してしまった。

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で、今作はそのアーレンが企画したアイデアなんだとか。ストーンズサイモン&ガーファンクルのトリビュート作をすでに作っていて、知り合いだったジョンに満を持してスプーンフル・トリビュートを提案したようだ。アーレンは幼い頃からのスプーンフル中毒だったらしいので、元アレンジも頭にしっかり入っている、しかもスプーンフルのギタリストだったザル・ヤノフスキーのユーモアと精神をちゃんと理解している人だったということ。この辺りがジョンの心を動かし、本プロジェクトをスムースに進行させることに繋がったのだろう。ゲストはジョンとの共演歴もある60年代トリビュートな音楽活動をしている若手の双子モナリザ・ツインズ、そしてイーヴン・ダズン・ジャグ・バンド以来の盟友ジェフ・マルダー、そして彼の元妻マリア・マルダー(マリアの2009年作にもジョンはデヴィッド・グリスマンやタジ・マハールダン・ヒックスらと共に参加している)。ジョンが歌って絶品のハープを吹くラストの"Darling Be Home Soon"が白眉だろうか。”Daydream”や”Do You Believe In Magic”が歌モノでないことに失望する人がいるかもしれないけれど、個人的には歌が聴こえてきました。いやこれ、歌心のあるすごい演奏だと思いますよ。

 

曲目でもう悶絶。

  1. Lovin' You
  2. Darlin' Companion
  3. Daydream
  4. Jug Band Music
  5. Four Eyes
  6. Younger Girl
  7. Rain On The Roof
  8. Didn't Want To Have To Do It
  9. Did You Ever Have To Make Up Your Mind?
  10. Do You Believe In Magic?
  11. Nashville Cats
  12. You Didn't Have To Be So Nice
  13. Stories We Could Tell
  14. Darling Be Home Soon

レコードとっかえひっかえ

*[コラム] レコードとっかえひっかえ

 

釣りに熱中しすぎて、ブログの更新を忘れておりました!レコードはいぜんとして買い続けておりましたが。そうそう、ご近所の家族ぐるみで親しくさせて頂いている方から、先日レコードをたんまり頂いてしまいました。なんかこういうの、すごく嬉しいですね(ありがとうございます)。思い出話も聴きながら、ポータブル・プレイヤーでかけながら…海外に行かれて戻って来ることがなくなったミュージシャンの方から預かったものであるそう。渋さ知らズのメンバーだった方がジャズのレコは抜いていかれた後とのことで、80年代半ばのロック・ポップスが中心。個人的にはCDで買い集めていた時代の作品だから、定番アルバムでもレコードで聴けるのが嬉しい!一枚ずつ綺麗に拭きながら、とっかえひっかえ、新たな発見もあるから面白い。

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それにしても、少しずつ日常を取り戻しつつある現状になった、といってよいのだろうか。まだまだ大変な状況の方もいらっしゃるとは思うけれど。急激に寒くなり、季節も変わっていく今日この頃。音楽の世界でも、明るい新作がぽつぽつ出てきている印象。今度はジョン・セバスチャン&アーレン・ロスのまさかの新譜をほっこり聴いてみよう。

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John Mayer / Sob Rock

*[ロック] John Mayer / Sob Rock ( Columbia / 2021 )

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youtu.be

もう本日30回ぐらい聴いたかな…というジョン・メイヤーの新譜『Sob Rock』。ジャケット見て笑っちゃいました。完璧な80年代仕様。YouTubeで”Last Train Home”を聴いてみると、シンセがまさに”Africa”時代のTOTOそのもの。しかもTOTOに参加しているキーボーディストのグレッグ・フィリンゲインズとパーカッションのレニー・カストロもいるという。マレン・モリスがゲスト参加する後半のコーラスも良い感じ。こりゃ仕掛け人は誰だろうと思ったら、メイヤー自身とドン・ウォズでした。ドン・ウォズはボニー・レイットやディランのプロデュースで有名になりましたが、近年はブルーノート・レコードの社長をやりつつ、ストーンズブライアン・ウィルソングレッグ・オールマンライアン・アダムスなんかをプロデュースし、やりたい仕事でルーツ回帰している模様。ストーンズが混じっていたとしても、ある種の広義のアメリカーナなんですよね。ジョン・メイヤーもそこに違和感なく含まれる。ドンは見た目がデッドのジェリー・ガルシア化していると思ったら、ボブ・ウェアの現行バンドのメンバーにもなっていた(ジョン・メイヤーも現行デッドとアルバムのツアーをやるみたい)。

 

話を戻って、このジョン・メイヤーの新作。アナログで買ったんですが、YouTubeで聴きまくってたのとまた印象が変わりまして、音良いですよ。ってかフェティシズム的なつくりですよね。レーベルはしかもコロンビア。シュリンクにシールが貼られた、薄手の輸入アナログでいうと、中古で450円ぐらいで売ってたような…あの感じ。もう最高ですよね。カセットも往年のコロンビアのつくりで出しているみたいだし、Spotifyで見かけたのはあの「Nice Price」が貼られたやつ!いやはや、ノスタルジーを刺激する仕掛けが素晴らしい。タイトル『SOB ROCK』もセンスがいい。Sobはすすり泣くという意味なのだけれど、私なら『涙ちょちょ切れロック』と訳しますね(笑)

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地味と思う人もいるかもしれないけれど、聴き続けていくと、おそろしく練られた普遍性をもつサウンドとメロディだとわかる。そして涙がちょちょ切れるという。歌モノの体裁ながら、ギターは要所要所、弾きまくってます。ピノ・パラディーノが参加した”New Light”にはa-haの”Take On Me”とか、歌詞にはキング・ハーヴェストの”Dancing In The Moonlight”が含まれていると思ったり。マレン・モリスがハーモニーをつける”Why You No Love Me”はエア・サプライの”Even The Nights Are Better”のリズムパターンが隠し味になっているような。”Wild Blue”はマック・ノップラーのダイアー・ストレイツとJ.J.ケイルを混ぜたようなクールなテイストで。そして”Shot In The Dark”はサビ後ろがバックストリート・ボーイズの”I Want It That Way”のメロディを彷彿とさせつつ、サウンドはエイティーズな切ない名曲で…

youtu.be

アルバムの文脈を説明するとき、「ヨット・ロック」というキーワードが出てくるだろう。ヨットがジャケットに出てくるような70~80年代懐メロといった意味で、日本独自ジャンルの「AOR」とは一部重なるけれど、重ならない部分もある。日本のAORはスタイリッシュとか洗練というキーワードで捉える人が多いけれど、そうした音楽はアメリカだとちょっとダサい歌謡ロックみたいなイメージがある。大好きですが寺尾聰みたいというか…コロナ禍にあって、こんな遊び心のあるアルバムが出て来たというのは、「あの頃はよかった」という参照枠としてヨット・ロック的サウンドが選ばれたということなのだと拝察する。じゃ、また聴こうっと。

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Mixed-Up Confusion(ゴチャマゼの混乱)

*[コラム] Mixed-Up Confusion(ゴチャマゼの混乱)

 

ブートレッグ・シリーズの新作リリースが告知されたボブ・ディランに1965年の性的虐待の訴えが起こされたとか。ディラン側は全面否定しているけれど、内心虚ろなニュースに聞こえたりも。目的は被害者自身の不快とされる経験の清算とお金だと想像はできる。セックス・ドラッグ&ロックン・ロール時代の様々なミュージシャンの逸話を知っているだけに(クリーンなイメージのあるビートルズのメンバーでさえ、あんなことやこんなことを…)、ディランへの尊敬は何一つ揺らがないんですが。もし真実だったとしても、歴史的文脈を無視して、現代のモノサシを何とかの一つ覚え的にあてはめることの暴力性ですよね。五輪の小山田・小林事件の時にも同じことを思いました。だからといって、現代におけるセクシャル・ハラスメントの加害者をまさか肯定したり、ここぞとばかりにポリコレ批判をする人たちに与する気持ちも、申し訳ないが全くない。どちらもある種の政治的主張を「ホレ見たことか」と裏付けるためだけのものだから。だから、(同じことをしても)叩かれる人もいれば、叩かれない人もいる。「五輪批判をした人が、フジロックに出ているのは矛盾」というのも正論でもなんでもなく、質と量を吟味するとあまり矛盾はしていないと思うし、「だから五輪も問題なかった」とはならないと思うのだけれど。マスコミをやり玉にあげる人もいるけれど、それもカタルシスみたいなもので、マスコミの倫理を監視する目は必要であるにしても、誰かがお金を出して情報を動かすためのそもそもメディア(媒介者)でしょ、という話にもなる。まあとにかく、こんな愚かな議論ばかりやっていると、社会はどんどんつまらなくなると思う。デジタルにお金を生み出す新自由主義成果主義、数値主義がリスクマネジメントやコンプライアンスを強いる余り、石橋を叩いて渡らせる社会へと人々を平準化させてしまったということ。元々新自由主義は、途上国に分け前を取られた先進国が、少ない分け前を安全パイで奪うために生まれた経済システムだったわけで。それを導入した小泉政権以来、「変なおじさん」はブルドーザーで一掃され、名実ともにこの世からいなくなってしまった(同郷の志村さん、大好きでした)。あと新自由主義者はお金が第一なので、芸術が手段になっちゃうんですよね。タワマンのてっぺんにいても、そういう趣味にお金を使うことはなさそうな感じ。タダなら音楽聴くのかな。いや、これは私のような貧乏人の考えか(笑)この辺は新自由主義が生まれた歴史的文脈なのだろうけれど、残念としか言いようがない。

 

「おれはつかまったゴチャマゼの混乱に ねえきみ そいつにころされそうだ

 さて 人が多くいすぎるんだよ でみんなよろこばすのはむずかしいよ

 さて ボーシは手にもってさ きみ おれは旅にでかけるのさ

 さて 女を探してる 同じゴチャマゼ頭の女をさ

 さて おれのあたまはナゾの山 からだの温度はあがっていくばかり

 さて こたえをさがしているんだが でもだれにきいたらいいのかな

 でもあるきつづける まよいもつづく それでもあわれな足はとまりはしない

 じぶんのすがたをうつしてみたい 上みて 下みて 宙ぶらりん」

 (ボブ・ディラン「Mixed-Up Confusion(ゴチャマゼの混乱)」片桐ユズル中山容訳)

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アナログのノイズ(雑音)

*[コラム] アナログのノイズ(雑音)

 

毎日ハシゴしながらレコード屋に通っている人は一定数いるに違いない。というのも、(ここ20年来、私もほぼ2日と空けずそういう生活をしてきたわけだけれど)お客さんを観察していると、新しく継ぎ足されたレコだけをジャンルごと巧みに見ている人が常にいるから。とはいえ、全ジャンル満遍なく好きな人、というのはとても少ないような。私自身、今まで様々な音楽愛好家に出会う機会はあったけれど、オールジャンルの音楽ファンに出会ったことは手のひらの数より少ない。忘れずにその人を覚えているくらいだし。ロックだけ、ジャズだけ、ソウルだけ、クラシックだけ、昭和歌謡だけ…なんてのがほとんど。で、最近レコ屋に行って思うのは、やっぱりアナログが地道に踏ん張っているということ。盛り返している、とはいいませんが、間違いなく踏ん張っている。オークションなんかでも、ロックやソウルの名作がアメリカ/イギリス/日本のオリジナル盤で結構良い値が付くようになっているし、巣ごもり需要もあってか飛ぶように売れている。巣ごもりだとレコードで聴きたくなりますもんね。和モノだと一部のシティ・ポップ名盤ですね。

 

一方、フォークやGSあたりは昭和歌謡に取り込まれて以来、信じられないくらい安くなってきていて、往時の10分の1くらいですかね。数がないものはまだまだ高いですが。とはいえオムニバス含め、持っていなかったレア盤の類はここ1、2年の価格破壊でほとんど手に入ってしまった。あと、レコ屋では最近20代と思しきお客さんが普通にアナログを買っていたりもする。ソウル・R&Bヒップホップ系にちょっと多い印象。この風景には、90年代から00年代初頭までのクラブカルチャー全開な渋谷をちょっと思い出したりも。しばらく若いお客さんは店から消えていたんですが。デジタルなサブスク・Bluetoothイヤホン聴きの対極として、アンプ・スピーカーでアナログ・レコードという古色蒼然としたリスニング・スタイルを理解する、真の音楽好きがいるのかも。とはいえアナログ購買者のメインは40代以上で、私の少し下ぐらいの世代が下限なのかな。

 

私は20年以上レコードを集めてますけれども、昔は高かったから余計ですが、結構レコ屋でバトルの様相を呈することも多かったような。10年くらい前までは特にアメリカやカナダのフォークやシンガー・ソングライター系を集めていたので、セールなんかになりますと、人口が多かった団塊前後のオヤジ達(ちょうど私の親世代)がですね、その競争意識むき出しで、体当たりとかよくされました。汗まみれの二の腕を押し付けて「どけや」とか何度も言われましたし(笑)私も負けじと無言で押し返したり、買うレコ50枚積んで追い返したり…本当に大人げないですよね…今思い返しても恥ずかしいけれど、音楽を聴くために必死だった時代が確かにあったのだとは思う。でも客層が若返るにつれて、そういうお客さんも少なくなってきたのだけれど(今はソーシャル・ディスタンス…)、世間の音楽に対する飢餓感も同時に薄くなっていったという。飢餓感がときに流行や文化を創りますので、良し悪しと思いつつ。

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あとこれは自戒をこめて、のお話。職業柄、10代と接する機会も多いけれど、彼らが古い音楽に接するチャンネルは年々極めて少なくなっているということ。ビートルズの神通力もなくなってきて、せいぜいクイーンとかボン・ジョビとか。だって、私ぐらいの世代が親になってきてるわけだから。エリック・クラプトンもロック世代にとってのロバート・ジョンソンぐらい古い、といいますか、エレキを弾く10代でもクラプトンやジェフ・ベックという名前すら知らないという事実。そもそもギターよりダンスが人気、というのもあるし(個人主義的なバンド音楽に対して、ほっとくと集団主義に傾く日本文化との親和性はダンスの方が実は高い…ダンスでもヒップホップはちょっとバンドに近い気もするけれど…)。てなことで、常識を再度説明し直さないと、「わかるかな~わかんねぇだろうな~」式になってしまうということ。だからそうである限り、ロックもジャズ化する可能性があると思う。あと、基本J-POPしか聴かない、というドメスティック感覚も今の日本を覆っている(主観だけれど、今洋楽を聴いている珍しい10代は、英語が達者だったり、フラットな国際感覚をもった人が多いような気も)。そもそもJ-POPはJリーグ同様、日本回帰の保守ムーブメントだった、ということが、オリンピックの一連の騒動からもよく理解できたわけで(オリパラ組織委員会の会長、森の後任にJリーグ初代チェアマンの川淵が推挙されたりもしたし、渋谷系はやはりマジョリティに排除された…ただし渋谷系はリアルタイムでは鼻につく感じがした記憶もある)。J-POPを好んで聴いている人にそんな自覚は当然ないのだろうけれど、そうした文脈から生まれた消費構造に飲み込まれていることは確かだろう。

 

でも現代ならプレイリストがあるでしょ!という人もいるだろう。けれどもデジタルにはそもそも、基本欲しい情報しかアクセスしなくなる、という欠点がある。SNSでも好きな情報をフォローしていれば、そうした情報しか目に触れなくなってしまう。対してアナログは、デジタルの価値観で見ると無駄が多いけれど、自分の価値を広げるノイズ(雑音)を含んでいる。アナログ・レコードにはそもそもノイズ(雑音)や一回性(アウラ)があるし、良くない曲も耳にせざるを得ない(いちいち針を置き換えるのは面倒だし)。簡単に試聴もできないから、ジャケ買いして失敗することもある。でもそのような、良い曲に到達するための無駄な時間が、無駄ではなかったことに気付くこともある(何度か聴くとその良さに気付いたり、想像を膨らませてやっと手に入れた音楽に喜びを感じたり…)。

 

話を戻すけれど、アナログが踏ん張っている、というのは、人間が踏ん張っている、ということでもあり、時代に逆行しているようで、実は時代の半歩先を行っているような、なかなか尊いことだとも思えてくる。その価値を、「わかるかな~わかんねぇだろうな~」式ではなく、コスト感覚の思考でも腑に落ちる様に伝えていくこと…そこにいまは関心が向いている…てなことを、注射を2度打って、気分は朦朧としつつ書いてみた次第。

Lani Groves & Darlene Love

*[ソウル] Lani Groves & Darlene Love / Bringing It Home (Shanachie / 1987)

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これは気持ち良いアルバム!ラニ・グローブスとダーレン・ラヴの共演作『Bringing It Home』。ポップス・ファンにおなじみブロッサムズのダーレン・ラヴはフィル・スペクターが信頼を置いていたシンガー。クリスタルズの全米No.1”He's A Rebel”も実はダーレンが歌っていました。”The Boy I'm Gonna Marry”や” Wait Til My Bobby Gets Home”、” Why Do Lovers Break Each Other's Hearts?”とか良い曲ばっかり。妹さんは女性版ジャクソン・ファイヴのようなサウンドだったハニーコーンのエドナ・ライトでした。で、ラニ・グローブスの方は、70年代を中心にソウルからポップスまで様々なジャンルでほぼソウルフルな女性コーラス隊が入ってまして、その一角を構成していたお方。一番有名なのはスティーヴィー・ワンダーのバックボーカルを務めていたこと。参加作は多すぎて書けません(笑)あと、ソングライターとしても、デニース・ウィリアムズなどで知られる” That's What Friends Are For”やフランキー・ヴァリ、イモーションズで知られる “How'd I Know That Love Would Slip Away”なんかを書いている。ただ、ソロ名義もいくつかあるダーレンに比べて、ラニのリーダー作はニュージャージーのインディ・レーベルShanachieからリリースされたコレしかない。

 

とにかく選曲が素晴らしくて、インプレッションズ(カーティス・メイフィールド)の”Its Alright”、タイロン・デイヴィスの” If I Could Turn Back The Hands Of Time”、ビートルズの”Let It Be”、ビル・ウィザースの”Use Me”、ジェイムス・ブラウンの”It’s A Man’s World”、フォンテラ・バスの”Rescue Me”、ジャクソン・ファイヴの”I’ll Be There”…タイトル曲はサム・クックですね。グイグイ来る生バンドの音も、リリース年にしては80年代っぽさはなく、むしろ60年代に近い普遍性がある。この辺がインディー・レーベルから出たブルーズと同じで、売り気が無くて良い。そして何よりゴスペル仕込みの圧倒的な二人の声が◎。

Marc Cohn And Blind Boys Of Alabama

*[SSW] Marc Cohn And Blind Boys Of Alabama / Work To Do (BMG / 2019)

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これも積読CDの中から、しかも2年前だった…音楽に申し訳ないですね。ただコレ、買ってしばらく、よーく聴いていた。アメリカの特筆すべきシンガー・ソングライター、マーク・コーンの2019年の新作『Work To Do』。日本では悲しいかな、まっとうに取り上げられることはなかった。この新作、ゴスペル・グループのブラインド・ボーイズ・アラバマとの共演作。ただし共演の新曲はゴスペルの”Walk In Jerusalem”、マークが手掛けた”Talk Back Mic”と表題曲”Work To Do”の3曲。しかしどうにも素晴らしい。苦みばしったソウルフルなマークの喉は絶好調だ。ブラインド・ボーイズ・アラバマとの共演がこんなにハマるとは…アメリカン・ミュージックのダイナミズムと気品を表現できるマーク・コーンの才能は、彼のデビューを後押ししたクロスビー&ナッシュ、ジャクソン・ブラウンジェイムス・テイラーという顔ぶれからも理解できよう。

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後半の7曲は、ブラインド・ボーイズ・アラバマとの共演ライブの模様。ライブと言っても音はすごく良い。マークの怒涛のベスト選曲”Ghost Train”、”Baby King”、”Listening To Levon”、”Silver Thunderbird”、”Walking In Memphis”、”One Safe Place”に新しい命が吹き込まれる。”Amazing Grace”のカバーも感動的だ。マークも世代的にいえば、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』における、ステイプル・シンガーズのゴスペルの凄みを経験しているはず(”Listening To Levon”はザ・バンドのリヴォン・ヘルムに捧げられた楽曲だった)。この辺りがコラボレーションのヒントになったと想像できる。

 

プロデューサーはマークをメジャー・デビュー当時からアレンジや演奏などで支えてきた、ジョン・リヴェンサール。彼はいま、ロドニー・クロウェルと別れたカントリー歌手ロザンヌ・キャッシュと幸せに暮らしている。ただリヴェンサールはユダヤ系、ということで保守的な米カントリー界、とりわけ父のジョニー・キャッシュにはそれなりの衝撃を与えたみたいだけれど。で、そのジョン・リヴェンサールとマーク・コーンががっぷり四つで手掛けたのがサザン・ソウルの大御所ウィリアム・ベルが40年の時を経て2016年にスタックスに復帰した『This Is Where I Live』。日本のメディアではベルの復帰作をジョン・リヴェンサールが手がけた…というばかりでマークが全面参加したにもことにほぼ触れられず残念だったけれど、この作品は感動した。優れたソングライターでもあるウィリアム・ベルとジョンとマークが多くの曲を共作している。レヴォン・ヘルムの娘エイミーもボーカルで参加。ウィリアム作のブルーズの名曲”Born Under A Bad Sign”の再演もあるが、声の衰えは全くといっていいほど、ない。グラミーのベスト・アメリカーナ・アルバムを受賞して、グラミーではゲイリー・クラーク・ジュニアと”Born Under A Bad Sign”を演奏する一幕もあった。そういえばジェシ・ウィンチェスターのカバーが1曲入っているのは、2014年に亡くなった彼へのトリビュートだったのか…今夜も音楽の旅が終わりそうにない。

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