いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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坂本スミ子・なかにし礼・筒美京平と…

*[コラム] 坂本スミ子なかにし礼筒美京平と…

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昨日、歌手の坂本スミ子さんが亡くなったというニュースが。女優としてはカンヌを獲った深沢七郎(この人は全てが好きですね…)の楢山節考、歌手としては60年代のNHKの名バラエティ”夢であいましょう”の主題歌「夢で逢いましょう」で知られている。永六輔.・中村八大コンビの名曲。戦後民主主義の良いところを取ったワールド・スタンダードな和製ポップスが生み出されていた時代。ガラパゴス日本の文脈だと、こういう洋風のものがマトモに売れたためしは今までほとんどない。ただ、彼女の場合は日本人好みの哀愁ラテン歌手の出ですから、70年代の今思えばドメスティック・内向きな四畳半フォーク・歌謡曲全盛期に入ると、そっちの文脈で再起ヒットを出すことができた。それが新興CBSソニーから1971年に出た”夜が明けて”。奇しくも作詞のなかにし礼、作曲の筒美京平が年をまたいで相次いで鬼籍に入った。中村泰士も。そういう節目の時期なんだと思う。エレカシ宮本浩次の歌謡曲カバーアルバム『ROMANCE』(コレ、普通に全編感動的だった!)が出るのも、人間の本能的な歴史の継承という意味では必然だと感じられた。

 

で、久々に取り出してきた坂本1972年のアルバム『夜が明けて』。疑似フォルクローレな”夜が明けて”は、冷静に聴くと当時サイモン&ガーファンクルで親しまれていた”コンドルは飛んで行く”を上手くアレンジして作ったことがよくわかる。筒美さんはそういう天才だった。しかもB面には”コンドルは飛んで行く”の日本語カバーも入っていて、ちゃんと種明かしが。”マミー・ブルー”のカバーもハマっているし、阿久悠筒美京平コンビの”ふたりは若かった”(尾崎紀世彦が同年ヒットさせる)、リンド&リンダースの加藤ヒロシが曲を書いたヒット”たそがれの御堂筋”も収録。B面1曲目のなかにし礼訳詩”別れの朝”は1971年”夜が明けて”と同時期に、前野曜子時代のペドロ&カプリシャスが大ヒットさせていた。このペドロのシングルもCBSソニーから出ている(また、ワーナーから出たペドロのファースト・アルバムでは”夜が明けて”がお返しにカバーされている)。最後は坂本九の歌唱で知られるマイク真木・中村八大コンビの”さよならさよなら”。これは「夢であいましょうrevisited」な感覚。

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このレコを買った西荻窪の中古屋も昨年コロナ禍で閉店してしまった。白のペンでサインが入っているけれどコレ、”夜が明けて”の歌詞「ひとりふかす たばこのけむり 白い 白い」を思わせる。

フィル・スペクターのこと

*[コラム] フィル・スペクターのこと

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昨日、職場のロック好きの方から「フィル・スぺクター亡くなったみたいですよ…」と聞かされて時が止まったような。現役バリバリの南正人さんがステージで亡くなったと聞いた時も、かなりショックだったのだけれど、それに続いてフィルが…しかも新型コロナで。フィルの場合は栄枯盛衰激しい人物で、晩年は薬物中毒の影響もあったのか、女優ラナ・クラークソンを殺したかどで服役していたし、現役の音楽活動は見込めない状況だったからなんだか余計に複雑な気分にもなった。つまり彼、セックス・ドラッグ&ロックンロールの最後の亡霊のような人だったように思える。とはいえポピュラー音楽、とりわけロックンロールの世界において、彼ほどの業績(気に食わないとスタジオですぐ銃をぶっ放すという人間性と反比例する)を挙げたミュージシャンはいないだろう。誰かとロックの話をちょっと突っ込んですれば、必ず彼の名前にぶち当たる。つまり、日本のフィル・スぺクター・大滝詠一言うところの、ポップス/ロックンロールの「定石」を作り上げた人だということになる。ロネッツ”Be My Baby”やクリスタルズ”Da Doo Ron Ron”を始めとしたロックンロール全盛期のフィルのウォール・オブ・サウンド音の壁)に魅了されたのは、ロックンロール第2世代のビートルズジョン・レノンジョージ・ハリスン(彼らは実際フィルにプロデュースを依頼した)のみならず、ビーチ・ボーイズの天才ブライアン・ウィルソンも含まれる。ブライアンと比してフィルは、カート・ベッチャーやジョー・ミーク同様メロディ・メイカーではなかったけれど、スタジオをコントロールする特徴的なプロデューサーとして、ライブの身体性の対極にある狂気の音作りでマジカルな音世界を提示した。ジョン・レノンの”代表作Imagine”の不安定なエコーの残響は結果的に、現実を飛び越えた理想=イデアを思わせる異空間を演出することに功を奏したわけだけれど、それは自らの現実的な容姿における自信のなさやコンプレックスを覆い隠すフィルの精神構造のなせる業だったのかもしれない(おそらくユダヤ系という出自も無関係ではない)。

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そうそう、ローリング・ストーンズのセッションに招かれたこともあったし、70年代のセッションに同席したブルース・スプリングスティーンをはじめ、ビリー・ジョエルのような後進も育った。忘れられないのは数年前、新宿の中古レコード屋にて。なぜか隣でレコードを漁っていたあのジミー・ペイジご本人が恍惚と手に取っていたのは、フィル最初のバンド、テディベアーズのオリジナルLPだったこと。

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しかしバック・トゥ・モノという彼の美学は懐古というより時代が一回り以上してラジカルにも思える。一番良い音で聴くなら、フィレスの米盤シングルだろう。私が中古レコード屋に通うようになった頃は一枚4800円とかそういう世界。今だとキズ盤なら運が良ければ1500円くらいで買えることもある。

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『Philles Records Presents Today's Hits』という1963年のコンピも最高。ただコレ、昔あるレコ屋で安く買ったら音飛びがひどかったので売り、また数年経ってあるレコ屋でまた安く買ったら、あの時売ったやつだった…という悲しい出来事があった。また売っちゃいましたが。そんなこんなで、気軽によく手に取るレコは永遠のクリスマス・アルバム『Christmas Gift for You From Phil Spectorや、実はフィレスものとの初めての出会いだったライチャス・ブラザーズ(中学生の時になぜか父が買ってくれた)、そして1977年のワーナー・スペクター・インターナショナルのPhil Spector’s Greatest Hits』

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あとは70年代の微妙なやつが実はツボで、レナード・コーエン『Death Of A Ladies' Man』、ディオン『Born To Be With You』、そしてフィルの実質ラスト・プロデュース作(2003年のStarsailor”Silence Is Easy”もありましたが…)となった1979年のラモーンズ『End Of The Century』(このLPの音は凄い)が特に大好き。私はこの1979年に生まれましたが、イギリスでは新自由主義経済が採用され、中国も市場経済を導入する完全な時代の節目(ある種の「End Of The Century」)だった。フィルの時代もここで終わるわけですね。指揮棒振って管楽器を時代錯誤にロックンロールさせたような” Do You Remember Rock 'N' Roll Radio?”を騒音公害レベルの音量で聴くのは最高の瞬間だ。さらにリマスターで言えば、2011年の7枚組『Philles Album Collection』、および怒涛の各種プロデュース・アーティストのベスト盤の音質が白眉。コレは凄かった。1991年の4枚組CD『Back To Mono(1958-1969)』を聴いた時、正直余り良い音に思えなかったけれど、このリマスターで激レアなオリジナルが聴けないファンは留飲を下げたのだった。

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読者たちの夜会 2020ベストビブリオバトル にて『哲学するタネ』取り上げて頂きました!

*[コラム] 読者たちの夜会 2020ベストビブリオバトル にて『哲学するタネ』取り上げて頂きました!

 

1月14日にLOFT9渋谷にて無観客配信の形で行われた読者たちの夜会(https://natalie.mu/owarai/news/411806)、読書好きの芸人たちが2020年もっともよかった本、2021年に注目されそうな本の予想などを発表するイベント…てなことですが、哲学芸人のマザーテラサワさんが拙著『哲学するタネ―高校倫理が教える70章【西洋思想編1・2】』を紹介してくださいました!!ワッショイ!!

 

ツイッターより、以下ウルトラトウフカモシダせぶん さんのコメントです。

読者たちの夜会
2020ベストビブリオバトル
マザー・テラサワ「哲学するタネ」(石浦昌之)
マザテラお馴染みの哲学本。ミュージシャンも経た著者が、万人に受け入れやすく考えるためのタネを提供。高校の倫理の授業やる学校自体少なくなってる。確かに僕の高校も倫理はやってなかった。どんな授業なんだ

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Tuck & Patti / Tears Of Joy

*[ジャズ] Tuck & Patti / Tears Of Joy(Windham Hill Jazz / 1988)

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 ジャズギターとボーカルだけの夫婦デュオ、タック&パティ。見たところ、ひと頃のバンキー&ジェイクのように見えるかもしれない。彼ら、超絶テクニックを誇るタック・アンドレス(デビュー前はGap Bandのセッションメンだったんだとか)と、ソウルフルでエモーショナルなボーカルで思わず胸を鷲づかみにされてしまう、パティ・キャスハートの二人組。たった二人の音だということを忘れてしまう程の素晴らしい演奏を続けざまに演じる。大学生くらいの頃、実家近くにあるカフェみたいな所になぜか彼らが来たことがあったけれど、5000円というチケット代がなくて、行けなかった。本当にお金がなかった。一生後悔するレベルの出来事。彼らもすでに70歳前後…いつか生演奏を聴ける日は来るのだろうか。

 

1988年にウィンダム・ヒルからリリースされたこのファースト・アルバム、ボブ・ドローの”I’ve Got Just About Everything”も印象的なのだけれど、何といってもシンディ・ローパーのカバー、”Time After Time”に尽きるのではないだろうか。かつて鬼束ちひろが全く同じ歌い回しでカバーしていたことがあったけれど、レイ・チャールズビートルズを唄った”Yesterday”同様、この名演で一つのスタンダードを作り上げてしまった。音の抑揚、心と伴走するリズム、言葉を汲み取った歌とギターの表現力…何を取ってみてもこれこそが音楽。何よりソウルが感じられ、涙が止まらなくなってしまう。「ソウル(たましい)」という、目にも見えず数字にも置き換えられないものが確かに存在していること、それがいちばん大切だということに改めて気付かされる。昨年末の紅白歌合戦も村祭りのカラオケ大会のようにしか聴こえず、申し訳ないけれど口パクで踊っている人たちにも一切関心が湧かなかったけれど、出場していなかった細川たかしやゲストで出ていた玉置浩二の方がよっぽどソウルを持っているということにはなるだろう。タイトル曲”Tears Of Joy”もとても良い。うれし涙、という意味になるけれど、喜びと涙というのは相反するイメージもある言葉だから、イマジネーションを掻き立てられる部分がある。CD時代の作品だけれど、ウィンダムヒルのリリースだし、もしかしてヨーロッパやアメリカではLPも出ていたのでは…と先日discogsで探してみると、マンハッタンのレコ屋にて4ドル99セントで発見!安レコでもすぐに送ってくれました。アナログでタック&パティを聴けるなんて…有難いことです。

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AC/DC  / Power Up

*[ロック] AC/DC  / Power Up(Columbia / 2020)

 

先日CSN&Yのことを書いたら、なんと加奈崎芳太郎さんのLCV-FMのラジオDIG IT!の新年一発目の特集もCSN&Yの『Déjà vu』でありまして。なんというシンクロ!加奈崎さんもそのことを書いてくれていたけれど(https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=840060866778953&id=100023251419779)、縁起が良いな~と嬉しくなった次第。

 

ところで短い正月の隙間時間に、買い貯めていたライブDVDやらブルーレイやらを観まくっていたら、ライブに行きたくて仕方が無くなった。コロナ禍でも行けるライブはそれなりに足を運んでいるのだけれど(どこも感染対策に相当気を遣っているから、混雑電車より安全だと思った)、デカい箱で会場が揺れる密なやつなんかを、何としても再び。友川カズキさんがコロナ禍にあって、(自分は)飛沫歌手だから、とおっしゃっていたけれど、それでしか聴衆が満たされない何かがある。客席を限り、同時並行でオンラインとか、無観客とか、YouTube配信とか…色々な手法で存続するライブだけれど、むしろ家で観れて便利ですと、それだけで満たされる人もいるのだろうけれど、やっぱり一寸違う。万障繰り合わせて、仕事をかなぐり捨てて会場まで走って駆け付け、かぶりつきで音のシャワーに浸る…っていうのがなくなっている今は、狂っちゃうくらい音楽好きな人にとっては結構辛い。パフォーマーやそのスタッフだけではなく、ライブハウスやホール、音響スタッフ、チケット販売、呼び屋、あるいはハコの近くの飲み屋もそうですよね…ライブ音楽の総体としての文化そのものが緊急事態になっている。しかしこの国の政治家のリーダーシップの無さも緊急事態になっていますから、やるせなさ、が、ゆるせなさ、に変わってしまうような所もある。

 

閑話休題AC/DCの新譜の話。

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マルコム・ヤング認知症公表の後、2017年に亡くなり、ドラマーのフィル・ラッドは殺人教唆で逮捕、ボーカルのブライアン・ジョンソン聴覚障害でツアーから戦線離脱、クリフ・ウィリアムズは引退表明…ってとうとう歴史は終わったかと思ったAC/DCが昨年末に新作『Power Up』を奇跡のリリース。コロナ禍を励ますがごとく、英米でアルバムチャート1位を記録した。思えばボン・スコットの死からも不死鳥のように蘇ったバンドだったわけで。ブレンダン・オブライエン・プロデュースのスッキリとしたハード・ロックサウンドは2008年の『Black Ice』、2014年の『Rock or Bust』に続く三部作のような感覚。楽曲はアンガスと故マルコムのクレジットになっているように、アウトテイクを録り直したもの。図抜けた曲がない、と思ったとするならば、それが理由だろう。とはいえ、そもそも個人的にはこのバンド、フリーのボーカルがロバート・プラントになったかのような、(ブライアン時代の)重たいロック・サウンドに魅了されたことが、大好きになるキッカケでもあったから、この金太郎飴ぶりがむしろツボにハマる。アナログ需要を見込んでか、輸入盤アナログにもソニーの日本盤の帯が付いていた。しつこいようだけれど、無性にライブに行きたくなってきた。

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グレッグ・リーヴスとCSN&Y『Déjà vu』

*[コラム] グレッグ・リーヴス(Greg Reeves)とCSN&Y『Déjà vu』

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CSN&Y(クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング)の『Déjà vu』…1969年というウッドストック・エラを象徴するエポックメイキングな1枚。たぶん1000回以上は聴いたはずだけれど(笑)、このジャケは何?と手が止まってしまった。手が込んだあのセピアの写真がツルツルの紙にそのまま印刷されている。背景もクリーム色に変わっているが、どうもフランス盤なんだとか。思えばフランス的感性にカスタマイズされているような…この辺が各国盤の面白さだ。そういえばスティーヴン・スティルスはフランスのシャンソン歌手ヴェロニク・サンソンと結婚し、息子のシンガー・ソングライター、クリスが生まれたんだった。このフランス盤、音はミックスがちょっと違うように聴こえて、アメリカ盤よりはイギリス盤に似た粒の立ったエグイ音。ギターソロがよりハッキリ聴こえたのが収穫だった(一部のスティルスのソロの危なさもわかったが、それでいてニールとのソロ合戦の迫力は増していた)。

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ふと写真を見ていて気になったのは、ジャケットにでかでかとクレジットもされている黒人ベーシストのグレッグ・リーブス。ドラマーのダラス・テイラーはClear Lightのメンバーだと知っていたけれど、グレッグ・リーブスは(写真左下)?

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調べてみると、彼はこのレコーディング時に14歳くらい。12歳で家出してモータウンのジェイムス・ジェマーソンの手引きでセッションマンになったんだとか。テンプテーションズの”Cloud Nine”のベースはグレッグの手によるものらしい(ジェイムスだという説もあるので判らないが)。CSN&Yに引き抜きに来たのはクロスビー&ナッシュ。アフリカン・アメリカンネイティブ・アメリカンの血もひく彼は、リベラルな白人バンドにとってはヒップなポジションだったのかも。当時リック・ジェイムス(後にファンクで大成功する彼だが、当時はモータウン在籍のバンド、マイナーバーズ――ニール・ヤングがギターを弾いていた――のメンバーだった)と一緒に住んでいた所をほぼさらわれるように、車で連れていかれたらしい。”Carry On”のフレーズを作ったり(クレジットはない)、音楽的貢献もあったようだけれど、スティルスと相性が悪かったみたいで、すぐに追い出されてしまう。麻薬によるものか黒魔術的奇行もあったらしいし、若くして手にしたプレイの奔放さや独創性が、我の強いスティルスを脅かしたのかもしれない。その後のレコーディングは数少なくて、ニール・ヤング『After The Gold Rush』ジェイムス・テイラーの兄アレックス・テイラーの『With Friends And Neighbors』収録の”C Song “、ジョン・セバスチャン『Four Of Us』収録の”Well, Well, Well”、デイヴ・メイソン『It's Like You Never Left』のタイトル曲と”Head Keeper”、クロスビー&ナッシュの” Immigration Man”(リード・ギターはデイヴ・メイソン)、リッチー・ヘヴンスの『Mixed Bag II』におけるデイヴ・メイソンのカバー” Head Keeper”とニール・ヤングのカバー”The Loner”くらい。あとはソングライターとして、ジョニー・ブリストルとの共作で、トム・ジョーンズボズ・スキャッグスがレコーディングした” I Got Your Number”が知られるものの、70年代後半はドラッグでメキシコの刑務所に入り、80年代前半にはジョージ・クリントンのレコード制作に携わるも、大学に戻って音楽から足を洗ってしまったらしい。

 

しかし、2017年に突然リリースされたのがグレッグの” Working Man”という曲。グレッグにとって音楽とのケリをつける意味でも出さざるを得なかった曲らしく、元々ニールと共に親交があったニルス・ロフグレンと作ったデモはアップルレコードに興味を持たれ、ジョージ・ハリスンも聴いたようだ。その後、デュエイン・オールマンらを加えた1971年のレコーディング、アサイラムにてグレアム・ナッシュとスティーヴィー・ワンダーが変名で加わったレコーディングが存在したが、いずれも結局お蔵入りしてしまっていた。2010年のツイッターにはLos DémonesというLAのバンドのプロデューサー、ベーシストを務めていたとあるが、音はどこにもない。あとは2006年にトム・ウェイツ・タイプの南カリフォルニアのシンガーソングライター、ジェシディナターレ(Jesse Denatale)のアルバム『Soul Parade』に参加した情報があるが、音だけでは参加の有無が判らなかった。調べていくとホームページもあったのだが(http://gregreevesmusic.com/)、何やら既視感(Déjà vu)が。おそらく以前も気になって何度か調べたものの、その度に謎が深まり、放置していたのだろう。HPでペイパルを通じて、お布施のつもりで曲を買ってみたが、返事はない。たぶん、いつまで経っても返事はないのだろう。

山本剛トリオ with 森山浩二 / 飛騨高山ジャズセッション

*[ジャズ] 山本剛トリオ with 森山浩二 / 飛騨高山ジャズセッション(MASTER MUSIC / 2018 )

 

明けましておめでとうございます。

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昨年は日本のブルーノート、と謳われるレーベル、スリー・ブラインド・マイス(TBM)の手ごろな再発がまたドカドカ出まして。そこで山本剛のピアノをとりあえず全部聴こう、となりまして。『ミッドナイト・シュガー』『ミスティ』、ヤマ&ジローズ・ウェイヴ名義の『ガール・トークなんかは本当に凄かった。時代的にもロック的感性が注入された和ジャズの最高峰だと再認識した次第。芸術性と商業性っていう永遠のテーマがあるけれど、ジャズが日本でマトモに売れた試しは無いのでは。話題になったのもフュージョンとか女性ボーカル。よって多くの日本のジャズメンはフォーク・ロック/歌謡曲のセッションメンとして糊口を凌いだ。私とて、山本剛トリオとは古井戸1975年の大名盤『酔醒』にて邂逅。山本剛は元々ミッキー・カーティスのバンド、サムライズの60年代末のヨーロッパ公演でメンバーだった人。この人のピアノの一音一音がツボにハマってしまって。そこから彼と組んでいた森山浩二というシンガーに出会い、そのスインギーなスキャットに日本一の怪物を見た次第。今後もこの人を超える男性シンガーは出て来ないんじゃないだろうか。

www.youtube.com

 

 

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森山は”ワシントン広場の夜はふけて”とジョニー・シンバルのカバー”僕のマシュマロちゃん”で1964年にシングルレコードを出した後、やりたかったジャズの世界に進み、箱バンに出演。六本木のクラブ、ミスティで山本剛トリオと共演していた折にレコーディングの機会に恵まれたそうだ。穐吉敏子の名著『ジャズと生きる』を読んだ時も思ったけれど、プレイヤーにしても聴衆にしても、いかにジャズが夜のオッサンの音楽であるか、ということは、見目麗しい女性ボーカルと比べ、特に日本では男性ボーカルが売れないことからしてよくわかる。それにそもそもジャズって音楽は大好きだけれど、ジャズ・シーン全般になぜか近寄りがたいところがあるように思えるのは、オッサンが牛耳っていて閉じた世界になっていることに起因するのかも。

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そんなわけでフランク・シナトラやペリー・コモのいない日本において不遇な男性ジャズ・ボーカリストとなってしまった森山浩二のレコーディングはとても少ない。山本剛との2枚(1976年の『ナイト・アンド・デイ』と1977年の『スマイル』)、そして1979年の『ライヴ・アット・ミスティ』(弟である弘勢憲二のエレピや、高柳昌行のギターも聴ける)が本人のリーダー作。それ以外だと俳優でジャズ信者だった藤岡琢也がプロデュースした『レッツ・スウィング・ナウ』の4作目(若かりし渡辺香津美も参加)にパーカッショニストとして名を連ねているほか、同じくパーカッショニストとして参加した藤井貞泰トリオ1977年の『Like A Child』で1曲” One Note Samba”を唄っているくらい…他にもあったら教えて欲しいもの。今ならなぜこれほどまでの才能が…と思うけれど、それでもレコーディングの機会が巡って来ないのが正直日本の実情だった。

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そんな折に先日見つけたのが、1975年当時の未発表ライブ音源で、山本剛トリオ with 森山浩二 名義の『飛騨高山ジャズセッション』。山本剛のピアノ、小原哲次郎のドラムス、大由彰のベース…ダイナミックかつ繊細な各人のソロの力量もさることながら、民生機で録られたとは思えぬ音の良さにビックリ。CDの単価が高いのは閉口したけれども、ここまでくると致し方ない。佐賀の国指定重要文化財の酒造・吉島家住宅での録音。TBMのプロデューサーだった方が記したライナーには1944年生まれの森山の父が声楽家だったこと、中学時代から米軍キャンプでタップダンサーとして踊り、日劇にも出てナベプロでシングルを出したこと(前述の”ワシントン広場”&”僕のマシュマロちゃん”のことだろう)、ナベプロ退所後はジャズ・シンガーの口が無くて苦労したこと、レコーディングの機会に恵まれた70年代を経て80年代にハワイ出身の女性と結婚し、オアフ島へ移住、90年代には仕事で歌を歌うこともなく、2000年には病に伏して亡くなっていたこともわかった。

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ちなみに『飛騨高山ジャズセッション』、2枚のアルバム未収の”’S Wonderful”が入っているのも聴きものだし、最後には20分近くに及ぶ”Downtown”が入っていて、大いに盛り上がる。ライナーには山下達郎の…と詳細なシュガーベイブのメンバー説明などもあって大いに期待してしまったけれど、何のことはない、トニー・ハッチ/ペトゥラ・クラークの”Downtown”でした。世代的にジャズ畑の人にとっては、ポピュラー・ヒットなんてシュガーベイブもトニー・ハッチも区別のつかないどうでもよいものだったのかもしれない。とはいえ、伊藤銀次さんが「ダウンタウンヘくりだそう」っていう歌詞のモチーフとして念頭にあったのはトニー・ハッチ/ペトゥラ・クラークだったらしいから、まあ良しとしますか。

 

今年は少しでも良い年となるよう、心より祈念しております。本年も本ブログをよろしくお願いいたします。