ビートルズのハリウッド・ボウルのリマスター再発。色々賛否両論あって面白い。ジョージ・マーティンの息子ジャイルズが曲順などオリジナルの雰囲気を損なうことなく、各楽器、ボーカルの音量を持ち上げて、クリアに分離させることに成功している。父の手がけたオリジナルのLPへのレスペクトはありつつの、全くの別物として受け入れるべきものだろう。ただそれでも、1977年当時のジャケットや、歓声にかき消されんばかりの異常なコンディションの中で、半分ヤケ気味に奮闘する四人の演奏に思い入れがある人にとっては、色々ツッコミたくもなるのかな。ジャケも伝記映画とのタイアップになっていて商魂見え見えだし、ボーナストラックを中途半端に入れるのならブートにもあるようなコンプリート版にした方が良かった、だとか。ただ、オリジナルのLPを持っていれば、別々に楽しめばそれだけでいい話のような。オリジナルのLPもそんな評判は良くなかったわけだけれど、改めて聴くと流石の迫力があり、生演奏の実力が伝わってくる。リマスターはまたそれとも別物。録音は再現芸術であると共に、ある種の解釈や編集を含んでいるわけだから。演奏のクリアさに耳をそばだてつつ、素直にまさかの新譜を喜んでいる。
ザ・ビートルズ『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』THE Beatles : Live At The Hollywood Bowl
<曲目>
1 Twist & Shout / ツイスト・アンド・シャウト(1965年8月30日)
2 She’s A Woman / シーズ・ア・ウーマン(1965年8月30日)
3 Dizzy Miss Lizzy / ディジー・ミス・リジー(1965年8月30日/1965年8月29日——1曲にエディット)
4 Ticket To Ride / 涙の乗車券(ティケット・トゥ・ライド)(1965年8月29日)
5 Can’t Buy Me Love / キャント・バイ・ミー・ラヴ(1965年8月30日)
6 Things We Said Today / 今日の誓い(1964年8月23日)
7 Roll Over Beethoven / ロール・オーバー・ベートーヴェン(1964年8月23日)
8 Boys / ボーイズ(1964年8月23日)
9 A Hard Day’s Night / ア・ハード・デイズ・ナイト(1965年8月30日)
10 Help! / ヘルプ!(1965年8月29日)
11 All My Loving / オール・マイ・ラヴィング(1964年8月23日)
12 She Loves You / シー・ラヴズ・ユー(1964年8月23日)
13 Long Tall Sally / ロング・トール・サリー(1964年8月23日)
14 You Can’t Do That / ユー・キャント・ドゥ・ザット(1964年8月23日——未発表)
15 I Want To Hold Your Hand / 抱きしめたい(1964年8月23日——未発表)
16 Everybody’s Trying To Be My Baby / みんないい娘(1965年8月30日——未発表)
17 Baby’s In Black / ベイビーズ・イン・ブラック(1965年8月30日——未発表)
さて、そんな気分のまま手に取った、フィフティーズ・ロックンローラーの過渡期作。ビートルズ旋風以前はアメリカのロックンローラーがレスペクトされていたから、こんなイギリス録音が可能になった。手元にあるのもイギリス盤。ロンドン・レコードからのリリースで、演奏・コーラスを務めるアート・ムーブメントというイギリスのグループと共演している。冒頭の”Break My Mind”とジム・ホールがアレンジしたラストの”Penny Arcade”がシングルで切られたみたい。”Penny Arcade”以外はライブ・レコーディングで、コーラスとオーケストレーションは後でオーバーダブされたんだとか。
プラターズの”Only You”もロイの美声で聴いてみたかった!と思わせるもの。ビーチ・ボーイズの”Help Me Rhonda”のカバーは珍しい。アル・ジャーディンの声域で歌うと意外と声が似ているのだと思ったり。ビートルズも演っている”Money”やクリス・ケナー(ウィルソン・ピケット)の”Land Of 1,000 Dances”だとかR&Bものは、アメリカへの憧憬を交えたイギリス人好みの感覚かな。ビートルズがロイのバックを演ったら、なんて感じでも聴けて。オーケストレイションが入った曲には70年代英国ソフトロックなテイストも。”Loving Touch”のアウトロには”Pretty Woman”のお約束”Grrr”も入っている。