いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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Stephen Bishop / We’ll Talk About It Later In The Car

*[AOR] Stephen Bishop / We’ll Talk About It Later In The Car(BMG / 2019)

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スティーヴン・ビショップ、2016年の『Blue Print』に続く2019年の新作。アマゾンでLPを予約していたのだけれど、なかなか入荷せず、結局強制キャンセルになってしまった。予約数が少なく、採算合わずにプレス見合わせかな…と思っていたら、ユニオンに入荷していて拍子抜けした。早速聴いてみる。リアルタイムで酷評しているレビューも読んだけれど、結構良いじゃないですか。歌詞もほぼ無視して、ただ音の要素だけを切り取って評価する日本のAORの美学からすると、バラエティに富んだ楽曲が逆にとっちらかった感じに聴こえてしまったのかも。でもスティーヴン・ビショップは私からすると、AORという感じはあまりせず、メロウなシンガー・ソングライターとしか言いようがない人。


ちなみに欧米のヨットロックと日本のAORっていう概念は、重なるようでちょっとズレている。日本のAORは美学を求めるというか、スティーリー・ダンを極北に、職人気質を賛美するみたいな風土があるけれど、ヨットロックっていう括りは、ハッキリ言ってちょっとダサめの歌謡ロックみたいなものですからね。カントリー・テイストのAORに至っては、堀内孝雄とか高山厳の世界。ちなみにそちらも大好物ですが、何か(笑)


今作は1970年代の未発表曲のリメイクからアルバム制作のアイデアを得たんだとか。ファーストを引用したジャケがそれを表している。老境に差し掛かって、初期衝動に還りたい、と思っているのかもしれない。人生、生と死は円環運動のようなもの。タイトルはスター・ウォーズレイア姫役、そしてポール・サイモンの元妻として知られる故キャリー・フィッシャー(スティーヴンとも親交があったが、2016年に亡くなった)が電話の相手に喋った「あとで車の中で話しましょう」に由来するんだとか。キャリーの母デビー・レイノルズの口癖だったという話もある。


ティーヴンは70年代初頭、メーガン・マックドナウ、ニック・デカロ、ジェイムス・リー・スタンリーなどに楽曲提供し、(リー・カンケルの紹介で)アート・ガーファンクル『Breakaway』に大抜擢されたところからキャリアが開けた人。そのアートの次作『Watermark』はジミー・ウェッブ曲集だったわけだけれど、そこに収録されていた”Someone Else”を今作『We’ll Talk About It Later In The Car』でスティーヴンがカバーしている。”Someone Else”は10代半ばのジミーが初めて作った曲だった。その初期衝動をもエネルギーにしようとしているようにさえ思える。そんなスティーヴンはその後、サタデー・ナイト・ライブジョン・ベルーシ人脈で映画音楽のメインストリームを突っ走り、スティーヴンをレスペクトするエリック・クラプトンフィル・コリンズらと親交を深め、輝かしい80年代ポピュラー音楽最良の時代を経験したのだった。だから今作は、そんな彼のキャリアや人生を振り返るムードを持った作品に思えた。


Side Aはバラードの”Almost Home”、90年代ポップ風の”One In A Million Girl”、そしてアメリカーナな”Like Mother Like Daughter”が印象に残った。一番らしくない”Like Mother Like Daughter”がPVに選ばれている。そしてSide Bはファーストの雰囲気そのもので、”The Day You Fall In Love With Me”や”Nora June”なんて往年のファンには涙ものかも…。”French Postcards”は”Unreleased”とあるけれど、当時(『BISH』の頃みたい)のアウトテイクと思われる。さらにボーナス・トラック扱いの”Tinseltown”は一聴すると1985年の『Bowling In Paris』のアウトテイクでは?これだけは音質があまり良くない。


ちなみにLPプレスのコンディション、少々プレスミスでは?と思われる音の揺れが見られる箇所もあったりしたけれど、内容に免じて、許す!

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www.youtube.com

Fluff / Same(Roulette / 1972)

*['60-'70 ロック] Fluff / Same(Roulette / 1972)

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はっぴいえんど『風街ろまん』と同じくらい良い!と言ったら言い過ぎかもしれないけれど、さして誇張でもない。全くの無名バンドの唯一作なのだけれど、レコードの出音はまったくもってあの時代のロックのダイナミズムを全て兼ね備えている。予備知識はなかったけれど、プロデューサーのアート・ポーレマス(Art Polhemus)と4曲の作詞で参加しているエステル・レヴィット(Estelle Levitt)のクレジットを見て購入。白プロモで800円くらいだった。


プロデューサーのアート・ポーレマスはアラン・ゴードンやジェイク・ジェイコブスが在籍していたマジシャンズやそのジェイクが作ったバンキー&ジェイク、それにブルース・マグース、そしてジョン・ホールやバーバラ・キースが在籍していたカンガルーを手掛けていた人。コッペルマン・ルービン・カンパニー関係の人ですね。エステル・レヴィットが参加しているのも頷けるし、そのエステル唯一のソロ『Isn't It Lonely Together?』ブッダから1974年のリリース)もアートが手掛けていた。

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で、バンドの方はジョーレイ・オーティス、トミー・シェフの二人が楽曲を手掛けているのだけれど、そのいずれもが程よいポップさとロックのアンサンブルが同居しつつ、一言で言うと良くできている。”Go To Sleep, Elaine”なんて曲はジェイムス・テイラーがジョー・ママに入っているかのような仕上がり。”You Made Me Lose Control”のエレキとドラムスのファンキーな絡みと爽やかなコーラスは本当にクセになる感じ。何よりエレキの音が鈴木茂のような生成りの音なんですよね。最高!”Who’s Gonna Love Me In The Meantime”にはオルガンも入って、スティーヴン・スティルスのマナサスを思わせるロック・サウンドで。冒頭はっぴいえんど『風街ろまん』を引き合いに出したけれど、同じ時代の空気で作られているから当然とも言えるのかな。ちなみにバンド名Fluffとは綿毛のこと。まさに綿毛のように消えてしまったバンドなんだけれど、我が家の50年前のオンボロ・スピーカーにて爆音で鳴らすだけで、この世の憂さも晴れてしまう。

youtu.be

非日常の中の日常

*[コラム] 非日常の中の日常


ここの所、とんでもない世界になってきておりますが。ブログを書く気も起らなかった。コロナ蔓延にあって再び人間の浅ましさを見るという。国家総動員体制を作りたいのか、作ってしまう国民性なのかはわからない。余りこの国とは関わり合いになりたくないのだけれど、住んでいる以上関わらざるを得ないというジレンマもある。震災の時もそうだったけれど、音楽など芸術が軽んじられるのはいたたまれないし、やりきれない。ライブ自粛の動きもあるし、先日お会いした国立西洋美術館で働いている方の言では臨時休館になってしまったとのこと。大正教養主義の洗礼を受けた、(ゲゲゲの鬼太郎の)水木しげるが太平洋戦争に従軍する直前の手記にあった「芸術が何んだ 哲学が何んだ 今は考へる事すらゆるされない時代だ」を思い出しつつ。まあただこんなこと言うと、「感染防止のためには仕方ないだろ」とか言われちゃうんですが。「そんなことわかってるよ!」という話。芸術の孕む批評性を常日頃恐れている人々の無意識の性なんじゃないかと思われなくもない。


しかし共働き家庭の私なんぞはですね、子どもは少なくとも1か月強は家にいるわけですから、交互に休まざるを得ないわけで。色んなものを「しょうがない」とばかりに諦めたけれど、そんな非日常の中で、不思議と日常を取り戻しつつあるという。近所の子どもたちは行き場がないのか、中学生や高校生ですら公園にいて。しかも小学生と遊んでいたり。こういう風景って、自分が子どもの頃は当たり前だったけれど、最近はとんと見かけたことがなかった。まあ、塾とか、部活とか、習い事とか、普段はおかしい位にワーカホリックですよね。何に煽られているのか知らないけれど。余暇すら資本主義の勤勉労働に取り込まれているドレイ的ニッポンの生活を見直す契機にしたいと思いました。


さて、先月は5年ぶりくらいのライブ。荻窪のBungaという素敵なお店。オーナーのプー・カングァンさんは日本で初めて路上ライブをしたという伝説的ミュージシャン。その日は近所の音楽仲間、ニュージーランドのミュージシャン、Guyさん(The Mighty Takapu)も出演。私は、ここ数年来ちょくちょくセッションをやっているベースのTsubasaさんと一緒に。Tsubasaさんの伯父さんは「好きさ好きさ好きさ」で知られるGSカーナビーツのギタリスト越川ひろしさん。お父さんはマネージャーをやっていたと言っていたような。でも、GSブームが意外と短かく終わったからだと思うけれど、Tsubasaさんが若い頃は「絶対に楽器は弾くな」と言われてたんだとか。それでも大学時代にベースを手に取って以来、いまだに弾き続けている……ってなんかいいですよね。

 

演奏は30分で6曲。ツイッターでアップしたラスト「愛すべき音楽よ」は数日で視聴回数1000を超えたのでビックリ!有難いです!
https://twitter.com/i/status/1226363567407955969

 

オーディエンス音源ももらったので、アップしてみました。
https://www.youtube.com/embed/IUBuffOKaT0

久々のライブと…

*[ライブ]  久々のライブと…

 

本日はご縁あって…本当に久々のライブ!20:00~30分になります。 

Live Bar BUNGA(荻窪) 2月8日(土) Acoustic+α Night 【出演】 OCs、Yohei Shibazaki、The Mighty Takapu、いしうらまさゆき with Tsubasa【Open】 19:00 【Start】19:20【料金】 1,500円+1ドリンク

livebar-bunga.com/index.html

 

そして、昨年刊行された加奈崎芳太郎『キッス・オブ・ライフ—ジャパニーズ・ポップスの50年を囁く』ですが、元新譜ジャーナル編集長の鈴木勝生さんが素晴らしいレビューを書いてくださりました!ぜひご一読ください!

『キッス・オブ・ライフ』を読んで 鈴木勝生(フリーライター・「新譜ジャーナル」元編集長)
http://meigetu.net/?p=7364

 

 

Peter , Paul and Mary / 10 Years Together The Best of Peter , Paul and Mary

*[フォーク] Peter , Paul and Mary / 10 Years Together The Best of Peter , Paul and Mary ( Warner / 1970 )

 

気付けば年末…毎年こんなことを言ってる気もしますが。昨日は三鷹の愛すべき中古レコード店パレードをいつも通り訪ねると、お店に置かせてもらっている加奈崎芳太郎『キッス・オブ・ライフ ジャパニーズ・ポップスの50年を囁く』のチラシが捌けたとのこと。早速追加のチラシを置かせて頂けることになった。有難いことです。地道なプロモーションが大切。

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そんなこんなで6枚くらいのレコードを買い求めたうち、特に「おっ」と思ったのは、選曲がとても良いので昔CDで愛聴していたピーター・ポール&マリー(P,P&M)のベスト盤10 Years Together The Best of Peter , Paul and Maryアメリカ盤オリジナル、70年代初頭ワーナーの深緑ラベルが300円だった。改めてアナログで聴くとむちゃくちゃ音が良くてびっくりした。エンジニアはS&Gビリー・ジョエルなんかのプロデューサーでもあるフィル・ラモーン。実は最近真面目にコピーしたいと思っているのがP,P&M。概してコピーは苦手なんですが、自分の原点だからこれだけはやらなきゃな、という。ギターと3声で成立する音楽。教会音楽のような神聖さもある。小室等PPMフォロワーズを作ろうとした気持ちはわかる。っていうか世界中に紅一点のトリオができたわけですし。

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 聴いていると”I Dig Rock and Roll Music”におけるポール・ストゥーキーのヒップなロック感覚とか、一体どうなってるのかなと思う。メロディはドノヴァンだと思うけれど、ママス&ザ・パパス的なコーラスも加わって。リリース後にディランの『ベースメント・テープス』に入る”Too Much of Nothing”とか、この時代のヒップさが際立っている。

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 そしてフォークソング”Stewball”。クリスマスが近づくと街中に聴こえてくる”Happy Xmas (War Is Over)”の元ネタと目されている曲。1961年デビューのP,P&Mヴァージョンの”Stewball”1963年に発表されているのだけれど、1970年の10年目の解散ベスト盤(つまり本盤)に収録されている。ディラン楽曲を取り上げて公民権運動を戦った先達として、ビートルズ解散とタイミングが重なった本盤はベッドイン後のジョン&ヨーコの耳にもおそらく届いたと想像する。英国の競走馬バラッドだった”Stewball”P,P&Mは、「年老いたスチューボールに賭けていたなら、いま自由になれていたはずなのに…」と余韻のある語り口で解釈したのだった。戦争が無くならない現状と平和な未来への希求…という祈りのイメージとも重なり合うように思えた。そういえば「War Is Over」は1968年に不遇のフォークシンガー、フィル・オクスが掲げたスローガンだったことなども思い出される。優れた音楽とはこうしたイメージの集積から生み出されるのだろう。

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Harry Nilsson / Losst And Founnd

*['60-'70 ロック] Harry Nilsson / Losst And Founnd (Omnivore /2019)

 

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前回リンゴを取り上げたから、というわけではないけれど、1994年に52歳の若さで亡くなったハリー・ニルソンの未発表アルバム。タイトルは表題曲”Lost And Found”を思い入れたっぷりに「本当に待たせたよ!」と言わんばかりの『Losst And Founnd』。プロデュースはハドソン・ブラザーズの、というより90~00年代リンゴのプロデューサーとして知られるようになるビートルズ狂・マーク・ハドソン。彼ももう68歳になるわけですか。

 

ジャケが簡素すぎて、たいしたことないのかと思ったら、聴いてみたらおそろしく良かった。ポップの良いとこどりのような。ブライアン・ウィルソンの未発表音源をアルバムにしたような感じ、でもあるし、ビートルズのエッセンスをリンゴの『Time Takes Time』『Vertical Man』の如くまぶしつつ、やっぱりニルソンだし。いや、ジョンが生きていたら、と思わせる部分もあったり。それにしても、ちゃんとニルソン自身のボーカル(コーラス含)を入れたトラックをここまでちゃんと作りこんでいたとは! 1980年のFlash Harry』以来、アルバムをリリースしないままだったのだが、亡くなる直前にはアルバム用の音源を作っていたのだという。自作・共作(マークやペリー・ポトキン・Jrと)・カバー含め計11曲、ニルソンが健在ならビートリーな傑作に仕上がっていたことを伺わせる(”Try”には”All You Need Is Love”風のコーラスを入れてみたりと遊びゴコロも)。声は期待していなかったけれど、思ったより酒ヤケでもなく、けだるくも伸びやかで、曲によってはディランのようでもあり。まさかディランの現在のああいう展開も90年代半ばにはまだ想像できなかったわけだから十分許容。ドラムスは7曲でジム・ケルトナー、アコギやベース、コーラスにマーク・ハドソン、ピアノはジム・コックス、そしてベースはニルソンが残した息子キーフォ・ニルソン(YouTubeに父をカバーするライブ映像もある)が時空を超えた共演。父が亡くなった時10歳にもなっていなかったキーフォが参加していることからすると、録り直し・アレンジの作り込みを加えてのリリースであるということだ。コーラスにはゲイリー・バーとか、リンゴとも共通する固い人選。ヴァン・ダイク・パークスアコーディオンで参加する”Woman Oh Woman”とか“Imagine”のベーシストでもあったクラウス・フォアマンがベースで参加するオノ・ヨーコのカバー”Listen, The Snow Is Falling”もある(これは当時のリズム・トラックをそのまま生かしたと思われる)。そして涙がちょちょぎれたのはジミー・ウェッブ自身が感情たっぷりのピアノ伴奏を務めた”What Does A Woman See In A Man”。名唱…これはすごい!ニルソンの歌の巧さが光る。思えば彼は優れたソングライターにも関わらず、ヒット曲はフレッド・ニール("Everybody's Talkin'")、ピート・ハム("Without You")…と歌手としてのものが多かった。人の曲を歌うと素面になるような所が魅力だったのかも。”What Does A Woman See In A Man”はウェッブの1993年の名盤『Suspending Disbelief』に入っていた曲、ニルソンへの提供曲だったとは…トリビュートの意味合いがあったことに今更ながら気付く。1995年のニルソン・トリビュート『For Love of Harry: Everybody Sings Nilsson』(これはリアルタイムでカセットで買った)にもジミーが参加していて、その理由は当時わからなかった。f:id:markrock:20191204001750j:plain

 そうそう、ニルソンといえばその諧謔も含めて大滝詠一に多大なる影響を与えていると思う。ポールほどメロディアス一辺倒でもなく、ジョンほど骨っぽくもないとなると…ニルソン(笑)。ノスタルジックな雰囲気といい、今作は空飛ぶくじらや五月雨の気分とシンクロする瞬間もあった。『ロング・バケイション』がレコーディングされた1980年のFlash Harry』がニルソン実質のラスト・アルバムになったわけだから、大滝さんの先を行っている。大滝さんの新作が噂されて怒涛の再発リイシューが始まるのが、ニルソンが亡くなった翌年の1995年だったことなども思い出された。「こんな時、ニルソンがいてくれたらナァ」(もしかしたらあの時大滝さんもアルバムを…)と思ったりする、もはや2019年でございます。

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