/ KIEYO ’72 KIYOHIKO OZAKI ALBUM NO.5 ( PHILIPS / 1972 )
また逢う日まで、尾崎紀世彦が亡くなったとのニュース、かなりショックだった。もみあげと圧倒的な声量、紅白歌合戦のアーカイブ映像を中学生の時にビデオに録画して、何度も見ていた。曲はモチロン「また逢う日まで」。なんで別れの歌を悲しみを飛び越えてこんなに高らかに歌い上げているんだろう、と不思議に思ったものだ。最近、ライブハウスに飛び入り参加して歌い、激ヤセしていた、などと体調不良が伝えられていたけれど、69歳、こんなに早く、という感じだ。
最近もちょこちょこ尾崎紀世彦のアルバムを集めていた。思うのは1960年代、70年代初めまでの日本のレコードは歌謡曲も含めてかなり世界標準の音があったということ。とくに洋楽志向の強い印象のあるフィリップスなんて、長谷川きよしをはじめ、化け物のような実力のあるミュージシャンが在籍していたし。この尾崎紀世彦もその一人。世界の音が参照枠だった時代を過ぎて、こんなミュージシャンはそうそう出てこないだろう。まあクォーターでもあったわけだけど。
このアルバム『KIEYO ’72 KIYOHIKO OZAKI ALBUM NO.5』、和製トム・ジョーンズよろしく、圧倒的な声量で洋楽を歌い尽くす。一般的には”ゴットファーザー〜愛のテーマ〜”の日本語版が収録されていることで知られているが、それ以外にも同時期のアンディ・ウィリアムスやジャック・ジョーンズ、ジョニー・マシスを思わせるロック〜シンガー・ソングライターを視野に入れた選曲が美味しい。A面は前田憲男編曲でゴージャスなブラスロック・サウンドを再現したシカゴの”クエスチョン67&68”や布施明と変わって英語で歌い込む”My Way”が聴きモノ。英語の発音も世界標準なのだ。B面は川口真編曲でキャロル・キング”君の友だち”や渋いところで、どファンキーな”スマック・ウォーター・ジャック”!!に、カーペンターズ(レオン・ラッセル/ボニー・ブラムレット)の”スーパースター”、スイー・ドッグ・ナイト(ポール・ウィリアムス)の”オールド・ファッションド・ラブ・ソング”、ジョン・レノンの”ラブ”、エルトン・ジョンの”イエス・イッツ・ミー”という完全なシンガー・ソングライター・モードな選曲で。アナログではたいてい安く手に入る割に死角な必聴盤!
尾崎といえば、黒沢進のGS本でザ・ワンダースなるコーラスグループ出身、と知って驚いた。いかりや長介も在籍していたカントリーの草分けジミー時田とマウンテン・プレイボーイズにも在籍していたなんて。”また逢う日まで”の原曲(別詩)のズー・ニー・ヴー”ひとりの悲しみ”も町田義人の名唱でなかなか良い曲だが、ヒットするかしないかの分かれ目を知ることが出来る。
1987年の井上大輔作のリゾート風味なスマッシュ・ヒット”サマー・ラブ”収録の『メモリーズ・オブ・サマー・ラブ』もシー・ブリーズなソニー盤として抑えておきたい。某ブック・オフなんかによくありますよ。