/ BEING 70’s ( 東芝EMI / 1986 )
今までなぜか持っていなかった鈴木茂の盤。これで全部聴いたことになる。なかなか手に取らなかったというのも12インチシングルのみの発売で、CD化もなされていないこと。
鈴木茂のパフォーマーとしては暗黒期という印象もあるし、ジャケットを見るとデジタルな質感を予想するけれど、予想を覆す素晴らしさ!『SEI・DO・YA』なんかもシティ・ポップを通過した80年代のバンドワゴンとして聴くと悪くないのと同様、再評価が必要だと思ってしまう。まずA面”BEING 70’s”はキーボーディスト井上鑑の「振り向けばそこは 革命と恋と 夢と汗の日々」なんて詩がとても良い。曲は茂。音が良いなと思ったらギターの茂以外は海外ミュージシャン起用曲(ドラムスMathew Littley、キーボードTony Hymass、ベースJohn Giblin)。そうか、詩の井上鑑や演奏のこのメンツを見て、『SEI・DO・YA』と被っていることに気付く。となると、コノ盤2曲は『SEI・DO・YA』のアウトテイクかな。
B面”HOLY LAND(聖地)”は鈴木茂自らがシンプルなキーボードを弾く、祈りのバラードでよく歌えている。鈴木博文の詩で曲は茂自身。こういうシンプルなコトバに曲をつけるってのが、はっぴいの時代からそうだけれど、鈴木茂らしさが出てくるポイント。他の演奏は小原礼のベースにドラムスがMathew Littleyで茂のギターも重ねている。
コノ盤、東芝EMIのPOPSIZEというレーベルからのリリース。このレーベルの第1弾リリースはZABADAKだった。シングルの単発リリースとなった本作を最後に、しばらくリーダー作の発表が無くなるのが、アレンジャーとして多忙だったからなのか、正直よくわからないけれど、以後もコンスタントにアルバム単位のリリースがあったならば、90年代にも代表作を生み出していたような気がしてならない。“花いちもんめ”や”ソバカスのある少女”といった楽曲がシティ・ポップの先駆であり、その独特の軽みや都会的な音作りは細野さんにも大滝詠一にも作り得なかった世界観であるわけで。そうした楽曲が90年代以降多く発表されなかったのは惜しいという他ない。90年代の『桃姫BAND』や『鈴木茂&P.M.V.』はアマチュア時代に何度も演奏したであろうロック・クラシックスのカバーものだったし、2000年の小原礼・尾崎亜美夫婦とのトリオ『The DELTA-WING』は作風が全く衰え知らずだと印象づける複数の自作曲入りの力作だったにも関わらず、新星堂系の小レーベルのリリースだったためか、余り話題にならなかったのは大変残念だった。