/ 唖蝉坊は生きている ( King Records KICS 8155 / 1973 )
昨年復刻されたキング・アーカイブ・シリーズは密かに興奮した。『唄と音でつづる 明治』も好編集盤だったし。西洋文化と日本文化が劇的な出会いを果たした明治の流行歌ってのも実に興味深いもので。
さてこちらも当シリーズの一枚。明治・大正の演歌師、添田唖蝉坊の今で言うところのトリビュート盤とでも言えばいいのだろうか。1973年にリリースされたもののCD復刻。“ノンキ節”“ラッパ節”で知られた人だ。演歌は元々「演説の歌」。痛烈な社会風刺を節に載せた唖蝉坊の演歌が当時の庶民の気持ちを代弁していただろうことは想像に難くない。
時を隔てた1960年代後半、時代を超えた社会性を持つ唖蝉坊の詩に目をつけたのが、あの高田渡だった。ウディ・ガスリーのプロテスト・ソングをはじめ、演歌と同様社会風刺の伝統を持っていたフォークソングのメロディに唖蝉坊の詩を載せたのは一種の発明だったと言えよう。
本盤で高田渡は唖蝉坊の詩を歌った4曲を、基本的には簡素な弾き語りスタイルで披露している。(“あきらめ節”“ブラブラ節”“新わからない節”“虱の旅”)いずれもURC時代に発表している作品だけれど、新録なのが肝!新録だと思われていないせいか、高田渡関連でもほとんど語られてこなかった盤。
さて、渡以外にも小沢昭一、エノケン、そして唖蝉坊の長男、添田知道の唄を収録。ちなみに添田知道氏の著作も小沢氏の著書同様、大衆芸能を知る上で興味深い。『演歌の明治大正史』(岩波新書、1963年)、『日本春歌考』(光文社、1966年)、『流行り唄五十年』(朝日新書、1955年版の復刻、2008年)<小沢昭一が歌うCD付>、『演歌師の生活』(雄山閣、1967年)あたりは古本屋で探す価値がある、面白本。