/ That Was Then, The Early Recordings of Michael McDonald ( Arista 2008 /1982 )
”スモーキー”と形容されるハスキーボイスで、今でもソウルフルな歌を聴かせてくれるマイケル・マクドナルド。モータウンの名曲を圧倒的な歌唱力で現代に蘇らせた『Motown』(2003)及び『Motown Two』(2004)は、必携作。ここのところは2枚目の新作クリスマスアルバムも注目されているが、今回はその最初期の音源を。マイケルさんはSteely Danとの活動を経てThe Doobie Brothersに加入。ニール・セダカが書き、キャプテン&テニール版でヒットした”Love Will Keep Us Together”を借用した独特のリフで洗練されたヒット曲を連発したものだから、ジョンストン・ドゥービーを愛するファンからは総スカンを食らってしまった。しかし、今回紹介する最初期の録音から伺える彼の根本的資質はドゥービーに適任だったと思えてならない。逆に言えば本作はAORファンにはきっと受け入れがたい音になるだろう。
ということでコレ、1972年にRick Jarrardプロデュースで録音されたブツ。ソウルフルなSSW盤として聴けばかなりの出来なのだ。ちなみに明記したもの以外はマイケルの自作である。まず、A-1”Drivin’ Wheel”はRoosevelt Sykes作の有名なブルーズ。ここでは、同年に発表されたAl Greenなんかのヴァージョンが念頭にあるんだろうか、かなりコーラスもソウルっぽくて、独特なシャウトの声色が既に聴ける。A-2”Lord I Felt”は未発表扱い(A-6、B-1、B-2も同様)のバラード。スローなピアノの冒頭に始まり、バックが厚くなりゴスペル風のコーラスが入ってくるサビでは盛り上がりをみせる、結構いい曲。A-3”It Don’t Matter Now”は囁くように優しい、ある意味後のソングライティングパートナーであるKenny Logginsを思わせるフォーク調バラード。A-4”When I’m Home”もシャウトの彼を期待して聴くべきではない、ピアノ弾き語りに薄くストリングスが入ってくる静謐としたバラード。まるでポピュラーボーカル盤の風情。A-5”I Think I Love you Again”は、Brenda Leeのメンフィス盤『Memphis Portrait』(1970)に収録されていたTony Wine-Irwin Levine作の一曲。ソウルフルな仕上がり。A-6”Melodic”はアコギのカッティングから始まり、冒頭などまるでBreadみたい。そういえばBreadはアコギ主体のソフトロックサウンドが売りだったが、ファルセットがとろける”Make It With You”とか、ソウル歌手に好んでレコーディングされている楽曲がある。まあでもMichaelのこの曲はそこまで冴えた曲でもない。さてお次のB面ではThe Allman Brothers Bandの”Midnight Rider”を臆面もなくカバー。ジョンストン・ドゥービー好きにも聴いてほしい土臭い音。こうして聴くと、発声など南部を志向してからのStephen Stillsに近い雰囲気を感じる。実際Stillsも”Midnight Rider”をカバーしているし。しかし、何だか中途半端なフェイドアウトだ。B-2”Billy”やB-4”Where Men Don’t Care”はこれまたブレッド風のぽわんとした内向的バラード。B-3”Dear Me”もピアノを基にしたバラードだが、きりっとした歌いっぷりが後のマイケルファンにも訴える内容。B-5”A Good Old Time Love Song”も盛り上げ方が良く、ラストに相応しい。
成功を手にしたキャッチーなマイケルが先入観としてあると、どうにもダメな盤だが、こういう新人歌手だと思えばなかなか1972年にしては新鮮だと思えなくもないのだが、どうだろう。(ワタシは好きです) ちなみにRick JarrardとBruce JohnstonがプロデュースにあたったJack Jones『The Full Life』(1977)にソングライターとしての参加アリ。