/ The Other Side (Sovereign Artists1959 /2005)
Manassas仲間、Stillsの新作と合わせるかのようにHillmanも痛快な新作を届けてくれた。ジャケットに映る、61歳を迎えたHillmanの姿はすでに穏やかな老人のようで、かつての精悍さを失ってはいるが、中身は別。カントリーロックの始祖としての円熟味は、誰も真似出来ぬ境地。80〜90年代におけるDesert Rose Bandの商業的成功は、いつも2番手に甘んじてきたHillmanの復権を高らかに印象付ける出来事だった。ビートルズライクなポップなメロディーとお家芸のカントリーロックを融合させた楽曲はいずれも水準以上。何より、老いるほどに成長を遂げていた滑らかで安定したボーカルスタイルに誰もが魅了された。バンド解散後の90年代〜00年代はとにかく多作。ソロ作ではDesert Rose Bandのサウンドを引き継いだ”Like A Hurricane”(1998)。Jackie DeShannon/The Searchersの"When You Walk in The Room"におけるフォークロック回帰も話題になった。また、The Hillmen以来マンドリンの名手としても知られるHillmanと、Tony・LarryのRice兄弟、そしてHerb Pedersenという最強の面子が満を持して結成したブルーグラスバンド”Rice,Rice, Hillman & Pedersen”では秀逸な三作を残している(初作の出来が一番よい)。相性のいいHerb Pedersenとはその名も”Bakersfield Bound”(1996)というアルバムでベイカーズフィールドサウンドを再現。さらにオリジナル曲も交えた”Way Out West”(2002)もリリースされている。2000年頃を境にボーカルに多少の陰りが出てきた気もするが、ボリュームたっぷりの、ここまでに安定した佳作を世に出し続けているベテランもそう多くはいないだろう。
さて本作だが、旧知Herb Pedersenのプロデュースで、またもや素晴らしい出来に仕上がっている。なんといっても近年の好楽曲不足を補うかのような過去曲の再演に目がいく。まずM-1ではなんとThe Byrds時代の”Eight Miles High”をブルーグラスアレンジでカバー。コーラスも美しくキマッてさすが。M-2 ”True Love”は御馴染みSteve HillとHillmanの共作で、Desert Rose Band時代の楽曲の再演。Herbとのハーモニーがとても美しい。Steve Hillとの共作は他にも8曲収録。どれも悪くないが目立ったものが無いのも事実。とはいえ新曲がさほど冴えなくとも、M-10 ”It Doesn’t Matter”があればファンは満足だろう。これは言わずもがな、Manassas、Firefallの名演で知られる、’70ロックのマスターピースだ。Manassasで青臭い歌を聴かせたHillmanはもうここにはいない。ハリのある歌声とともにアクースティックギターのソロまでも聴かせてくれる。ブルーグラス編成の楽器で聴いてもまた良し。やはり好曲は色褪せないということか。さらに、M-12 ”The Water is Wide”も注目。相当数のアーティストによるカバーが存在するトラッドだが、ここではJennifer Warnesとのデュエットでしっとりと聴かせてくれる。そういえばクセのないJenniferの声質とHillmanのそれとはよく似ている。
Chris Hillmanの魅力。それはカントリー・ブルーグラス畑にどっぷり浸かってもなお伝統芸能にとどまろうとしない、はみ出した個性だ。日本の演歌とカントリーを比していうならば、コブシがそこまではきいていない感じ。それがロックファンにもいまだ受け入れられる理由か。ヒッピーのカントリーと形容されるカントリーロックの重鎮、まだまだ健在。こうしてまたコンスタントに新作を聴けたら幸せだ。