先日の第56回グラミー賞授賞式。テレビや動画サイト等で目にした音楽ファンも多かったと思う。ポール&リンゴのビートルズ解散後5度目だかって言う共演(今年は1964年のエド・サリヴァン・ショー出演という、かのブリティッシュ・インヴェイジョンから50周年の節目の年)に釣られて観たけれど、なんだか久々に良かった。音楽業界に元気がない昨今だから、アメリカの底力を見た思いがして。今の日本だったらアイドル百花繚乱で正直「音楽」賞を競う番組としてはまず成立し得ないでしょう。その点、アメリカの音楽業界を勝ち抜いた各ジャンルのスター達は半端ない技量とあざとさを持ち併せている。プレゼンターの配役も含めてお祭り騒ぎのエンタテイメントを楽しめたな。さらにジャンルもけっこう多岐に亘るわけだけれど、ベテランと新人をうまく組み合わせ、アメリカのポピュラー音楽史を一望できる作りになっていて。過去の音楽遺産へのレスペクトも一段と感じられた。日本は本国で忘れ去られたベテランに優しい国だとは言われるけれど、自国に目を移すと、過去と現在の音楽を結びつける取り組みは浅いかな。日本のテレビでは、唯一FNS歌謡祭なんかがプロデューサーのそんな意図が見えていて良いと思う。新旧ミュージシャン同士も刺激を受け合うだろうし、新たなファンの獲得にも繋がるでしょう。結果として音楽業界が活性化すると思うんだけど。あとは演歌とラップ、とか、津軽三味線とテクノ、とかさ、もうちょっとそれぞれのジャンルのエキスパートを掛け合わせた面白いコラボレーションの可能性が日本にもあるのではないかな。タコツボ化した状況に風穴が開くと良いんだけれど。
さてグラミー賞のパフォーマンス、何より嬉しかったのは大好きな二人のソングライター、ジミー・ウェッブとポール・ウィリアムスを耳にできたこと。この二人、20代の私の心の中に、いつも吹いていた風のような音楽。
まずジミー・ウェッブの楽曲はカントリーの大物を揃えたウィリー・ネルスン、クリス・クリストオファスン、マール・ハガードにブレイク・シェルトンで”Highwayman”が。コレ、70年代にジミーがソロで発表した楽曲で、それがカントリーのスーパー・グループとして90年代話題になったHighwaymenのタイトル曲となり大ヒットした。亡くなったメンバーのウェイロン・ジェニングス、ジョニー・キャッシュの穴はマールとブレイクが埋める形で。
さらに、最近表だった活動をあまり耳にしなかったポール・ウィリアムスは、今年の主要2部門を含むグラミーを総ナメにした(アルバム『Random Access Memories』、シングル”Get Lucky”)とも言える、フランスのエレクトロ・デュオ、ダフト・パンクの受賞シーンに登場。ハリウッドの住人らしい73歳とは思えない若作り(10年前と変わっていない!)で行われたその詩的なスピーチは詩人の面目躍如、突出して素晴らしいものだった!ダフト・パンクがテレビでパフォーマンスを披露するのも6年ぶり、さらに、アルバムに参加しているファレル・ウィリアムス、ナイル・ロジャース、ジョルジオ・モロダー、スティーヴィー・ワンダー、オマー・ハキムらと披露した”Get Lucky”は会場がダンス・フロアと化す素晴らしいステージで。ベースはネイザン・イーストでしたね。
ポール・ウィリアムスと言えば、カーペンターズの”We’ve Only Just Begun”、”Rainy Days and Mondays”やスリー・ドッグ・ナイト”An Old Fashioned Love Song”などを手がけた作詞(作曲)家でありシンガー・俳優。映画『ファントム・オブ・ザ・パラダイス』(1974)の主演、『最後の猿の惑星』(1973)への出演や『スター誕生』(1976)のテーマ曲の作曲(コレはグラミー受賞)、さらにアメリカ人なら誰でも知っているマペット・ムービーの”Rainbow Connection”の作曲でもお馴染みだ。ダフト・パンクの『Random Access Memories』では”Touch”(ボーカル)と”Beyond”(共作)に加わっている。
2005年にリリースされた『I’m Going Back There Someday』(旧作のセルフカバーや新曲をウィリー・ネルスン、メリサ・マンチェスターらと手がけ、プレイヤーには元ウィングスのローレンス・ジュウバーやニッティ・グリッティ・ダート・バンドのジョン・マッキュエーンが参加している)も余り話題にならず(CD&DVDオーディオにライブDVDを含めた両面×2枚という変則スタイルでリリースされた)、その後ロジャー・ニコルズのザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ名義の新作でロジャーとの共作が収録されたことはあったけれど、それ以外、正直アメリカでは忘れ去られたのかと思っていた中でのカムバック、本当に嬉しかったなぁ。ポール・ウィリアムスを再び表舞台に引っ張り出したダフト・パンク、その音楽愛は半端無いですよ…ポールの噛みしめるような(最近ますますウィリー・ネルスンに似てきている)ボーカルの質感をちゃんと理解しての登用も嬉しかった。エレクトロでありつつ、アナログの質感を大切にした音作りも含めて、結構このアプローチは未来があると思うのでありました。