/ A ( Universal / 2013 )
自分の中でのアグネッタというと、1986年シカゴのピーター・セテラのプロデュースで出した『I Stand Alone』あたりで止まっていた気がする。もうそれから27年も経っているだなんて…『I Stand Alone』はビル・ラバウンティらが書いた”Let It Shine”という曲が素晴らしくて何度も聴いていたアルバム。
アバの成功について今更語るのも野暮としか言いようがないけれど、アグネッタのパンチのある艶っぽい歌声がハーモニー成分の大部分を占めていたように思う。だから解散後、ヒットしたフリーダのソロよりアグネッタのソロの方が断然良かった、と思うのはひいき目だろうか。
アバの再結成なんていうものが、ビートルズの再結成ぐらい大きな興行収入を得るだろう、なんてくだらない与太話をよくしたことがあるけれど、あり得ないそんなことを語るより、このアルバムを聴く方がよっぽど前向きだ。
2013年の今年リリースされた本作『A』は2004年の往年のガール・ポップのカバーアルバム『My Colouring Book』に次ぐ9年ぶり6枚目のアルバム。今回はオリジナルの新作ということで大きな期待を寄せて聴いてみたが、ポップの王道をいく素晴らしい仕上がりだった!さすが、こんな時代なのにAOR先進国なスウェーデン、と安易に思ってみたり。
バラードからミディアム、ダンス・ビートのものも含めて、完璧な売るためのプロダクションだと思う。ロッド・スチュワートの今年出た新作みたいな。”Dance Your Pain Away”みたいなアバを思わせる曲もあり。楽曲はロッドよりもっと出来が良いかも。冒頭の3曲"The One Who Loves You Now"、"When You Really Loved Someone"、"Perfume In The Breeze"の流れには思わずため息が出てしまう。意欲作、とかでは全くないかもしれないけれど、往年のアバを知る人にはもっともっと話題になって良い気がする。
プロデューサーは、と見てみると一人はヨルゲン・エロフソン。ブリトニー・スピアーズやケリー・クラークソン、セリーヌ・ディオン、ジェニファー・ロペスなんかを手がけたヒット・ソングライターだった。そしてもう一人がペーター・ノーダール。ジャズからポップまで手がけるスウェーデンのプロデューサー、コンポーザー、ジャズ・ピアニストなのであった。悪いわけがないですね。ゲイリー・バーロウとのデュエットなんてのもそんな人脈で実現したのだろう。それでも耳障りなダンスビートは全くない。アグネッタの、63歳とはどうしても思えない、みずみずしく清らかな声を聴いていて心が洗われるような38分はあっという間に過ぎてしまった。20代の歌声、と思う人がいてもおかしくない。嘘だと思う人は聴いてみてはいかがだろうか。