*['60-'70 ロック] Brian Wilson / At My Piano ( Decca / 2021 )
ブライアン・ウィルソン、昨年リリースの新作『At My Piano』。ビーチ・ボーイズ・フリークはどのようにこの作品を受け止めたのだろうか。天才ブライアンが生み出した珠玉のマスターピースを自身のピアノで弾き語るインストゥルメンタル。ユニバーサル傘下になったDeccaからのリリース。ブライアンにDeccaというイメージはなかったけれど、もはや業界が再編され過ぎてよくわからない感じ。
国内盤CDのリリースが先で、そちらのジャケは現在のおじいちゃんブライアン。輸入LPは若かりしブライアン。収録曲は比較的60~70年代前半に寄っている印象なので、イメージ的にはLPかな?とそっちのリリースを待った次第。
この作品が出ると聴いた時に、真っ先に思い出したのはジミー・ウェッブ。20代前半でジョニー・リヴァース、フィフス・ディメンション、グレン・キャンベルにリチャード・ハリスを手掛けて時代の寵児となっていた彼とブライアンは良い意味でのライバル同士だった。ジミーが1989年にリンダ・ロンシュタットにカバーさせた”Adios”や、2013年の自演集で取り上げた”マッカーサー・パーク”には、ブライアンのコーラスで助演していた。そんなジミーがランディ・ニューマンの勧めで2019年、唐突に『Slipcover』(https://merurido.jp/magazine.php?magid=00023&msgid=00023-1564071165)というピアノ・ソロ・アルバムを作っていて、そこで”God Only Knows”を取り上げている。ブライアンの今作と違い、ジミーの方はカバーが中心だったけれど、アイデアの連鎖を感じた次第。
聴いてみると、独学でピアノを学んだという天才ブライアンの頭の中をちょっと覗けたような気分になる。ジミーと比べて上手とは言えないピアノだけれど、ドキュメンタリーなんかでちょろっと弾いて見せるピアノよりは、ちゃんとした作品として仕上げられている印象。リヴィング・ルームでリラックスしつつ、ぽろっと弾いたピアノの残響はブライアン自身の懐古の風景でもあるような。とりわけ冒頭”God Only Knows”、”In My Room”、”Don’t Worry Baby”の3曲にブライアンのナイーブな感性が集約されていた。お見事!また、「ピアノはおそらく人生を救ってくれた」とライナーにあるように、復活作だった”Love And Mercy”においては、瑞々しいメロディが再び紡ぎだされたその感動を追体験できた。
BBにロイヤル・フィルを被せるプロジェクトも手掛けているイギリスのニック・パトリックとブライアンがプロデュース、お馴染みのダリアン・サハナジャがディレクターとコ・プロデュースを手がけた本作、スタジオ・ミュージシャン集団レッキング・クルーのメンバーとして、”God Only Knows”や”Good Vibrations”のオリジナルでピアノを弾いていたドン・ランディ(ブライアンが敬愛するフィル・スペクターのセッションでも著名)に捧げられている。