遅れてきたフォーク・シンガー高橋忠史(1977年デビュー)の隠れた大名盤。現在闘病中の石川鷹彦がアコギ、ガット、フラマン、ドブロ、キーボード、シンセなどで全面参加したアコースティックな音作り(山田秀俊もキーボードで参加)。石川大先生の全面参加作でも指折りなのは吉田拓郎『元気です』、山木康世『静かに水の流れが岸をけずる』、茶木みやこ『Two Doors Away』、野本直美『さかな』、そして高橋忠史の『東京』でしょう。1980年代は日本に限らずフォーク冬の時代。長渕ですらロック化しますから。アメリカだと80年代後半になると、フォーク(リヴァイバルの)リヴァイバルが来るんだけど。日本だと90年代前半にリヴァイバルが来た。しかしそこでもこの人は話題にならなかった。
トーラスから1981年にリリースされたサード・アルバム、彼のしゃがれた絶叫が深く心に刻まれる。今でいえば竹原ピストルを思わせる、身を削る魂の歌。何度聴いても聴き飽きず、切ないメロディがグッとくる。「中国まねても中国にならず アメリカまねてもアメリカにならず それでも何とか生き続けてる 希望はあるさこの国家にも」「こうなりゃ好きに生きるだけ 俺だけの為に俺の唄を」なんていう”唄”とか、最高です。「何もない時に生まれた人には 豊かな時代だろう だけど今時の若者はぜいたくだなんて言わんでほしい」「俺達にとって今は何も無い 時代なんだろう 何も無いからこそ何かを 見つけようとしているんだろう」という”俺達の時代”もある。飽食の時代などと言われるようになる80年代の日本で、ギターを手にとって歌うことの意味を突き詰めて考えたのだろうと想像する。石川鷹彦のマンドリンが素晴らしいバラード”膝を抱いても眠れない夜”もただただ聴き惚れる名曲。このアルバムのリリースに合わせて自転車ツアーをやっていた。
現在、多系統萎縮症という神経の難病と戦いながらコンサートを続けておられることをホームページで知った(https://blog.goo.ne.jp/tkhs1952)。私が小さい頃に住んでいた東京・小平市のご自宅でライブをやられているのだという。いつか行ってみたいと思う。