懸案だった部屋の掃除を少しずつやりながら(レコードと本で動けなくなっていた)、ガス・キャノンのスタックス盤『Walk Right In』を聴いている。ガス・キャノンといえばフォーク・リヴァヴァル期にこぞって演じられた”Walk Right In” (エリック・ダーリングのルーフトップ・シンガーズのヴァージョンが有名)のオリジネイターだ。メンフィスで活躍したガス・キャノンのキャノンズ・ジャグ・ストンパーズのヴァージョンはジャグ・バンド全盛期の1929年にリリースされている。ルーフトップ・シンガーズ版のリヴァイヴァルが1962年だったから、この1963年のスタックス盤はそれを受けてのリリースだろう。コレが正真正銘のホンモノですよ、っていう。
思えばガス・キャノンは1883年の生まれ。亡くなったのは1979年(私の生まれた年でした!)だから、ずいぶんと長生きだった(96歳)ことになる。同い年の人って誰だろうと思って1883年生まれを調べてみると、美食家の北大路魯山人とか二・二六事件の理論的指導者だった北一輝とか。これでもイメージがわかないかもしれませんが(笑)、おばあちゃんフォークシンガーのイメージのエリザベス・コットンでさえ1895年生まれ、ミシシッピ・ジョン・ハートが1892年生まれ…ですから、ガス・キャノンはさらに年上だったことになる。ガスの生まれはミシシッピで、クラークスデイル近郊に移り住みバンジョーを習得(最初のバンジョーはギターのネックで手製だったとか)。音楽的にはブルーズの父であるW.C.ハンディのバンドのフィドル奏者ジム・ターナーに影響を受けている。バンジョー・ジョー名義での1927年の初レコーディングではブラインド・ブレイクがバックでギターを弾いているみたい。うーん、ただただ歴史を感じるけれど、同時代的に俯瞰すればそうした接点も頷ける。
リヴァイヴァル期のガスの単独作は本盤のみであり、しかもR&B色の強いメンフィスのスタックスから出たフォーク作ということでレア盤化してしまい、あまり省みられることがなかったのが悲しい。80歳の時のレコーディングだけれど、歌声やバンジョー演奏は力強い。1920〜30年代に同じく一世を風靡したメンフィス・ジャグ・バンドの中心人物ウィル・シェイド(1898年生まれ)とミルトン・ロビーがそれぞれジャグとウォッシュボードを担当。”Walk Right In”の自演版とともに、ミシシッピ・ジョン・ハートが”Ain't No Tellin'”として1928年にレコーディングしている” Make Me a Pallet on Your Floor”が入っているのが嬉しい。後者は高田渡の名曲”仕事さがし”のメロディに引用されている。”乗るんだよ電車によ 乗るんだよ電車によ 雨の日も風の日も 仕事にありつきたいから”…。ちなみこれはガス・キャノン盤からさらに40年後、2003年の息子・高田漣との共演ライブ『高田渡/高田漣 27/03/03』のヴァージョンが最高で。