/ Come And Stick Your Head In(Flying Dutchman FDS-102 / 1969)
さて、今日手に取ったのは1969年にジャズ・レーベルのフライング・ダッチマン(ボブ・シール設立)からリリースされたSpontaneous Combustionの『Come And Stick Your Head In』。バンド名は適当に付けたんだろうけれど、その名も「自然発火」。中身は60年代のLAポップ・シーンの陰の主役だったスタジオ・ミュージシャン、レッキング・クルーの面々。主役はティム・ハーディンの1曲以外の作曲を務めるゲイリー・コールマン。演っているのはジャズ・ロックなインスト。ロッキンだったり、ラテン・ビートが挟まったり。冒頭の”Blue Sir-G-O”がスリリングでとても気に入っている。
メンバーはゲイリー・コールマン、マイク・メルヴォイン、ラリー・ネクテル、トム・スコット、デニス・バディマー、ジョン・ガーリン、ジム・ホーン、マイク・ディージー、そして「レイラ」の共作者でもあるジミー(ジム)・ゴードンという。60年代の多くのポップ・ソングのレコーディングは彼らを含むレッキング・クルーの面々が演奏していた、というのは有名な話だ。好きな傾向の音を含むレコードを集めていったら、ほとんどレッキング・クルー仕事だった、という話もあるから、多くの場合ノン・クレジットで影武者仕事が伏せられていたとは言え、当時から耳の良いリスナーは聴き分けられたのではないだろうか。フィル・スペクターからソニー&シェール、そしてママス&ザ・パパスやバリー・マクガイアといったダンヒル仕事、ジャン&ディーン、モンキーズ、サイモン&ガーファンクル、カーペンターズ、フィフス・ディメンション、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』のバーズの「ミスター・タンブリン・マン」…
トミー・テデスコの息子が完成させた映画『レッキング・クルー〜伝説のミュージシャンたち〜』も今年話題になっているけれど、それに先立つケント・ハートマンの書いた『レッキング・クルーのいい仕事』(P-Vine BOOKSから邦訳が出ているけれが、誤植が多いのを除けば素晴らしい)はとても面白い本だった。そこにも売れないヴィブラフォン奏者だったゲイリー・コールマンが女性ベーシスト、キャロル・ケイの手引きでデヴィッド・アクセルロイドの元でパーカショニストしての地位を得るくだりが出てくる。『ペット・サウンズ』のパーカッションもゲイリーだった。S&Gの「明日に架ける橋」のレコーディングでは、後にブレッドに加入するラリー・ネクテルが流麗かつ壮大なライチャス・ブラザーズばりのピアノ・アレンジを練り上げ、そこにゲイリーが30分くらいでヴィブラフォンを加えた話も登場する。SPONTANEOUS COMBUSTIONの演奏に、ゲイリーを始めとしたレッキング・クルーの面々の一朝一夕では為し得ない卓越した技量を思い知らされる。