/ I’m Stranger Too!( Poppy[RCA] PYS 40013 / 1970 )
クリス・スミザー!久々に聴いたら…もう最高の気分だ。家から一番近くにある中古レコード屋、ほぼ毎日のように行っている三鷹のパレードにて、ちょっと割れてるけどもし良ければ…ということで頂いてしまった。レコードの盤質とか割れとかは全く気にしないので、嬉々としてプレイヤーに載せると…SSWの理想型がそこにはあった。
90〜00年代は相当多くのSSW盤が再発されたものだと今にして思う。リアルタイム世代だけでなく、我々のような当時大学生だった世代も面白がってそこに惹かれていった、というのが今思えば不思議だ。もちろん現在のJ-POPのルーツとして突如脚光を浴びたはっぴいえんどの周辺ミュージシャンの参照枠として、アメリカン・ミュージックが地味な所まで掘られていった動きとも関連しているけれど、それだけではなかったと思いたい。大きくなり過ぎてしまった音楽産業の中で、自分だけの唄を、隣で囁きかけてくれるように歌い継ぐシンガー・ソングライター達のパーソナルなムードにある種の居心地の良さを感じたのではなかったか。現代のカフェ文化の水脈を辿っていくとそんな所にもぶつかったり。
クリス・スミザーはというと、このファーストとセカンド『Don't It Drag On』との2in1をCDで購入したんだったか。似たプロダクションだったタウンズ・ヴァン・ザントなどもその頃レコードでよく買っていた。
それにしても初めて聴いたとき、その声色の説得力に圧倒された。近作を聴いたときにもそれを確信したけれど、ギター1本でも憑依したブルーズ・マンのような所があって。声やギターの一音一音に全くもって迷いがない。このファーストにはニール・ヤング(”I Am A Child”)やランディ・ニューマン(”Have You Seen My Baby”、フォスターを引用した”Old Kentucky Home(Turpentine And Dandelion Wine)”)といったカバーも含まれているけれど、それこそ人類のコモン・ストックであるような珠玉の楽曲をブルーズ・マンの如く自分の唄に作り替えている。音楽のヒントは現在ではなく過去にある。
バンドの音も良く録れていて。基本はリズム・ギターを務めるジョン・ベイリーとクリスの二人で作った音だろう。プロデュースは60〜70年代の並み居る大物と仕事をしているロナルド(ロン)・フランペインとSSW好きならまず押さえるだろうマイケル・クスカーナ。エンジニアにはブルックス・アーサーの名前も。一番ブルーズど真ん中な”Love You Like A Man”はブルーズ姉御ボニー・レイットのアルバム『Give It Up』に取り上げられたのだった。そう、B面1曲目のタイトルが”Homunculus”というのも印象深くて。ホムンクルスと言えばルネサンス期の錬金術師パラケルススが作れると主張した人造人間だ。
ジャケットも人を食ったようで良い。アメリカを代表するデザイナーのミルトン・グレイサー。86歳でまだご存命。トマト・レコードのロゴも彼。なんといってもニューヨークのあのキャンペーン・ロゴが代表作!