いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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markfolky@yahoo.co.jp

[NEW!!]2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
[NEW!!]2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
[NEW!!]2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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 ホール・バーバンク・カタログ(The Whole Burbank Catalog)

markrock2015-04-04



4月、新年度…なんとなく気忙しく心がざわつく季節。そんな時はミュージカル・トリップへ。何を聴くでもない今日はホール・バーバンク・カタログに針を落としている。

ホール・バーバンク・カタログはワーナー/リプリーズの「ロス・リーダース」の一枚。ロス・リーダース(loss leaders)というのは客寄せのサンプラーのこと。安価なサンプラーを配布し、結果的には本編を買って貰うというセールス・プロモーションの手法だ。レコード業界での先駆はワーナー/リプリーズのもの。何しろ当時たったの2ドルでゲイトフォールドの2枚組という破格のもの。収録アーティストは20を超えるものもあり、ヒット曲も2、3は惜しげもなく。とはいえ何気ないアルバムの1曲なんてのも多いのだけれど、なぜかアルバムで聴く時よりアーティストの個性が際だち、単純にいいな〜と思ってしまう。これならついついアルバムに手を伸ばしたくなる…時折アルバム未収録音源があるのも魅力の一つ。コラージュ的に当時の政治家の演説やらノスタルジックなオールディーズやらが入ったりするのも面白い。私は見つけるとひやかしに買っているのだが、全部買うのはいつになるのやら。

1969年に初めての『THE 1969 WARNER/REPRISE SONGBOOK』が出て70年代までに32枚。1980年に1枚。同年にジャズ版が1枚とパンク版(タイトルは『TROUBLEMAKERS』)が1枚。ここで役目を終えたのもロック・エラのコンピレーションとしては象徴的。その後90年代に2枚、CD版が出ている。



コレクターもいるらしく、こんなサイトもありました。収録曲やジャケットなどはここで確認するとたやすい。
http://www.dustbury.com/music/wblist.html


さて、ホール・バーバンク・カタログ。よく見てみるとあれ、と気付いた人もいるだろうけれど、これは「ホール・アース・カタログ(Whole Earth Catalog/WEC)」のパロディ。このセンスはロス・リーダースの選曲者であったDJのドクター・ディメントことバリー・ハンセンのセンス。バリーはノヴェルティ・レコードのコレクターで、あのアル・ヤンコヴィックもバリーによって見出されたのだった。



ネタ元のホール・アース・カタログ(Whole Earth Catalog/WEC)は全地球カタログという名前でも日本では知られているけれど、ヒッピーのバイブルだったカタログ雑誌の先駆(http://www.wholeearth.com/index.php)。結構大判の本。access to toolsという副題がついていて、FUNCTION(機能)(「道具として使えるか」を重視しているから、道具として使えれば善、という合理的なアメリカ人のプラグマティズムの流れも入っているのだろう。)、PURPOSE(目的)に始まりヒッピーのライフスタイルに必要な商品を「Shelter」「Craft」「Nomadics(ノマド、遊牧生活ですね…)」などという大カテゴリに分けて紹介している。

エコロジー思想に関する書物からテントや山小屋の作り方(”THE BARN(納屋)”という本が紹介されているけれど、佐野元春がジョン・サイモンのプロデュースでウッドストック録音したアルバムのタイトルを思い出した。このアルバムはウッドストックのベアズヴィル・スタジオ内にある納屋を改造したタートル・クリーク・バーンで録音されている。)、それにマッシュルーム、なんて危ない小カテゴリも。

作家・活動家のスチュワート・ブランドが1968年に創刊したのがはじまり。表紙がまた凄くて、宇宙から見た地球。スチュワートがNASAにその写真を見せろと迫って公表されたという写真。この頃から地球市民的なモチーフが文化事象の各所に登場するようになる。1972年にストックホルムで開かれた国連人間環境会議のスローガンは「Only One Earth(かけがえのない地球)」。70年代のレコード・ジャケットにはやたらと地球が出てくるのもその流れ。80年代になると今度はそれが宇宙になってくるのだけれど。

でも、ヒッピー雑誌のバイブルなのに、カタログ雑誌という消費文化に毒されているのがのが個人的には面白いと思っていて。この辺りにヒッピー運動に支えられたダウン・トゥ・アースなエコロジー運動の限界が見えた理由の一端があるような気がしている。とは言え、都会人が自給自足の真似事をするみたいなノリは個人的には結構好きなんですが。要は気持ちが大切ですから。



このカタログ雑誌、日本の初期の『宝島』(古本で集めたことがあったけれど、面白い!)や『Popeye』に多大な影響を与えている。このカタログ文化が80年代、田中康夫的なんとなくクリスタルに変容していくのも面白い。ヒッピーがジーンズを脱いでスーツに着替えて、AORを聴いて。ヒッピーズ・マインドはどこへ行った?という。ケニー・ロギンスの従兄弟だったデイヴ・ロギンスの1979年のアルバム・ジャケットはそれをそっくりそのまま表現している。

さて、このホール・アース・カタログの最終号ホール・アース・エピローグ(Whole Earth Epilog)は1974年に出版された。

裏表紙には毎号箴言めいた一言があったのだけれど、その最終号の裏表紙には「Stay hungry, Stay foolish.」とある。そう、アップルの創業者スティーヴ・ジョブスが2005年にスタンフォード大学で行った講演で引用した有名な言葉だ。ホール・アース・カタログの最終号が出た当時ジョブスは19歳。グレイトフル・デッドビートルズ(とりわけジョン)、ボブ・ディランを聴きまくり、ヒッピーのライフスタイルに相当ずぶずぶだったらしく、グルを求めてのインド行きまで計画していた。そんな彼の胸に「Stay hungry, Stay foolish.」の語が深く突き刺さったことは想像に難くない。西洋の飽食文化から東洋思想にかぶれたヒッピーらしく、禅に傾倒したジョブスは無駄な装飾を廃して「白」を基調としたデザインに辿りつく。iPhoneiPodに今も生きているけれど、これはほぼ枯山水の世界観だと私は思う。アップル・コンピュータはもちろんビートルズのアップル・レコードを念頭に置いていたのだろう。

ハングリーでフーリッシュ、大人になると忘れちゃう何かだと思う…隣町まで走っていこうぜ、みたいな。大人が自制の範囲内で時々ハメ外そうぜ、とは違うニュアンスだと思う。ビジネスマンの格言の類は一切興味がないけれど、これは別格。私にとっても大切な言葉だ。



ちなみに「ホール・バーバンク・カタログ」の裏ジャケには…


キャプテン・ビーフハートは神のゴルフボールと呼んでいる。)



ジャケ内のデザインもホール・アース・カタログを踏襲していて秀逸な出来。こんな遊び心もいい。