いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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[NEW!!] ohno tomokiとダニエル・クオンによるデュオ「x-bijin」初のアルバム『x-bijin』(2020年6月26日発売)、リリースインフォにコメントを書かせてもらいました。
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11月15日発売のレコードコレクターズ12月号に加奈崎芳太郎『キッス・オブ・ライフ ジャパニーズ・ポップスの50年を囁く』(明月堂書店)の書評が載りました。
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編集・ライターを担当した加奈崎芳太郎著『キッス・オブ・ライフ ジャパニーズ・ポップスの50年を囁く』(エルシーブイFM「加奈崎芳太郎のDIG IT!!」書籍化)が2019年8月に発売されました。
●加奈崎芳太郎著・桑畑恒一郎写真
●定価:本体3000円+税
●A5判(上製)416頁
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【メディア掲載】
『毎日新聞』2019年10月3日掲載 「元「古井戸」加奈崎芳太郎さんが本出版 音楽活動50周年の集大成」
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『長野日報』2019年9月25日掲載 「音楽文化で伝える戦後 パーソナリティのFM番組まとめ 加奈崎さん書籍刊行」
極北ラジオ石浦昌之の「哲学するタネ」が書籍化されました。
『哲学するタネ【東洋思想編】――高校倫理が教える70章』(石浦昌之 著)2018年9月発売!!
●石浦昌之著
●定価:本体2500円+税
●A5判(並製)384頁
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【書評掲載】
『情況』2018年秋号 田中里尚(文化学園大学准教授)「教えられぬことこそ語り続けなければならない―石浦昌之の実践について―」
『日本教育新聞』2019年3月18日 都筑 学(中央大学教授)「先哲から学ぶ人生の知恵」
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【ブックガイド掲載】
斎藤哲也『もっと試験に出る哲学――「入試問題」で東洋思想に入門する』(2020年、NHK出版新書)

 ホール・バーバンク・カタログ(The Whole Burbank Catalog)

markrock2015-04-04



4月、新年度…なんとなく気忙しく心がざわつく季節。そんな時はミュージカル・トリップへ。何を聴くでもない今日はホール・バーバンク・カタログに針を落としている。

ホール・バーバンク・カタログはワーナー/リプリーズの「ロス・リーダース」の一枚。ロス・リーダース(loss leaders)というのは客寄せのサンプラーのこと。安価なサンプラーを配布し、結果的には本編を買って貰うというセールス・プロモーションの手法だ。レコード業界での先駆はワーナー/リプリーズのもの。何しろ当時たったの2ドルでゲイトフォールドの2枚組という破格のもの。収録アーティストは20を超えるものもあり、ヒット曲も2、3は惜しげもなく。とはいえ何気ないアルバムの1曲なんてのも多いのだけれど、なぜかアルバムで聴く時よりアーティストの個性が際だち、単純にいいな〜と思ってしまう。これならついついアルバムに手を伸ばしたくなる…時折アルバム未収録音源があるのも魅力の一つ。コラージュ的に当時の政治家の演説やらノスタルジックなオールディーズやらが入ったりするのも面白い。私は見つけるとひやかしに買っているのだが、全部買うのはいつになるのやら。

1969年に初めての『THE 1969 WARNER/REPRISE SONGBOOK』が出て70年代までに32枚。1980年に1枚。同年にジャズ版が1枚とパンク版(タイトルは『TROUBLEMAKERS』)が1枚。ここで役目を終えたのもロック・エラのコンピレーションとしては象徴的。その後90年代に2枚、CD版が出ている。



コレクターもいるらしく、こんなサイトもありました。収録曲やジャケットなどはここで確認するとたやすい。
http://www.dustbury.com/music/wblist.html


さて、ホール・バーバンク・カタログ。よく見てみるとあれ、と気付いた人もいるだろうけれど、これは「ホール・アース・カタログ(Whole Earth Catalog/WEC)」のパロディ。このセンスはロス・リーダースの選曲者であったDJのドクター・ディメントことバリー・ハンセンのセンス。バリーはノヴェルティ・レコードのコレクターで、あのアル・ヤンコヴィックもバリーによって見出されたのだった。



ネタ元のホール・アース・カタログ(Whole Earth Catalog/WEC)は全地球カタログという名前でも日本では知られているけれど、ヒッピーのバイブルだったカタログ雑誌の先駆(http://www.wholeearth.com/index.php)。結構大判の本。access to toolsという副題がついていて、FUNCTION(機能)(「道具として使えるか」を重視しているから、道具として使えれば善、という合理的なアメリカ人のプラグマティズムの流れも入っているのだろう。)、PURPOSE(目的)に始まりヒッピーのライフスタイルに必要な商品を「Shelter」「Craft」「Nomadics(ノマド、遊牧生活ですね…)」などという大カテゴリに分けて紹介している。

エコロジー思想に関する書物からテントや山小屋の作り方(”THE BARN(納屋)”という本が紹介されているけれど、佐野元春がジョン・サイモンのプロデュースでウッドストック録音したアルバムのタイトルを思い出した。このアルバムはウッドストックのベアズヴィル・スタジオ内にある納屋を改造したタートル・クリーク・バーンで録音されている。)、それにマッシュルーム、なんて危ない小カテゴリも。

作家・活動家のスチュワート・ブランドが1968年に創刊したのがはじまり。表紙がまた凄くて、宇宙から見た地球。スチュワートがNASAにその写真を見せろと迫って公表されたという写真。この頃から地球市民的なモチーフが文化事象の各所に登場するようになる。1972年にストックホルムで開かれた国連人間環境会議のスローガンは「Only One Earth(かけがえのない地球)」。70年代のレコード・ジャケットにはやたらと地球が出てくるのもその流れ。80年代になると今度はそれが宇宙になってくるのだけれど。

でも、ヒッピー雑誌のバイブルなのに、カタログ雑誌という消費文化に毒されているのがのが個人的には面白いと思っていて。この辺りにヒッピー運動に支えられたダウン・トゥ・アースなエコロジー運動の限界が見えた理由の一端があるような気がしている。とは言え、都会人が自給自足の真似事をするみたいなノリは個人的には結構好きなんですが。要は気持ちが大切ですから。



このカタログ雑誌、日本の初期の『宝島』(古本で集めたことがあったけれど、面白い!)や『Popeye』に多大な影響を与えている。このカタログ文化が80年代、田中康夫的なんとなくクリスタルに変容していくのも面白い。ヒッピーがジーンズを脱いでスーツに着替えて、AORを聴いて。ヒッピーズ・マインドはどこへ行った?という。ケニー・ロギンスの従兄弟だったデイヴ・ロギンスの1979年のアルバム・ジャケットはそれをそっくりそのまま表現している。

さて、このホール・アース・カタログの最終号ホール・アース・エピローグ(Whole Earth Epilog)は1974年に出版された。

裏表紙には毎号箴言めいた一言があったのだけれど、その最終号の裏表紙には「Stay hungry, Stay foolish.」とある。そう、アップルの創業者スティーヴ・ジョブスが2005年にスタンフォード大学で行った講演で引用した有名な言葉だ。ホール・アース・カタログの最終号が出た当時ジョブスは19歳。グレイトフル・デッドビートルズ(とりわけジョン)、ボブ・ディランを聴きまくり、ヒッピーのライフスタイルに相当ずぶずぶだったらしく、グルを求めてのインド行きまで計画していた。そんな彼の胸に「Stay hungry, Stay foolish.」の語が深く突き刺さったことは想像に難くない。西洋の飽食文化から東洋思想にかぶれたヒッピーらしく、禅に傾倒したジョブスは無駄な装飾を廃して「白」を基調としたデザインに辿りつく。iPhoneiPodに今も生きているけれど、これはほぼ枯山水の世界観だと私は思う。アップル・コンピュータはもちろんビートルズのアップル・レコードを念頭に置いていたのだろう。

ハングリーでフーリッシュ、大人になると忘れちゃう何かだと思う…隣町まで走っていこうぜ、みたいな。大人が自制の範囲内で時々ハメ外そうぜ、とは違うニュアンスだと思う。ビジネスマンの格言の類は一切興味がないけれど、これは別格。私にとっても大切な言葉だ。



ちなみに「ホール・バーバンク・カタログ」の裏ジャケには…


キャプテン・ビーフハートは神のゴルフボールと呼んでいる。)



ジャケ内のデザインもホール・アース・カタログを踏襲していて秀逸な出来。こんな遊び心もいい。