「好きなミュージシャンは?」
「デヴィッド・クロスビー」
「…」
このやりとりがいまだに忘れられない。おそらく15年くらい前のこと。某大学にあったフォーク・ソング・サークル、その名もスナフキン。ここにふらっと立ち寄った彼との会話。「ゆず」とか「ミスチル」「スピッツ」とかそんな時代ですよ。そこで出て来たのが「デヴィッド・クロスビー」。私は思わず唸ってしまい、"Wooden Ships"のリフを弾きはじめて…
そんな彼とはたまたま同じ東京・多摩地域に住んでいたこともあり、レコードを聴く会、これを何度もやりはじめることになる。中田佳彦と大滝詠一のランプポスト、みたいなものが念頭にあったような気もするけれど、お互いこれぞ、という音楽的発見を披露し合い、影響し合った部分があった。お互い60〜70年代の洋邦のフォーク・ロックに深い関心があったし、そんな音楽を知る人は身近にほとんどいなかった。
彼はその後当たり前のようにロック・ライターになり、私淑する曽我部恵一とも会い、カレン・ダルトンの日本盤のライナーを書き、バーズの再来といっても過言ではないビーチウッド・スパークスの良き理解者となり(今思い出したけれど、その縁でデイヴさんの来日公演用にアコギをお貸ししたこともありました)、故佐藤一道氏とはじめたネット・ファンジンMonchcon!(モンチコン)でインディー・ロック・シーンに一大旋風を巻き起こす。2012年にブログの書籍化(+加筆再編集)『モンチコンのインディー・ロック・グラフィティ—The First Annual Report Of Monchicon』(DU BOOKS)を出版、FMおだわらで同名番組がレギュラー放送された。2014年には『CROSSBEAT Presents CON-TEXT』(SHINKO MUSIC MOOK)が、フリーペーパーでのCON-TEXTを挟み今年2015年、晴れて『CROSSBEAT Presents CON-TEXT VOL.2』が出版。今ちょうど書店で平積みになっている所!
そんな「彼」というのが清水祐也くんその人。売るための取って付けたようなヨイショ記事ではなく、「この音楽が好き!」で始まるレビューが読めるのが嬉しいし、インタビューにしても音楽の生まれた文化的背景をさりげなく掘り返すその視点は鋭い。文章は粋。紙面はスタイリッシュでありつつ、70年代のカタログ雑誌を思わせるトリビアルな情報もあって。だいいち「グリズリー・ベアとマイケル・マクドナルドを繋いだ女の子がいた?」なんて記事だとか、グレン・キャンベルやジミー・ウェッブ、スティーリー・ダン、フリートウッド・マック、パールズ・ビフォア・スワイン、ノーマン・グリーンバウムなんて名前が出てくるインディー・ロック雑誌がいまだかつてあっただろうか?
ということで新刊『CROSSBEAT Presents CON-TEXT VOL.2』、副題「EAST meets WEST」「さよならアメリカ さよならニッポン」。良いですね。NYのフォー・シーズンズとCAのビーチ・ボーイズの共演盤のタイトル、それにはっぴいえんど。表紙はマック・デマルコとシャムキャッツのメンバーが持つ『HOSONO HOUSE』、ディスクユニオンでのツー・ショット。日本の文化に興味を持つ海外ミュージシャン、今も沢山いるんですね。清水くんに紹介してもらったDaniel Kwonくん(私の3枚のアルバムのアートワークも手掛けてくれた!)もそうだけれど、どこでどうやってコレを知ったんだろう、と興味が湧いてしまう。三島・谷崎なんていうラインもまだありつつ、コンピューター・ゲームやYMO、Perfumeにアニメ、みたいなデジタル・シティなイメージ。はっぴいえんどで言えば情緒たっぷりな歌モノを残した大滝詠一はドメスティックに受容され、身体性を廃したテクノに没入した細野晴臣だからワールド・ワイドな支持を得たのかな、とか色々考えつつ。そんなわけで、「洋楽の中の日本「ジャポネスク・ディスク・ガイド」」も面白く読んだし、くるりとアヴァ・ルナ、森は生きているとジェームス・ブラックショウの往復書簡も興味深かった。そうそう、カセット・テープというフォーマットでのリリースを続けるバーガー・レコーズの特集も面白かった!
日本の欧米文化受容を思うと、明治以来いまだに不十分だと思えるのが翻訳の壁、そして例えば目の前の「音楽」だけではなく映画、雑誌、テレビ、ゴシップ…それらを含む文化の総体を理解し、伝えることだ。植草甚一はそのまま翻訳することでそれらをつかもうとしたし、小林克也は自身の巧みな語りでそれら伝えようと今も奮闘している。では清水祐也くんは?というと、彼は書くことでそれをやろうとしているのではないかと思えるのだ。今後もMonchcon!(モンチコン)の、清水祐也くんの、新しい記事を楽しみにしつつ…