ロックするか、ぶっつぶれるか!(『Rock Or Bust』)また最高のタイトルで奴らがやって参りました。解説はセーソクさんこと伊藤政則氏。こーいうものは日本盤を入手。初回限定のホログラム・ジャケというやつが面白い。バンド・ロゴが粉砕されるという演出付きで。しかも、計算済みであろうジャスト35分00秒の11曲。セーソクさんも流石慧眼と思ったけれど、指摘してました。アナログ時代を念頭に置いた作品であるということ。確かに最近のアルバムは冗長で長すぎる。聴き続けて、物足りないなと思うくらいの長さが、また聴こう、に繋がるのかもしれない。そう言う意味では長くて3分41秒、短くて2分42秒、というこのアルバムの楽曲は実に潔い。レーベルも黒字に金文字の旧い12インチ風で。
ハード・ロック / メタルやプログレの世界って、女人禁制の会員制クラブみたいな所があって、どうもそういう雰囲気は好きになれないけれど、近年のAC/DCは普通のロック・ファンにもっと聴かれて良いのになと思ったりする。ストーンズとほとんど同じ、ノリを楽しむ良い意味の金太郎飴ロック。最近このノリがなぜか涙腺を刺激する。私自身、真に開眼したのは恥ずかしながら2008年の前作『Black Ice(悪魔の氷)』だったわけで。それまではモンスター・アルバム『Back In Black』は当然聴いてるけど、程度の。それが、前作『Black Ice(悪魔の氷)』の冒頭”Rock N Roll Train(暴走列車)”を聴いたとき、アタマに雷が落ちたくらいの衝撃がありまして。再ブームを巻き起こしたのも判るポップさ。それから狂ったようにアルバム遡って全部聴きました。大好きなイージービーツのヴァンダ・ヤングかいな、っていう、そしてジョン・ポール・ヤングもだったんかいな、という初歩的な気付きもありました。そして2011年リリースのDVD『Live At River Plate』を観て…これ、贔屓目抜きで今までみた音楽DVDの中で一番凄かった。だって、渦のような南米の熱狂的な群衆で会場が「揺れて」るんですよ。物理的に。それがちゃんとわかる。シンプルな、時に技巧的なアンガス・ヤングのギターリフだけで音が立ち上がって観客もろともロックする。ロック音楽の神髄はここにあるんだな、という。何故だか涙が止まらなくなって。ストーンズなんかの生演奏でもそのフィーリングが伝わるんだけれど、なかなかこんなバンドはありそうで、ない。日本のロックバンドも色々生で観たけれど、こういう感覚を味わったことはまだない。もったりしたノリなんだけど、腰が動く、という。でも、ファシズムみたいな一律的なヘッドバンキングや手を振りかざしての一斉動作にはならない、という。
今作は前作ほどのキラーがあるか、と言えばそこまでのものはないけれど、伝統芸能か、と言うくらいのお家芸全開で、米メジャーリーグのポストシーズンのテーマに選ばれたという2曲目”Playball”に続く3曲目”Rock The Blues Away”でまたもや涙が止まらなくなってしまった。もはや涙腺制御不能、意味不明ですね。感情の趣くままに。前作に引き続くブレンダン・オブライエンのプロデュース・ワークも良い。ハード・ロック・ファンだけに聴かせない、危険な匂いに偏らない骨太なアメリカン・ロックの王道感を打ち出している。何よりブライアン・ジョンソンの歌いっぷりが好きなんだと思う。ボン・スコット時代より好き、なんて言ったら流石に筋金入りのファンに怒られるかな。でも、ガニ股で、もはやカッコイイとは言い難いオッサン67歳が声振り絞ってハイトーン出すわけですよ。胸が打ち震えない訳がない。来年でバンドはデビュー42年。ブライアンはジョーディーでデビューしたのが1972年ということですから来年で芸歴43年…。
9月にはまさかの認知症…によるマルコム・ヤングの離脱もありました。内ジャケにはアンガスのギターと寄り添うマルコムのギターが…切なすぎる。ただかつてマルコムの代役を務めた一族スティーヴィー・ヤングが再び代役に収まった。と思ったら今度は11月にドラマーのフィル・ラッドが殺人に関与して逮捕、なんてニュースもあって。ニュー・アルバムの気の利いたプロモーションかと勘違いしたけれど、実際プロモーションはフィル抜きで行われて、シャレになっていない出来事だと理解した次第。人生山あり谷ありか…ロックするか?それともぶっつぶれるか?