/ すずききよしと歌おう( FRR / 1973)
「(中・印・仏の核実験のことに触れて)…世界中の人々に原爆を作ることをやめてもらいたいと思いますね。でも人間の歴史なんていうモノは愚かなことの繰り返しのようです。人間という種族がまだまだ本当に一人前の生物じゃないのかもしれません…(ライオンが食べるための一頭のシマウマしか殺さないことに触れて)人間は食べもしないのにたくさんの人を殺します…」
チューニングがてらこんなトークを挟んで歌うB-1「この国の歴史を教えてくれ」。久々に脳天を打ち抜かれてしまいました。楽曲はURCのリリース盤でお馴染みのひがしのひとし。補作詞は藤村直樹。歌うはすずききよし。何だか原爆が原発に聞こえてしまって、この国は、40年経とうが50年経とうが、本質は変わっていないのだという思いがしたものだ。
フォークはずっと集め聴き続けているジャンルだ。ブルース・スプリングスティーンがトリビュート作を作ったことで2000年代も話題になったピート・シーガーが今年1月94歳で亡くなったのはショックだったけれど(大往生だとは思いますが…)、日本で思想的にブレない立ち位置でホンモノのホンネのフォークを作り、歌い続けている人は誰だろう、と考えて思い出したのが御歳83才、日本最長寿のシンガー・ソングライター、すずききよし。この人をおいて他にはいないでしょう。関西フォーク・シーンの中で高石ともや や岡林信康」が歌った、出稼ぎ労働者をテーマにした”俺らの空は鉄板だ”や”お父帰れや”(個人的には赤い鳥のヴァージョンで初めて聴いた)のオリジネイターとして知られている人。私もこの2曲で興味を持ったのが出会いだったような気がする。
ただ、レコードに出会うまでは時間がかかった。近年中古レコード屋さんを回っていて、やっと『明日への道 すずききよし 愛と自由の讃歌』(1977)(後期ベルウッドからのリリース。某有名生粋のフォーク評論家への招待状が入っていた。もうご高齢だと思うので、処分されたのかしら?)と『戦争は許さない すずききよし 平和と自由をうたう』(1981)の2枚を手に入れた。大切にして、よく聴いている。
先日3枚目で手に入れた大阪労音例会の実況録音盤『すずききよしと歌おう』は1973年のリリース。彼のファースト・アルバムに当たるようだ。満州事変の年(1931年)に生まれ、戦時を体験し、引き揚げ後は教員、金属労働者、広告代理店、音楽プロダクション、放送作家…と職を転々とし、うたごえ運動にも参加、その後あのレン・チャンドラー(リッチー・ヘイヴンスらと同様の黒人フォーク・シンガーのひとり。最近1967年にコロンビアからリリースされた『To Be A Man』を聴いて感動しました…)の勧めで自演フォーク・シンガーになったのだという。もっと詳しくその辺りのいきさつを聞いてみたいものだ。
しかしそうなると、デビューが42歳ですよ!コレには衝撃を受けました。伝えたいメッセージがなかったら、自身の音楽活動に打ち込む年齢ではないだろう。「究極の正義とはひもじいものに食べ物を与えることである」と語った戦中派のやなせたかしがアンパンマンをヒットさせた時すでに50代だったことなども思い出してしまう。
淡々と歌われるA-1”お若い方よお聞きなさい”の歌詞をちょっと引用しよう。
「あれから29年 再び悪い資本家や官僚や政治家たちは
小選挙区制をしいて 憲法を改悪し
ふたたび徴兵制で君たち若ものを戦地に送りだし
その尊とい血と肉体で自分たちは大もうけを企んでいますよ
…今みなさん じっと耳をすましてごらんなさい
どこからかあのいまわしい靴音が聞えてくる
軍国主義という名の恐ろしい足音が
すぐそこまで来ていますよ」
戦争で何も傷つかず失わず、得をした人もいれば、損をした人もいる。少なくとも巨大資本に守られなかった多くの貧乏人が割を食ったことは間違いない。いやはや、繰り返しになるけれど、この国は、40年経とうが50年経とうが、本質は変わっていないのだという思いがしたものだ。