/ Now ( Epic/Solor / 1991 )
リッチー・ヘヴンスが亡くなったという。恐ろしい喪失感とショックに包まれている。しかも、リッチー・ヘヴンスの持っていないレコードを探していたその日だったのだから驚いた。いつも音楽に気持ちを向けていると、こんな気持ちのシンクロが起こることがある。
リッチーと言えば、何と言っても伝説の1969年のウッドストック・フェスティバルでの怪演”Freedom”に尽きるでしょう。飛行機で次の出演者が到着しないというトラブルでステージを伸ばす必要が出てきたリッチー、持ち歌を歌い尽くした末に、コンガとオープンチューニングのギターで弾き始めて口をついて出たのが満員のヒッピーを前にしての”Freedom!”の歌詞だったという…伝説の生まれる瞬間はドラマティックなものだ。そこにニグロ・スピリチュアルの”Sometimes I Feel Like A Motherless Child”の歌詞を織り込んで…
ウッドストック・エラのアイコンとして、そんな時代に一生縛られたキャリアだったのは致し方ないにしても、絞り染めのヒッピー然とした衣装、ターコイズの大きな指輪をした大きな手でザクザクと刻むストロークはフォークシンガー、シンガーソングライターとしても唯一無二の個性そのもの。ラブ&ピースの理想主義で現実を包み込もうとした、大らかさと優しさを持ったシンガーだったと思う。
60〜70年代のレコード好きにはStormy Forestというレーベルの創始者としても知られている。そのレーベルにはKris Petersonなどレイト・シックスティーズを感じさせる素敵なレコードも残されていた。黒人フォークシンガー、というと女性ならオデッタ、男性ならハリー・ベラフォンテやジャッキー・ワシントン、テリー・キャリアー、それにレオン・ビブだとか行ったところが思い出されるけれど、彼ほどまでにロック的な感性を持ったミュージシャンはいなかった。そう言う意味では、ジミ・ヘンドリクス同様、ロック・ファンに愛されたのも当然かもしれない。個人的にはボブ・ディラン30周年記念ライブでの”Just Like A Woman”のカバー、そして、1991年の『NOW』に収録されたジミヘンのカバー”Angel”がベスト・テイクかな。『NOW』にはタック&パティもカバーしたシンディ・ローパーの”Time After Time”も収録されていた。ギターは聴けないけれど、ディープ&ソウルフルなボーカル名盤として聴ける。
2008年『Nobody Left to Crown』のレビュー↓
http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100626