/ The Legendary Demo ( HEAR MUSIC / 2012 )
正直聴いてすぐの印象、コレは期待したほどではなかったかな、という。もちろん凄く貴重なデモであることは間違いないけれど、あくまでデモ、という仕上がり。かつてCSNのデモ・トラック集がリリースされたことがあったけれど、その時と同じ感覚。売れるにしてもコレがリリースされるのってどうなんだろう、という気もしてしまう。
キャロルのデモ集というと、(正規盤とは思えないけれど)アルドン・ミュージックのスタッフ・ライターとしてヒットを量産せんと意気込む時期の楽曲57曲を収めたとんでもないボリュームの『BRILL BUILDING LEGENDS』っていうシリーズだとか、古いところでは”Crying In The Rain”のデモなんかが聴けた『The Dimension Dolls』(1983年の『Speeding Time』でもセルフカバーしてました)なんてのがあったから、今回の”Crying…”や”Take Good Care Of My Baby”の収録はたいして驚かない。そもそも本作はシンガー・ソングライター期に繋がるデモっていうまとめ方。
近年のライブのレパートリーにもなっている、モンキーズに提供した”Pleasant Valley Sunday”のデモは未聴でなかなかの出来!アコギのイントロが印象的。1970年の一連のつづれおり収録曲デモはモチロン良いのだけれど、音質も含めて本編の方がそりゃ良いよね。ただ、つづれおり収録の”(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”は、遡る1966年のデモで。それこそアリーサ・フランクリンに歌ってもらいます、といった気持ちの篭もったソウルフルな仕上がり。コレはコレで貴重かな。同様、ライチャス・ブラザーズに提供した”Just Once In My Life”も1966年のデモ版。”You’ve Lost That Lovin’ Feelin””をどれだけ意識したソングライティングだったか、改めて浮かび上がってくる。
この1曲、と言われると正直”Beautiful”にグッと来た。メロディも含めて神がかっていたSSW前夜。90年代の音楽好きの若者のバイブルだったザ・シティ名義の『Now That Everything’s Been Said』、ってキャロルのソロにもない、不思議な透明感、昔リプロ盤で白黒ジャケのやつがあったけれど、ほんとモノクロームなそんな世界観。今回のデモ”Beautiful”はそれを思い起こさせるトラックで。『Now That Everything’s Been Said』の小西さんの解説に、「すごくお金をかけて作ったデモ・レコードじゃないか」っていうのがあって凄くナットクだったのだが、お金をかけてないと今回のデモ集みたいになるんだろうな。ソングライターから、自演のソングライターへと、同じデモでも自意識が違う、そんな変化を追うことも可能なドキュメンタリーになっている。そう思えばこのデモ集、悪くもないか、と思えたり。