/ The Old Magic ( yep ROC RECORDS / 2011 )
4月ですね。毎年実はあまり好きな季節ではなくて。入学、はまだ良いにしても、就職だとか、新入社員への何たら、だとかいったようなものがテレビを賑わせるこの時期。学歴社会直通で社会の荒波と言う名の、人を蹴落として金儲けするってな営みに人生を捧げるそのスタートの時期だと思うと、胸が締め付けられるような苦痛に襲われるのでありまして。まあそんな人ばかりではないと思うけれど、満員電車のスーツの群れを見るとそんな人ばかりに思えてしまう。資本主義の営みに生き辛さを感じる人には心底耐え難い時期なんでありまして。
ま、愛する音楽だってれっきとした音楽産業の一部でありまして、売れるか売れないか、という浮き沈みに直結した芸能でありますから、そんなナイーブなことも言っていられないんですがね…。
さて、気を取り直して聴いているのはニック・ロウの2011年作品『The Old Magic』。最近の風貌の老いっぷりや、アコギ一本のステージ映像なんかを見ると、相当枯れに枯れていて、かつてのロックパイルでのポップでパワフルなパブ・ロック・サウンドなんてもう聴けないのかと思っていた。
うーん、確かに枯れてはいるんだけれど、ドリーミーなコード進行は健在で、パブ・ロックって音楽が、ロックンロールだけでなくカントリー、ソウルやポピュラーも範疇に含めた、音楽愛に満ちたオールディーズ・リヴァイヴァル・ムーヴメントだったと理解できる。むちゃくちゃ心地良い音。コステロやトム・T・ホールのカバーもあるけれど自作が秀逸。まず、冒頭の”Stoplight Roses”でしょう。思わず誰のカバーかな?なんて調べてしまったけれど、れっきとしたニックの作品。こんな曲書けた日にゃあ、私なら往生できるな。”Somebody Cares For Me”はオルガンの弾む音色だけで、”Half A Boy, And Half A Man”なんかを思い出す。”Restless Feeling”なんてムーディーなコーラスや60年代のソフトロック風ヴォーカル盤を思わせて。”恋する二人”からして世代的に被ってしまう大滝詠一も、もし音楽を続けていたらこんなヴォーカル盤を産み落としていたかも。ちなみに先週放送のエルヴィスをテーマにした大滝のラジオ『アメリカン・ポップス伝』、NHK-FMで連日流すにしては結構マニアックだったけれど、また再放送してほしいもの。かつての『日本ポップス伝』が若手のポピュラー音楽研究者にも衝撃を与えた番組だったことを思うと、エルヴィスの歴史に的を当てた作りはそこまでの衝撃はなかったかな、とも思うけれど、何度も聴くと意味があるはず、なのだ。このニックの作品も、何度も聴くと意味がある。