DVDは買ったけれど、長らく積まれた状態で。いまさら観たという2009年の音楽映画『パイレーツ・ロック』。原題『The Boat That Rocked』から判るとおり、1960年代イギリスにあった船の上の海賊ラジオ局をテーマにしたロックンロール満載の映画。ロックンロールをテーマにすると言うだけで、不朽の名作『アメリカン・グラフィティ』じゃないけれど、甘酸っぱいものになることはわかっている。それにしても…良い映画だったなぁ。
若者の性の通過、ロックンロールの敵となる既成のスクウェアな価値観との対立なんてのが出てくる辺りは青春映画特有のものなんだけれど、なんともこの時代、グッと来たのは音楽への愛・愛・愛。これに涙してしまったような部分がある。BBCが一日に1時間しかポピュラー音楽を流さなかった時代、24時間営業の俗悪な海賊放送局のロックンロールとDJの悪辣な放言を閉め出すため、多くの若者を中心に熱狂させている放送局を一網打尽にしようとする政治家達。そんな政治家達に屈しようともしないDJ達の“ロックンロール!”のかけ声はそれだけで思想そのものだったし。海賊放送局を運んでいた船が難破しかけたとき、海に沈む最後までロックンロールを流し続けたってのも、音楽への変わることのない愛だったし。酒、女、ドラッグ…とどんなに生活が乱れようとも、そこは1本筋の通った揺らがない愛があった。そんな音楽愛を現代に問うている映画のような気がしてしまった。
音楽ダウンロードや不法デジタル・コピーの広まりで商業音楽の危機が現実のものとなっている昨今。デジタル・コピーというそれこそ“海賊”盤に脅かされているのが、海賊放送局に喩えられる沈みかかった音楽業界だというのは英国流の皮肉としか言いようがないけれど。無口なDJボブがレコード箱を抱えたまま船底に沈んでいき、実の息子とわかったカールがそれを救おうとするが、レコード箱を離そうとせず沈んでいくシーンなんて、レコード狂には涙無しには見られないシーンでしょう。自分の息子は捨てたのにレコードは捨てないっていう、ね。
最後は…海賊ラジオを聴いていたたくさんのリスナー達が船の危機を聴きつけ、取り残されたDJ達を助けてくれる。音楽を信じていれば、最後はきっとリスナーに救われるんだ、というのは楽観的過ぎるのかもしれないけれど、そうであることを信じたい。”The Boat That Rocked” コイツに乗り続けていくしかないでしょう!