/ This Is One Girl ( Pye / 1976 )
藤岡靖洋氏の出たばかりのジョン・コルトレーン評伝『コルトレーン ジャズの殉教者』を買って読んでいるがなかなか面白い。本場アメリカでも認められている研究家によるマニアックな作りの本だが、それを出す岩波新書も変わったと思わされる。同じ岩波からは先月、高護『歌謡曲−時代を彩った歌たち』が出たが、そちらも従来の岩波新書にはなかった路線のもの。こちらも独自の楽曲分析でマニアックな作りながら、あまり面白いとは思えなかった。北中正和『にほんのうた』という先達の労作があったからかもしれない。
さて、今日はソウル・ディーヴァの隠れ名盤を。マデリン・ベルというと、ドリス・トロイやメアリー・クレイトンなんかとイメージが被るシンガー。ダスティ・スプリングフィールドのバッキングなど、元々裏方のセッション・シンガーながら、その実力はお墨付きで、グループやソロでも名盤を残している。元々アメリカのニュージャージーの生まれだが、イギリスで日の目が当たった。ロジャー・グリーナウェイとコンビを組んだロジャー・クックが在籍し、”Melting Pot”のヒットで知られるブルー・ミンクのヴォーカリストといえば知る人にはピンと来るだろう。
『This Is One Girl』はフリー・ソウル・ムーヴメントのさなか、1999年に日本でCD化が実現した。1976年という時代が、メロウかつ割と白人好みなメロディに彩られた、ポップソウルの名盤を作らせた。正直コマーシャルな領域で成功したとは言えないけれど、今聴いても実に見事。なんといっても素晴らしいのは弾むようにポップなタイトル曲と、”We're All Alone”みたいにも聴こえる、雰囲気のあるバラード”I Always Seem To Wind Up Loving You”。他にもリーオン・ラッセル(ジョー・コッカー)の”Delta Lady”とか、KC&ザ・サンシャイン・バンドのカバー”That’s The Way (I Like It)”、クック&グリーナウェイの”I Think I’m Getting Over You”、プライス&ウォルシュにスティーヴ・ヴァリ&マイケル・オマーティアンがソングライティングに加わった”Who’s Fooling Who”など。最後にはブラジリアン・テイストがキモになっている”That’s What Friends Are For”でキマリ!