/ The Witmark Demos: 1962-1964 The Bootleg Series Vol.9 ( Columbia / 2010 )
最近ついてない日々だけれど、古本でいくらか当たりがあった。一番感動したのは友川かずき1977年のエッセイ集『死にぞこないの唄』。全く彼の内面に変化がないことに驚かされる。別れた女の名前が実名で出ていたりするあたり、大らかな時代だったのだとつくづく思う。あと、和田誠の『いつか聴いた歌』を賽銭代わりに買った古本屋で、帰りがけにユリイカのバックナンバーを発見。その中に1980年1月のボブ・ディラン特集があった。こんなのあったっけ? 昨年の現代思想の臨時増刊号でボブ・ディラン特集があったけれど(ちなみにコレ、どの論考もナットクできた。詳しくは覚えていないけれど、ディランを最後の砦として死に向かうロック・ミュージックに対する危機感なんかが、CD・レコード離れの潮流とも相俟って、痛いほどに感じられて)。そうそう、それでそのユリイカをパラパラと捲っていたら、「追悼・植草甚一」って記事を見つけた。そうか、植草さんが亡くなった直後だったんだ。絶筆も掲載されていて、一粒で二度美味しいユリイカなのであった。
もう9つ目ですか、ディランのブートレッグ・シリーズ。今回は音楽出版社であるウィットマーク社で録ったデモ・テープを2枚組47曲収めたもの。時折咳払いをしたり、雑音が入っていたりするんだけれど、それもまた生々しい。何しろ”風に吹かれて””時代は変わる””くよくよするなよ””ミスター・タンブリン・マン” をはじめ、ロック史に名を刻む名曲の数々をギター・ピアノ(ピアノが弾けることからしてもボブは中産階級!)&ハーモニカの弾き語りで聴くことができるのだから、お腹いっぱいになること必定。初期の名曲群、個人的にもフォークを愛聴する原点とも言えるモノだから、感慨もひとしおだ。既発のブートレッグ・シリーズで聴ける曲もあるけれど、まとまった形のオフィシャル・リリースは嬉しい。本作の中にある”Paths Of Victory”をディランの未発表曲、ということで、再結成バーズ(ロジャー・マッギン、クリス・ヒルマン、デヴィッド・クロスビー)がレコーディングしてリリースしてから18年になる。
ここまで言っといて、だけど、不感症になってる方いません?なんだか、夢の未発表テイク、とか言ったものに慣れすぎてしまって、なんだか以前よりも感動が少なくなっているのが、悲しくてやりきれない。そう言うとき僕は、ボーナス・トラックとやらのないレコードを、じっくりと聴き直すことにしている。それにしても、レコ買いには円高万歳だ。この2枚組が1300円くらいで手に入る。
僕の好きな音楽家は、時代を超えたイノセンスとでも言うべき一貫性を持ち続けている人。ディランは見た目こそいかがわしくなっているけれど、その瞳は違う。はじめの話に戻るけれど、友川かずきも友部正人も、ディランも、その瞳は、世の中を疑っている。