/ Reimagines Gershwin ( Disney / 2010 )
今日NHKを観ていたら、食道ガンから復帰した小澤征爾を追う、ってのがあって。妙に感動してしまった。そこに居るだけで感動する存在、なんてなかなかいない。御年75歳。その年で、まだまだ精力的にタクトを振ろうとしてるんだから、執念だよね。15キロも痩せてしまったけれど、その眼光の鋭さと、見る者を圧倒する動きはかつて以上と感じました。最後に、病気を経て「音楽は命とつながっていると気づかされた」ってなことを言っていて。音楽はあれば贅沢なものだ、などと言う人はいるけれど、そうではなくて、風呂場の鼻歌であっても、音楽は生きるために欠かせないものだ、っていう。病気を経て、しかも大舞台を経験した75歳の大音楽家が、そんなシンプルな感動を得たことに、心を動かされた。
さて、こちらもある種死線をさまよった大音楽家。ブライアン・ウィルスン。かなり顔のシワは増えたけれど、音楽に対する情熱が全く衰えていないことに驚かされる。まさに怪物。
今回は亜米利加を代表する天才作曲家であるジョージ・ガーシュウィンのカバー集。自らもソングライティングのプロ中のプロであるブライアンながら、かねてよりガーシュウィン好きを公言しており、その楽曲と自身を一体化させたような仕上がりが印象的だ。
個人的にはクラシックのような、そのファンの一部が権力性を持つようになってしまった音楽にどうしても抵抗があるのだが、ユダヤ人作曲家ガーシュウィンに関しては、ポップスとクラシックの垣根を外した功績をとっても、黒人音楽を好んで聴き、”Summertime”をはじめその作品にエッセンスを取り入れた精神を以てしても、興味が尽きない。そう言えばポール・クレイシュという人が書いた本『アメリカン・ラプソディ ガーシュインの生涯』はなかなか良い本だった。
さて、”Rhapsody in Blue”のイントロに導かれて歌われる”The Like in I Love You”を聴いて、いつものブライアン節だと思うのは当然で、それはガーシュインの未発表曲をブライアンの手で完成させたモノだから。事実上の共作ということになる。コレが又良い曲なんだが、こいつをトップに持ってきたのは、“ガーシュウィルスン”の成果を知らしめるモノともとれるし、旧来のポップなブライアンを期待するファンが、旧い作曲家に寄せる不安への牽制のようにも取れる。同じ作りの”Nothing But Love”もラストの”Rhapsody in Blue”のリプライズの手前に配置。これまた笑っちゃうくらいブライアン節。
でもでも実は本作の決め手は、”I Loves You Porgy”、”Summertime”、”They Can’t take That Away from Me”、”Love Is Here To Stay”、”I’ve Got A Crush On You”、”Someone to Watch Over Me”といったスタンダードの解釈にある。中には”I Loves You Porgy”のようにしっとりと素直に狂おしい気持ちを表現したテイクもあって。ブライアンの伸びやかな歌が良いんだな。なんだか数年前より良くなっているような気もする。”They Can’t take That Away from Me”はビーチ・ボーイズを思わせるブギ調で、ドラムスもデニスみたいにドタドタしていて面白い。”I’ve Got A Crush On You”は3連のBBバラードにアレンジ。
いやー、全く文句の付けようがないです。
先日紹介したアル・ジャーディンの新作やら、ブライアンとそっくりなジャケのワンダーミンツ(知っての通り、ブライアンのサポートをしているダリアン・サハナジャ在籍)の新作やら、カール・ウィルスンが割とロックに迫ったソロ2作目『Youngblood』のCD再発やら、合わせて仕掛けてきてますね。乗ってしまいますね。
まー、もっと言うと、ケイティ・ペリーのシングル”California Gurls”がかなりのロングヒットになってますね。ラッパーのスヌープ・ドッグをフィーチャーしているカリフォルニア賛歌。元ネタはもちろんBB。ハダカに近いネーちゃんってな感じのケイティ本人が出演するプロモは爽やかなお色気って感じで、世の男はダマされてしまいます。タチの悪い人が、歌詞やテーマがBBの"California Girls"に酷似していると音楽出版社相手か忘れましたが、訴訟沙汰にしようとしてるらしい…でも、本家BBのブライアンもマイク・ラブも、ケイティ・ペリーがお気に入りでノー・プロブレムみたいです。完全に鼻の下を伸ばしているのが目に見えて笑えます。