/ Together Through Life ( Columbia / 2009 )
加藤さんのことを考えていたら、ポピュラー音楽界の現状に対する失望が余りにも深くて。正直このブログもやめてしまおうかと考えてもいたのだ。でも唯一の希望があって。それは生演奏のアウラ(オーラ)。アナログからデジタルへの変化に従って、ほぼ複製が可能となったわけだけど、完全に所有することが出来ないのはライブ演奏だと思うし、これだけCDが売れないと言われ続けていても、ライブの動員数はそれほど落ち込んでいないと言うことがそれを証明してくれる。結局ライブに行って、観客やアーティストと感じる一体感は、ヴァーチャルに勝るんです。そんなことを感じつつ、24日に行ける事になった「ディラン」が唯一の望みでして。
そのライブに先立って、細野晴臣のエッセイ集『分福茶釜』を読んでいたら、ロックに未来がある、なんて文章がたまたま見つかった。若者の所有物と思われていたロックを60代が演奏するようになることへの期待。そして、若くなければダメ、という思い込みが強いのはアメリカや日本くらい、なんて発言も心強かった。そうだよね、民謡の世界じゃ歳を重ねた長老が若造には到底表現しえない芸を見せ付けてくれるもので。ワールド・ミュージック的観点ではそっちが当たり前なんだな、と。
で、24日のボブ・ディラン来日公演。凄かったなあ。本当に凄かった。一聴して、どう考えても「当たり」の一日と確信。毎度開演時にアナウンスされる“コロンビア・レコーディング・アーティスト”を48年も続けてきた男が現役じゃなくてなんなんだ、と言う気にさせられる。今も転がり続けている。そもそも68歳にしてライブハウス・ツアーだよ!まあ年齢がどうとかいう問題ではないのかもしれないけれど。Zepp東京はブライアン・セッツァー以来ながら、熱気はそれ以上。ぎゅう詰めの超満員だったけれど、数メートル先に動くディランを観たら失神しそうになった。
9年前の武道館でも演った”Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again”(拓郎で言うところの"春だったね"<これも一曲目によく演る>ですな)でスタートして、もう半端なく声が出ている。9年前を余裕で上回るコンディションで。しけてることで有名な94年のアンプラグドなんて、一体なんだったんだ、と思う仕上がり。しかも、笑顔を見せつつハープを吹くわ、吹くわ!殆んど水も飲まず、歌の途中でもプープー吹いて来るんだから、度肝抜かれました。ディラン自身によるキーボードも、単調な三連ソロとかに大真面目に合わせているバンドが最高で、もうロックとしか言いようが無いその演奏に涙涙…チャーリー・セクストンはかなりディランに気を遣っていて(当然か)、偉いなぁと思った。あの”Like A Rolling Stone”までをして即興演奏を挟み込まんとする、予定調和を拒むディランこそがロック!!
セットリストは以下の通り。
1. Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again
2. It Ain't Me, Babe
3. Rollin' And Tumblin'
4. Mr. Tambourine Man
5. Cold Irons Bound
6. Sugar Baby
7. Desolation Row
8. Blind Willie McTell
9. Most Likely You Go Your Way
10. Can't Wait
11. Highway 61 Revisited
12. If You Ever Go To Houston
13. Thunder On The Mountain
14. Ballad Of A Thin Man
(encore)
15. Like A Rolling Stone
16. Jolene
17. All Along The Watchtower
個人的に1・2はイントロで既にチビりそうになった。4は驚くほど、オリジナルのメロに忠実で、どうしちゃったのかと思ったくらい。声が出てるんだわ。そして7では観客のフィーヴァーが頂点に達し。そしてバンジョーが入って、マサカの8…この隠れた名曲(もはや代表曲かもしれませんが…)を生で聴けるとは!11も凄い盛り上がり。近作からは12が気に入っていたので、嬉しい選曲。アンコールは割とラフな演奏だと思ったけれど、ロックのダイナミズムを存分に感じられた。
終演後には、9年前の武道館にも一緒に足を運んだ長年の音楽仲間と感動を分かち合った。目の前にあの時と同じように立ちはだかるディランが、9年間の心境や環境の変化とどう呼応してるか、なんて話していたら、話尽きなくて…。ディランはとにかく人生と重ね合わせるに足る人物。78年のディラン初来日時にNHKで放送された名ルポルタージュ『ボブ・ディランがやって来た』(村上龍がレポーター)の再放送を見た時にも感じたことだけれど、ボブ・ディランがやって来る、というだけで、番組が出来てしまうくらい、多くの人々の人生に意味を持ってきた歌手なのだということなのだ。
音楽に失望するのはしばらくやめにしよう、と本気で思えた一晩。