/ 少年とライオン ( MIDI / 1997 )
雨降りはなんだか一日中暗くって困る。こんな日はレコードを聴くに限ると言うわけで、友部さんを聴いていた。友部さんは何度かライブでも観ているけれど、唄を聴いているだけで詩がむくむくと立ち上がってくるという稀有な人だ。ぶっきらぼうでかすれた歌声でいつも精一杯に歌っているのがとても好きだ。
1997年という彼にとってデビュー25周年を迎えた年に、彼自身が選曲した2枚のベスト盤が出ている。URCやソニーの音源も網羅された、それはそれは見事な選曲だったわけだが、『イタリアの月』よりもこのベスト盤の方が気に入っている。というのも”一本道”とともに、”朝は詩人””私の踊り子”が入っているから。
高校生の頃、テレビで1995年の”春一番”を観て、一発でファンになった。そしてリアルタイムで買ったシングルが”朝は詩人”だった。JRAのCMソングになった曲。なんてキレイな曲なんだろうと思った。今改めて聴いてみると、KYONの弾くピアノとギターのバランスがとても良い。エレキ・ギターはどんとが弾いていて。「君が歌うその歌は 世界中の街角で朝になる 君が歌うその歌の 波紋をぼくはながめてる」”朝のリレー”のようなイメージなのかなと思ってみたり。全ての人に、何があろうと訪れる朝を幾分かロマンティックに歌っている。そう、そのシングルのカップリングだった2曲も忘れられない。トーキング調の”私の踊り子”は本当に切ないラヴ・ソングだと思った。もう1曲の”夜は言葉”も長いこと耳にしていないけれど、歌詞のリフレインが蘇ってくる。
それから友部さんの歩んできた道のりを一歩一歩辿っていったのだけれど、余りに顔や目の鋭さが変わらないので怯んでしまいそうになった。贅肉を削いだ佇まいはきっと自分にも他人にも厳しく、甘えや妥協を許さない毅然とした自己にあるのかな、と勝手に思っている。