/ ひとりからふたりへ (Kaze 004 / 2009 )
いやあ、マサカのケメの嬉しい新譜。32年振りですよ!もう出ないんじゃないかと正直思っていた。音楽活動についてのニュースも余り聴こえて来なかったし。ただただ嬉しい。
元ピピ&コット、ソロになってからはエレックの看板アイドル・フォーク歌手となったケメ。当時はアイドル的な容姿もあってか、なかなか音楽的に評価を得られなかったようだけど、個人的には“メリーゴーランド”“通りゃんせ”をはじめとした童謡を思わせるドリーミーな作風と儚げな歌声に魅了された一人。ライブテイクをシングルカットしてヒットした“バイオリンのおけいこ”もフォークの良さが滲み出た佳作だった。ちょっとレコード棚を確認してみたら、『VOL.1 午後のふれあい』『VOL.2 明日天気になあれ』『VOL.3 千羽鶴』『VOL.4 時が示すもの』『VOL.5 愛そして卒業』『片便り』『羊は山に 佐藤公彦ライブ』…全て生まれる前の作ながら、結構持っていたんだなぁと改めて。『遠乗りの果て』なんて、CDも含めてなぜか3枚もあった。エレックのCD復刻も進んだし、今こそ改めてケメ再評価の時かと。
この新作、プロデュースは元ピピ&コットの金谷あつし。彼は現在大森でライブハウス“風に吹かれて”を経営しており、本盤はそこでレコーディングされたもの。販売はライブハウス“風に吹かれて”の自主レーベル「KAZEレーベル」。
気になる中身はというと…全く時代の流れを感じさせない出来に感動させられる。全曲ケメの詩曲による充実作。おそらく声でしょう。声が変わっていない。このタイムスリップ・サウンドに涙するファンも多いのでは?
バラエティに富んだ内容。冒頭M-1”コインローファー”は帯に詩の一節が紹介されていたけれど、「風さん 蟻さん 綿雲さん」なんてケメらしい詩。音は後期に見られるようになったバンドサウンド。たゆたう音世界がなんとも心地よいM-3”Road Walkin’”、ポップな感性を味わえるM-6”ワイフのサイフは茜色” やM-7”エンジェル”も良かった。M-7はバンジョーとラップスティールが入ったカントリーテイストの作。
往年のフォーク・バラードM-2”ストーブリーグ”M-4”Friday Night”やM-8”表情”、M-10”ジャンプ”には流石にグッと来る。過ぎた時を想う感傷的なM-4”Friday Night”にはしみじみとした気分になった。M-11”ほくろ賛歌”は、ケメにしか書けないラブソング。とても穏やかで優しい気分になれる。知らないうちにラストの曲、M-12”照葉”に。この曲を聴いていたら、ケメの40年近い年月が全く昨日のことのように感じられてしまう。
「ひとりからふたりへ」。32年ぶりにケメに音楽の神様を降ろしてくれた原動力と思う。これぞ音楽の魔法!是非体験してほしい。